51-(0) 越えてでも
最新鋭のAR技術を駆使した育成型対戦ゲーム・テイムアタック。及びその専用ツールで
ある短銃型装置・リアナイザ。
一時は巷のコアなゲーマー達を夢中にさせたものの、他でもない製造・販売元たるH&D
本社のリチャードCEOにより、事実上の終焉を迎えた。
だが……そうして“禁制”の品になったからこそ、人々は考える。水面下で尚蠢く者達が
いる。
中央署の一件を経て、件のツールが電脳生命体なる怪物達の苗床となり得る旨は、広く知
れ渡るようになった。人によってさほど信を置いてはいないにせよ、政府が公式にその存在
を認めた点も大きいのだろう。要するに関わり合いになれば、碌な事にならないと判ってい
るのだ。
にも拘らず、一方で彼らは考える。もしそんな人外の力を借りられれば、終ぞ果たせなか
った思いも現実のものとなるのではないだろうか? と。
何としても──たとえ法や倫理を犯してでも叶えたい願い。それは極論、少なからぬ人々
が抱えているとも言える。問題はそういった良識の枷を、一線を越えて行動してしまえるか
否かなのだから。何も彼らを衝き動かす原動力は、「悪意」故の願いとは限らない……。
「だ、誰かいないのか? 来たぞ! 約束通り、例の物を俺に寄越してくれ!」
水面下での変化。それはアウター及び改造リアナイザの、一層のアングラ化だった。中央
署の一件以降、それでも件のツールを求める者達は、人知れず“窓口”とされる存在と接触
を図っていたのだった。
昼間でも薄暗い、街の暗部──雑居ビル群の谷間。
そこへ独り、おずおずと足を運んで来た一人の青年が、未だ見えぬ取引相手へと呼び掛け
て言う。
「──分かってるよ、そんなデカい声出すな。気付かれるだろうが」
するとどうだろう。次の瞬間暗がりの一角から、何者かの声が返ってきた。青年が思わず
ハッとなって振り向くと、そこには荒くれ風の男と酷い肥満の大男が立っている。良くも悪
くも目を見張る二人分の人影が、気付けば音もなくこちらへと歩いてくる。
「ようゴゾ。あんたは正直者で……幸運だァ」
言わずもがな、人間態のグリードとグラトニーだった。“蝕卓”七席にして、かねてより
改造リアナイザの売人を務めている二人組である。喉まで肉に塗れたグラトニーが決め台詞
のように、舌っ足らずな口調で言う。
ほらよ。そして青年へと十分近付くよりも前に、グリードが手にしていた改造リアナイザ
を一つ、彼へと放り投げた。それが自分の求めていた品だと知り、一瞬慌てつつも咄嗟の反
応でキャッチ。両手に包み込んで受け取る。
「こ、これが……苗床のリアイナイザ」
何より呟くその目には、確かに動揺と一抹の興奮が滲んでいた。
「おうよ。じゃあ確かに渡したぜ? 精々上手くやるこった」
「頑張ってネー」
禁制の闇取引。だが人々がそれらを求める際、彼らは別段金銭を要求したりはしない。既
に知る者は知っているように、彼らの目的はあくまで苗床の──アウターこと電脳生命体の
増殖にあるからだ。ヒトの欲望、負の感情に付け込み、その個体数を増やす。同胞達の進化
を促す……。
荒くれ風の男と、肥満の大男。グリードとグラトニーは引き続き言った。
同じくこれも、予め取り決めた台詞であるかのように。既に青年に対して半ば興味と用件
を失い、ヒラヒラと片手を振って、暗がりの中へと再び踵を返しながら。
「引き金をひけ。そうすりゃあ……お前の願いは叶う」




