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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-49.Madness/その男、再演
372/526

49-(0) 加害者X

 中央署の一件の後、その姿は瞬く間に拡散されることとなった。巷の人々に、その存在が

広く知れ渡ることになった。

 守護騎士ヴァンガードである。白亜から黒鉄色のパワードスーツへ。一見して主なき等身大のコンシェ

ル達と共に、電脳生命体こと越境種アウターらの頭目が一人・プライド一派と対峙している。署内か

ら飛び出し、手前の広場にて繰り広げられた先の戦いだ。

『……』

 そんなネット上の映像の一つを、彼は観ていた。暗がりの室内、デスクトップPCの画面

からの明かりだけを、少年はじっと見つめている。

 ただ、その眼差しは──驚愕と呼ぶにはどうにも噛み合わない。

(……なん、で?)

 姿形こそ人間ではなかったものの、声で分かる。多少記憶にあるそれよりもくぐもって聞

こえはしたが、確かに引っ掛かる。何より見覚えのある個体達が、この非日常を現実に引っ

張って来たような面子の中に交っていたからだ。

 やっぱり間違いない──あいつらだ。

(何でだよ……?)

 あの時俺達を叩きのめした、変てこでデタラメな奴だ。確か守護騎士ヴァンガードといったか。詳しい

情報はこっちに来てから知ったが……自分にはもう憎い気持ちしか湧いて来ない。少なくと

も己にとっては“理不尽”の象徴だったから。

 いや、何より疑問なのはあいつらだった。怒りが込み上げてくる理由は、そこに奴らが居

たからに他ならない。

 ……大江の野郎、いつの間にか連中の仲間になってたのか。こっちはそいつらにボコボコ

にされたっていうのに。元は同じ、電脳研のメンバーだっていうのに。

 ふざけるな。ふざけるな! 何でお前らが?

 てめぇら、何をしれっと「海沙さん」と仲良くなってやがる……??

(許せねえ……)

 かくして少年は、恨みを募らせる。思いは日々深くなる。

 画面の向こうでは、プライドらを追い払って勝利を収め、まさに“英雄”となった睦月こ

守護騎士ヴァンガードと対策チームの仲間達が映っていた。あの日あの場所で巻き起こった人々の歓声

が、映像の中で轟いていた。

(許せねえ……!!)

 俺をダシにしてお近付きになりやがって。俺一人を除け者にしやがって。

 ギリッと、彼は強く強く歯を噛み締めていた。独り暗がりの部屋の中、再生される映像を

睨みつつ、やがてその瞳に赤く暗い炎を宿して。

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