50-(0) 幕間・冴島隊
時は少し前、七波沙也香の告別式が行われた日の昼間に遡る。
冴島及び同隊A班──由香への刺客騒ぎのため、一旦司令室に戻っていた面々は、ようや
く異変の現状を発見していた。自分達が留守の間、筧の監視・警護を任せていたB班の隊士
達が、変わり果てた姿でそこに在ったのだ。
『ヴぁ~……』
場所は飛鳥崎の郊外、北西の外縁部。当初連絡の途絶えた地点から、大きく離れた路地裏
の一角だった。そんな人目の付かない物陰に押し込められ、彼らは酷く“ゆっくり”な動き
のまま、ろくに会話も出来ずにいたのだった。
「……何なんだ、これは」
「じ、自分にも分かりません」
「右に同じく……」
故に冴島達も、大いに困惑する。呟く彼に、傍らのA班隊士達も答えが見つからない。
確かにB班は、筧刑事の動向をチェックしていた筈だ。なのに当の本人の姿は此処にはな
い。一体何処に行ってしまったというのか? 隊士達が「と、とりあえず運び出そう」「い
くぞ。いっせーのーせっ!」と、数人がかりで彼らを動かそうとしたのだが……罹っている
“ゆっくり”の影響なのか、妙に重くて苦戦している。
加えて彼らのデバイスは、その調律リアナイザごと破壊されていた。辺りに残骸が捨てら
れたままになっている。
十中八九、時間稼ぎを意図しての行為だろう。これでは記録を確かめる事も出来ない。
司令室に持ち帰ってサルベージを試みたとして、はたしてどれほど復旧させられるだろうか。
(何がどうなっているんだ……? 皆に一体、何があった?)
普段温厚な冴島も、流石に険しい表情をしていた。辺りに転がっていた人・物、異変の様
子を注意深く眺めながらも、その一挙に流れ込んできた情報量に困惑している自覚があった。
努めて冷静に。
少なくとも犯人は、こちらの装備なり内情を、相当程度知っていると思われる。
「落ち着くんだ、皆」
“ゆっくり”化した同胞達を、わちゃわちゃと運び出そうとする隊士らに振り向きつつ。
冴島は告げた。まだ彼らに何が起こり、自分達が何を見落としているのかも分からない。
それでも尚自分達に出来ることは、今考え得る最善手──もつれた事実の糸を一つ一つ解い
てゆく作業を怠らないこと。ただそれだけだ。
「彼らの搬送は、人手があれば何とかなる。僕から司令室に連絡して、寄越して貰うよう頼
んでみるよ。その間に皆は、彼らの足跡を可能な限り調べてくれ。向こうにも、定期報告の
記録は残ってるだろうけど……もっと線と線を詰める作業が必要だ」
『了解!』
それまで狼狽えていた隊士達の目が、明らかに力強さを取り戻した。自身のデバイスを取
り出す冴島を視界に、それぞれが何人かのグループに分かれ、聞き込みや捜索の割り振りを
その場で話し合ってゆく。
「……」
通話の向こう、拠点へとコールされる効果音を耳にしながら、冴島は直感していた。
少なくとも只事ではない。これはアウターに起因する、何らかの力だ。




