表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-53.Trinity/第三極と綻ぶ絆
403/526

53-(0) 三つ巴の獣

「トリニ……ティ?」

 惨劇に落ちた病院の外、手負いのマリアを一気に畳み掛けようとしていた睦月らの下に現

れたのは、思いもよらぬ乱入者達だった。司令室コンソールの向こうの皆人らも、思わず目を見開いて

いる。

『……どういう事だ? 何故あの二人が──額賀二見が一緒にいる?』

 変じたのは赤・青・黄、三色の獅子を象った騎士甲冑。

 筧と二見、由香。ただこの三人が現れただけだったならば、まだ分からなくもなかった。

彼らは皆、何からの形で自分達対策チームと関わりを持ってきた者達なのだから。

 しかし……三人がまるで守護騎士ヴァンガードのように、パワードスーツ姿に身を包んだとなれば話は

別だ。少なくともその力は、考えうる限り最も厄介な出元であると思われるからだ。避けね

ばならなかった。

 急いで解析を! 萬波や香月、研究部門の面々は、次の瞬間弾かれるようにめいめいのデ

スクへと飛びついていた。皆人らを含め、脳裏に駆け巡ったこの仮説を確認する為である。

その間にも睦月や冴島、仁に黒斗、現場の状況は刻一刻となだれ込んでゆく。

「退いてろ。後は、俺達が始末する」

 赤の獅子騎士──筧はそう短く言い放つと、両腰に下がっていた一対のパーツを手早く組

み立てた。取っ手付きの円筒と、三方十文字に分かれた円筒。両者を真っ直ぐ一本に繋いで

取っ手を手前に捻った瞬間、先端から迫り出したエネルギー塊が大きな刃──剣へと変わっ

て固着する。

 睦月達が止める暇さえなかった。直後彼はダンッと地面を蹴り、一気にこちらの合間を縫

ってマリアへと肉薄。引き離すようにして幾つもの斬撃を叩き込む。

 そのパワードスーツの色彩と同じく、刀身や甲冑から漏れるのは炎。辺りの空気を熱が少

なからず歪ませ、ぼやけたように見せる。マリアもマリアで、この突然割って入ってきた敵

に対し、何とか反撃しようと試みる。

「ガッ……!? 調子ニ……乗ルナッ!」

「本間翼ヘノ回路パスガ途絶エタカラトイッテ、能力自体ハ……!」

 何度目かの斬撃。それをマリアは敢えて肩ごと受けて捉えた。肉を切らせ、骨を断とうと

したが──逆に利用されてしまった。筧ことブレイズのエネルギーをその吸収能力で奪い取

ろうとした直後、寧ろ熱と共に奪い返されてしまう。

「悪いな。てめぇの能力はもう、把握済みだ!」

「グエッ?!」

 続けざまに叩き込まれた一閃。マリアは弱った身体と隙を突かれて盛大に吹き飛び、アス

ファルトの地面の上で仰向けになって悶絶する。睦月達も一瞬、何があったのか理解出来て

いなかった。

「筧さん!」

「吸い取り返した……? あの力は、一体……?」

 熱量掌握。それが筧の、赤の獅子騎士トリニティ・ブレイズの能力だ。熱を生み、或いは奪って操る。同じく吸

収系の能力を持つマリアにも、その効力は例外ではない。

 何故筧刑事達が? 睦月らは混乱していたが、少なくとも目の前で起きた変身じたいは解る。彼

らも改造リアナイザに手を出したのだ。このまま好きにさせる訳にはいかない。間合いの空

いた彼へと、急ぎ駆け寄ろうとするが……。

「額賀!」

 だがそれを防いだのは、もう一人の獅子騎士、二見ことブラストだった。青い騎士甲冑の

ようなパワードスーツ姿に身を包んだ彼は、筧からのそんな合図に両腰のパーツを組み立て

て棒状に。筧のそれとは逆方向に取っ手を捻ると、中心からエネルギー塊のシャフトが伸び

た杖を握り締める。

「どっ……せいっ!」

 するとどうだろう。次の瞬間、彼がこの得物を振り回しながら柄先をガンッと地面に叩き

付けると、そこを中心として青い冷気のような余波が睦月達を襲ったのだ。

 思わず駆け寄ろうとした足を止め、手で庇を作って風圧に耐える四人。

 しかしこれと同時、面々の動きはその意思に反して“ゆっくり”になっていた。驚愕する

表情さえスローモーションになる睦月達を、EXリアナイザの中からパンドラが目撃して叫

んでいる。

『こ、これは……まさか!?』

「そのまさかさ」

 物質遅滞。それが二見の、青の獅子騎士トリニティ・ブラストの能力だった。対象範囲を“ゆっくり”にし、動

きを封じる。冴島隊B班を襲った異変と全く同じ効果だった。或いはその作用の一環で空気

中の水分すらも凝結させて冷気に──氷へと変えて攻防に利用する事ができる。

 杖の両端から冷気を纏わせつつ、二見は筧に加勢して更にマリアを追い詰めた。今度は熱

ではなく氷でその手足を凍て付かせ、回避を抑え込む。その隙に筧が高熱を込めた拳を腹に

叩き込み、再び病院側の方へと吹き飛ばした。

「……では、仕上げです」

 更に残る三人目、七波由香も準備を整えていた。両腰のパーツをL字型に組み立てて銃身

に見立て、先端三又の左右から弦を展開。まるでボウガンのようにこれを構え、ちょうど階上の踊

り場窓からこの一部始終を見ていた國子や海沙、宙、及び本間颯に狙いを定めたのである。

『──ッ!?』

 直後、躊躇いなくひかれた引き金。数発の電撃の球が射出されたのを見て、國子達は咄嗟

に颯を庇いつつ避けようとしたが……同じく“ゆっくり”の範囲内に巻き込まれた彼女達は

思うように動けない。結果、最初の一発は彼女らを隔てていた窓硝子を破り、残る二発は他

でもない颯を直接襲う。

「あ……れ? 別に……痛くも……何とも……??」

 されどダメージは無い。しかし、油断したその直後から「仕上げ」は始まっていた。全身

をバチバチと、帯電の光が覆ってこそいたが、颯自身には特に変化はなかった。本人や國子

達が戸惑っている中で、由香は更にもう一発。近くのベンチを目掛け、この帯電させる電撃

球を放ったのだった。

「がっ?!」

 するとどうだろう。次の瞬間、彼の身体は瞬く間にこのベンチに向かって吸い寄せられて

ゆくではないか。「本間さん!?」海沙や宙が止める間もなく、この召喚主の男性は自分達

の手元を離れ、病院外の現場へと引き摺りだされていった。ビタンッ!! まるで磁石のよ

うに引き寄せられ、強力にくっ付く。國子や司令室コンソールの皆人、この一部始終を目の当たりにし

た仲間達がハッと気付いて言う。

『……そうか、磁力か! あの光球は、包んだ対象ものを磁石に変えるのか』

 磁力付与。それが由香の、黄の獅子騎士トリニティ・ブリッツの能力だった。S極かN極、どちらかの磁場を相

手に与え、吸引と反発の力でもって攪乱する。

 筧さん、額賀さん! 由香は二人の仲間に呼び掛けていた。キッと気丈に、手筈通りに。

 彼女はボウガン型に組んだ得物を片手に、これの銃底から延びるスイッチを引いた。スラ

イドしてまた元に戻りつつ、ボウガン及び騎士甲冑のパワードスーツ姿に黄色いエネルギー

の奔流が迸る。「おうよ!」二人に吹き飛ばされたマリアも、同じくベンチの方へと転がさ

れていた。筧は指先でなぞり、赤く熱を帯びる刀身を。二見は杖全体に冷気を巡らせ、回転

させてから再び地面へ。彼らはそれぞれの必殺技を発動する。

「……ッ!?」

「ひぃっ──?!」

 連続の剣閃が描く炎の獅子はマリア本体を、足元を這って進む冷気の獅子はマリアと颯、

両者の身動きを封じて襲い掛かった。ボウガンから大きくチャージして放たれる電撃の獅子

は一方で、的確にその改造リアナイザだけを狙って抉り取る。

『ぎゃあああああああーッ!!』

 故に断末魔。直後この実体化寸前まで進んだアウターは、あと一歩の所で自身の召喚を潰

されて永久に消滅した。三人の大技、風圧の余波で颯も吹き飛び、白目を剥いて遂に意識を

手放してしまった。辺りに立ち上った煙や土埃が晴れるまで、掛けられた“ゆっくり”の効

果が解けるまで、睦月達は呆然とその場に立ち尽くすしかない。

『……凄い』

『ええ。だが間違いなく、あの力は……』

 司令室コンソールの皆人や萬波、香月らも、同じく硬直したままでこの一部始終を見ていた。とはい

えそこに込められていたのは、単なる驚愕だけとは限らない。

 じっと筧と二見、由香が、マリアの撃破を確認してからこちらを見遣ってきた。睦月と冴

島、仁が、思わず“ゆっくり”なままで身構えようとする。

『……』

 ただ彼らが狙っていたのは、あくまで四人目──黒斗ことユートピアだったのだ。

 数拍、妙な間があってからの、明らかに害意を向けてこちらに駆け出した三人。それぞれ

の得物を引っ下げて、この睦月達の側に立っている個体アウターを引き続いて攻撃しようとする。

「えっ……?」

「ま、まさか。彼らは」

「おい! 止め……止めろォォォーッ!!」

 尚も“ゆっくり”の効果が続いている睦月達には、どうする事も出来なかった。意識の上

でそう叫ぼうとしても、動こうとしても、言葉は酷くスローモーションで鈍い。次の標的と

された当の黒斗も、静かに目を見開いたように見える。

「……っ!?」

 鈴付きの鉤型杖を両手で握り締めたまま、同じく思うように動けない黒斗。

 筧ら三体の獅子騎士は、残るこのもう一人のアウター・ユートピアを倒すべく、彼を目掛

けて襲い掛かり──。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ