48-(0) 方向転換
「リアナイザを、持っていない……?」
突如として魔女型のアウターと、その召喚主と思しき女性に襲撃された睦月達は、彼女ら
相手に有効な攻め手を見つけられないでいた。
炎や雷、冷気に風刃。多彩な攻撃を持つ魔女を一旦諦め、睦月はEXリアナイザの銃口を
彼女に向けようとしたが──当の本人の手には、改造リアナイザはおろか、鞄の一つも下が
っていなかったのだった。こちらに向けてくる眼差しだけは並々ならぬ敵意に満ち、しかし
自身は丸腰と呼んでも差し支えなかったのである。
(……ど、どうする?)
目に映った光景・事実に、睦月は思わず戸惑う。引き金をひく訳にはいかなかった。
アウターの苗床である改造リアナイザが見当たらないという事は、彼女が召喚主ではない
可能性がある。つまりは別の誰かなのか? 或いは既に実体化を果たしているのか?
ただ少なくとも、睦月にはこの二人が阿吽の呼吸であるように思えた。怒り狂うさまを始
めとして、その湛えた“感情”はお互いに酷似している。
何よりも……彼女は明らかに生身の人間なのだから。
「アアアアッ!!」
しかしそんな隙を、ウィッチは見逃さなかった。睦月が彼女にみせた躊躇いを、絶好のチ
ャンスと捉え、右掌に炎を集束──鞭状に変えてぶつけてきたのだ。
「ぐがッ?!」
「佐原!」「睦月君!」
そのやや斜めから割り込んできた一撃を、守護騎士姿の睦月はもろに受けてしまう。仁や
冴島、仲間達が思わず血相を変えて叫ぶ。隊士達のコンシェルらも何体か巻き込みながら、
睦月はビル壁の一つに叩き付けられた。鈍い衝撃音と共に、大きな陥没を作ってひび割らせ、
ぐったりとその場で項垂れる。「フゥゥ! フゥゥゥーッ!!」女性とウィッチが、勝ち誇
ったように口元を歪め、或いは再三狂気のままに吼えていた。
「おい、佐原! お前ら! しっかりしろ!!」
「拙いぞ……。彼が崩されたら、僕達は……」
絶体絶命のピンチ。止めだと彼女に呼応し、ウィッチが両手に雷のエネルギーを集める。
『司令』
だがちょうど、その時だったのだ。次の瞬間司令室の向こうで、職員の一人が皆人に報告
を上げる声が聞こえてくる。緊張気味のそれが、気持ち通信越しの睦月達からも大きく漏れ
聞こえて響くようだった。
『七波由香の居場所が判明しました。北大場三番地二十七──廃ビル群の一角です』
えっ? 故に仁や隊士達、睦月らは思わず目を丸くして呟いた。不意に出てきたその名前
に、後の細かいやり取りが頭に入って来ない。
何故そこで彼女が? ここ暫くは対策チームメンバーのケアの下、保健室登校と警備の続
く自宅を往復していた筈ではなかったのか? コンクリ壁の陥没に背を預けた睦月も、ゆら
りと顔を上げてこの報告を聞いている。静かに目を細めた冴島が、通信の向こうで挙げられ
たその方角、遠巻きに見える廃ビル群を仰いだ。
「七波さんが? 北大場……近くだ」
するとどうだろう。それまで怒涛の襲撃を仕掛けていた、ウィッチとその召喚主と思しき
女性は、文字通り彼の呟きに血相を変える。「ナナミ……?」「七波由香!」憤怒の矛先を
あっという間に切り替え、全滅一歩手前の睦月達をそのままに、脇目も振らずに向かって行
ってしまったのである。
「……。えっ?」
「助かった、のか……?」
回収するようにこの女性を抱え、二度・三度大きく跳躍。ビル街の向こうへと瞬く間に消
えてゆく魔女型のアウター。
はたして一行は、その場に取り残される格好となった。ボロボロになりながらも、敵が止
めすら刺さずに往ってしまい、暫し呆気に取られたように立ち尽くした。




