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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-6.Vanguard/新たな都市伝説
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6-(0) 家族会議

 時を前後して。彼らはじっと事の一部始終を見つめていた。

 窓も見当たらぬ薄暗い部屋。そこでも彼らが視覚を保っていられるのは、他ならぬ壁面に

ぶら下がったこの一部始終の映像が放つ光が故だ。

「ふぅむ……」

 映し出されていたのは、とある夜半の駅前だった。

 飛鳥崎北部の玄関口・千家谷。映像の中ではその駅舎や周辺のビル群が次々に爆発を吐き

出し、飛び散る火の粉と瓦礫に居合わせた人々が逃げ惑っているさまが記録されている。

『──』

 そして映像は更に、ついっとフォーカスされた。

 爆発現場。そのすぐ近くのビルの屋上で、筋骨隆々とした怪物を引き連れた男が何やら狂

ったように肩を震わせながら笑っている。

「……流石にこれは、やり過ぎよねえ」

 薄暗い室内。うちゴスロリ服を着た少女がそう開口一番、呆れ気味な感想を口にした。

 他の同席者達も、多くはその意見に同意だった。人数は七人。上座に立ってこの壁面の映

像の横に立っている白衣の男を含め、ぐるりと付けた事務テーブルにはそれぞれ三対──六

つの人影が座っている。

「ボマー、でしたか。彼を与えたのは?」

「ああ。俺だ」

 ローブのような、黒い衣を纏った眼鏡の男性が問い、如何にも不良といった感じの柄の悪

そうな青年が答えた。あまりにもしれっと、悪びれた様子のないその言い方に、他の面々か

ら無言の批判が飛んでくる。

「やはり貴方ですか……。もう少し相手を見極めてからにしてください。百歩譲ってあれが

繰り手ハンドラー”の願いだとしても、街を──インフラを破壊されるのは我々としても困るのですよ」

「んな事言われてもよぉ……。あの眼ならイケると思ったんだ。素質はあると、思ったんだ

がなあ」

 眼鏡の青年からの咎。あまり反省した様子でもない柄の悪そうな青年。

 面々は彼に目を遣りながらも、それでいて説教に加勢しようという様子でもなかった。

 薄く目を開けている、黒スーツの寡黙な青年。

 横柄に両腕を組んでじっとこの二人のさまを睥睨している男性。

 更にこの青年の隣席でボリボリと、同じくらい関心が薄そうにポテチの袋を脇に抱えて食

べ続けている肥満の大男。

 先のゴスロリ服の少女を含めて六人。こうして同じ場所に集まっていながらも、それでい

て彼らは積極的なつながりで此処に在るという風には見受けられない。

「それでも、程度の問題です」

 はぁ……。眼鏡の男性が半ば諦めたようにため息をつき、そっとそのブリッジを軽く押さ

えて気分や話題を切り替えていた。

 横柄な男と、ゴスロリ服の少女がそれぞれ無言の侮蔑や呆れと共に頷いている。

 一方で、当の柄の悪そうな青年はほじほじと耳の穴に小指を入れてマイペースに垢を取っ

ていた。そうかよ。辛うじて言葉の上っ面だけは従順で、だけどもふぅっと指先のそれを息

を吹きかけて片付けてしまうなど、彼が本当に反省しているかどうかは果てしなく怪しい。

「まぁまぁ。ここで僕らが喧嘩していても仕方ないよ。既に同胞の一人は託された。その行

く末がどうなろうとも、僕らは僕らでただその子らが育つのを守るだけさ」

 そんな時だった。壁面の映像横に立っていた白衣の男が口を開いた。

 気持ち撫で付けた薄めの金髪。頬は痩せ気味で、そう言って微笑わらう顔つきには何処か底知

れぬものすら感じられる。

 ヴゥゥゥン……。静かに、彼らの背後には巨大なサーバー機が並んでいた。

 部屋の奥、映像が流れている壁面の左右から延びる階段の上。映像からのそれには到底及

ばないが、これらは彼らが事件の一部始終を観、会話を交わしている間もじっとただ只管に

駆動し続けている。

「……さて、決を採るよ。彼の粛清に賛成な子は手を挙げて」

 そして促す。用いた言葉の不穏さとは裏腹に、この白衣の男は変わらず一見穏やかだ。

 一人、二人、三人──六人。結局彼を除く全員が手を挙げていた。

 うん。白衣の男はそれを確認して小さく頷き、遅れて自身もすいっと手を挙げて七人目の

賛成票と為る。

「決まりだね」

 全会一致。

 薄暗く仄暗く点る明かりの中、彼らは何時ものように動き出した。

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