54-(0) 中間の人
主人公というのは誰でもなれる訳じゃないが、たった一人だけだなんて決まりは無い。場
所を変え、時間さえも飛び越して、それぞれの物語が在る。それぞれがそれぞれに、人知れ
ず紡ぎ続けている。
「さぁ皆、そろそろ追い込み掛けるわよ!」
『はいっ!』
学園内文化部棟、新聞部部室。
部長・百瀬恵を始めとした所属の生徒達は、来たる文武祭に向けて特別号を作ろうとして
いた。彼女の掛け声で面々のテンションは上がっており、寄り合わされた机の上には大量の
取材資料が積み上げられている。
「やっぱり、うちの有力部のインタビューは欠かせないわよねえ」
「ああ。それに、クラスの出し物だって馬鹿にならんぞ? 設営が始まってみなきゃ確実な
ことは言えないだろうが、コンセプトが受ければ化ける。それこそ、うちの得点増に直結す
るしな」
「いやいや、話題性で言えばやっぱミスコンでしょ? 去年出た子達もそうだけど、今年入
った一年生にも、結構可愛い子ちゃんがいるぞ?」
学内ではちょうど、各クラスや文化部系の出展準備が進んでいた。運動部系の対抗戦につ
いても、先日出場校総出の抽選会があったばかりだ。恵自身も高等部三年。今回の一大イベ
ントが終われば引退し、受験勉強の方へと集中してゆかなければならなくなる。
「……」
特に今年は、春先から様々な不可解事件があった。巷に広く知られるようになるほど表沙
汰になった。電脳生命体こと越境種。個人的にも伯父の仇でもある奴らを白日の下に晒して
くれたのは、他でもない守護騎士──睦月達だ。
加えて今回は、元玄武台生の由香が転入して来て初の大型イベント。これまで散々アウター
絡みの事件が頻発し、荒れた世の中を少しでも立て直したい。彼女は勿論、今も不安を抱
いて悶々としているであろう皆の“復活”をアシストを目指して……。
特別号の作成を前にこちらが語った志に、部員達も快く頷いてくれた。意気揚々と各々が
集めてきてくれた取材結果をどう紙面に配分するか? その話し合いが続けられている。
(メグ。解っているとは思うが……)
(大丈夫よ。こっちが怪しまれるような記事は書かない。あくまでこれは、文武祭の特集だ
しね)
皆が活発な議論とレイアウト・推敲作業を進めている中、こっそりとアイズの“眼”が恵
の陰に出てきて言った。彼女もひそひそ声、一瞥を向けて彼に応じ、一人内心緊張した面持
ちを隠している。
……彼女、七波由香を文武祭で励まそう、楽しませてあげようというのは実際の所方便で
しかなかった。何せ自分達は既に、彼の“眼”でもって彼女ら──筧刑事と額賀二見の三人
が、改造リアナイザに手を出したことを知っている。どうやら特殊なハプニングによって、
一つの力を三人で使い回して戦っているようだ。
獅子騎士──確かそんな名前だったと記憶している。その目的がアウター達の殲滅なら、
守護騎士こと対策チームの皆とも協力したっていい筈なのに、彼女らは寧ろこれを突っ撥ね
ている。敵対している。まぁこれまでの経緯、それぞれがそれぞれに、彼らとの関わりを経
て大切なものを失っているのだから、心情的には解らなくもないのだが……。それで利を得
るのは、結局“蝕卓”の側だろうに。
恵は正直、もどかしかった。
個人的には守護騎士──睦月達を陰ながら応援したいにも拘らず、彼らを取り巻く状況は
確実にジリ貧へと向かっている。個々の事件での実害ないし不満、七波沙也香拉致殺害事件
に加え、中央署での一件以降進まぬ政府との共闘話に、人々の批判や不満は現在進行形で募
っていた。燻り、再び爆発する瞬間を望んでいる節さえあるように見えて仕方なかった。
(三条君、睦月君。あんた達一体、何をしてんのよ……?)
自身の机で頬杖を突いたまま、彼女は内心そう嘆くしかなく──。




