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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-51.Brothers/其の始まり、此の始まり
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51-(2) 次へと挑む

 その理由は、応答を待つまでもなく本人の口から聞かされる事となった。これと同じ日の

の放課後、睦月達対策チームの面々は、電脳研の部室に集められていた。やや遅れて姿を見

せた皆人に対し、仁や宙などは早速質問を浴びせかける。

「やっと来やがったか。おい、三条。昼間の件、どうしたんだよ? お前らしくもねえ」

「そうだよ。人一倍正体がバレないよう、普段あれこれ口酸っぱく言ってる皆っちがさ?」

「僕達をわざわざ部室に呼んだってことは……やっぱり?」

「……ああ。最初に訊いておくが、お前は先日から起きている“衰弱事件”を知ってるか?

尤もこれは、あくまで便宜的な名前に過ぎないが……」

 二人の後に若干おずっと、それでも長年の付き合いから大よそ見当がついていた睦月。

 されど当の皆人は、仁や宙以下仲間達の質問に答えるよりも早く、別の質問を返してきて

いた。「衰弱事件?」睦月がにわかに出てきたその単語に、思わず小首を傾げる中、仁が眉

間に皺を寄せながら言う。

「うん? あれって、まだ他にも被害が出てたのか?」

「? 大江君……知ってるの?」

「ええ。少し前、ネットに記事が上がってたんスよ。何でもただの傷害じゃあなく、まるで

栄養をごっそり吸い取られたみたいに、衰弱した人間が倒れてたとかで……」

「ああ、それだ。先日からこの飛鳥崎市内で次々と、同様の事件が報告されている」

 最初は何の話だろうと頭に疑問符を浮かべたが、ネット──アングラ界隈に詳しい仁も多

少耳には挟んでいたらしい。同じく小首を傾げる海沙に、彼は未だ緊張して答える。皆人が

そんな彼の言葉を継いで、事件の概要を話し始めた。

「今大江が話した通り、被害に遭った者は皆大きな外傷はなく、しかし酷く衰弱した状態で

発見されている。幸いどのケースも救急搬送され、回復に向かってはいるようだが……」

「うーん? 集積都市のど真ん中で栄養失調?」

『ちょっと考え難いですねえ』

「この前の廃ビル群とか、開発から遅れた地域ならまだあり得るかもだけど……。そんなに

あちこちで起きてるの?」

「報告自体はな。ただ似た症状というだけで、未だ被害者の共通点などは不明なんだ。だか

らか当局も、公表するかどうか迷っている」

 曰く司令室コンソールから皆人のデバイスに、件の事件群について適宜報告が上がって来ていたのだ

という。昼間のホームルームで豊川先生に見つかった時も、その情報をチェックしている最

中だったそうだ。仕事熱心というべきか、歳相応の青春に興味が無さ過ぎると嘆いてやるべ

きなのか……。

 少なくともその手口の異様さから、アウターの仕業である可能性は少なくない。

 自身が司令官を務める対策チームとしても、目下詳細を調査。情報を収集させている段階

なのだという。

「被害者同士を結び付ける繋がりは、まだ見えない。ただこれまで明らかになった発見現場

の多くが、飛鳥崎の東側に集中している」

「東側……?」

「市庁舎とか、お金持ちの家がいっぱいある方向だね」

『そう言えば、清風女学院もあちら側でしたねえ。藤城さん、元気にやってるでしょうか』

 睦月や仁、海沙や宙、旧電脳研のメンバー達も思わず小首を傾げる。懐かしんだ。自身の

デバイスから地図に落とし込んだ一覧を呼び出し、見せてくる皆人に、睦月のデバイスの中

で待機するパンドラも言う。

「……藤城先輩かあ。そうだね、今頃どうしているかなあ?」

「えーっと? 清風に通ってるお嬢様、だっけ? その頃はあたしも海沙も、対策チームの

事は知らなかったけど……」

「前におばさまや萬波さんから聞いたよ。むー君達と一度、一緒に戦ったアウターの召喚主

さんなんだよね?」

「うん。少なくとも僕達の知る限りじゃ、他人に危害を加えるような人じゃなかった。あく

まで先輩を狙ってた別のアウターを、倒すまでの期限付きだったけど」

 ムスカリ・アウターとの一件を含めて、二人が対策チームに加わるまでの経緯は、それと

なく司令室コンソールの皆から聞かされてきたとのこと。

 睦月は胸ポケットのデバイス内で浮かんでいるパンドラと共に、この幼馴染の少女達に苦

笑いを零しつつ答えた。一瞬他の異性に言及して良かったのだろうかと思ったが、どうやら

例の二人──淡雪と黒斗のロマンスの方に関心が向いているらしい。

「まあ、あいつらに関しちゃ大丈夫だろう? 奴の強さは実際に俺達も目にしてる。直接ぶ

つかりさえしなきゃ、自分から面倒を起こすメリットもないしな」

「ああ。だが現場が集中していることから、犯人も周辺在住である可能性は高い。或いは犯

行時の拠点が、近くにあるか、だが……」

「どうなんだろ? わざわざ離れた場所から足を運んで、犯行に及ぶものなのかな? 理由

だって分からないんだし……」

「少なくとも、用心するに越した事はないでしょうね」

 それでも皆人ないし國子は、この一連の事件に対し、警戒を怠らない。それは何も相手が

アウターかもしれないという可能性以上に、清風にはもう一人の元召喚主・東條瑠璃子がい

るからだ。

「実際まだ判断材料が足りなさ過ぎる。考え過ぎではあるかもしれんがな……。しかし同じ

元召喚主の一人である八代直也が、大江への復讐に燃えて再び改造リアナイザに手を出した

例もある。可能性を排除するべきじゃない」

「……」

 十中八九当てつけではなく、敢えて引き合いに出して睦月達の用心を喚起したかったのだ

ろう。皆人はちらっと眉を顰める仁を見遣り、そうまだ仮定の段階だと断りつつも、國子の

言葉に話を繋げた。無知は恐れである。恐怖である。こと自分達対策チームにおいては、そ

の対応が間に合わなかったがために、どれだけの人間が犠牲になってきたか……。

「職員達には引き続き、情報収集を行わせてゆく。それと併せて睦月、お前達には一度現場

周辺での調査をして来て貰いたい。アウターか否かも含め、その正体だけでも目星を付けて

おきたいんだ」

「う、うん。分かった」

「まあ……そういう事なら」

 即ち、用件とは出撃それである。

 元より部外者を近付けさせない為の隠れ蓑・部室に集まり、睦月以下アウター対策チーム

の面々は、新たな事件の臭いを確かめるべく動き出した。

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