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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-47.Stigma/悪性への疾走
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47-(5) 魔女強襲(後編)

 かくして睦月と仁隊、冴島は、半ばなし崩し的にこの強襲してきたアウターと戦う羽目に

なった。灰色の地面を蹴り、中空へと飛んだこの個体は、両掌から生み出した火球をこちら

に向けて撃ち放ってくる。

「あっば……?!」「危ねえっ!?」

「チッ。固まってたら一網打尽にされるぞ! 散れ、散れぇぇーッ!!」

 すんでの所でこれをかわし、大きく左右に転がる睦月達。

 皆を庇うように、先ず仁と冴島が前に出ていた。叫びに弾かれて互いに距離を取りだす隊

士達と、或いは急いで司令室コンソールの皆人らへ連絡を入れる隊士。そんな面々に向かって、突如と

してこの鍔広帽のアウターをけしかけてきた女性は問う。

「許さない、許さない、許さない……! お前達も、あいつの仲間か!?」

「は? 一体何の話──」

「名乗ってくれないと分からないな。君は一体、誰を憎んでいるというんだい?」

 最初、仁は素っ頓狂に眉根を寄せていたが、冴島はそれを遮るように問い返していた。

 事情はよく分からない。だが彼女から湧き出ている憎悪の感情は並々ならぬものだ。そし

て何故か自分達を、その恨んでいる標的の同類として認識している。

「五月蠅い……五月蠅い、五月蠅い、五月蠅い!! 死ね、死ね! ぐちゃぐちゃになって

死ねぇぇぇ!!」

 だがこちらの鎌かけを警戒したのか、それとも激情が先走っていたのか、彼女から事の真

相を聞き出すことは叶わなかった。鍔広帽のアウターが、次弾の火球を練り上げている。

「司令、司令! 聞こえますか!?」

「こちら大江隊! アウターです! また新しいアウターが出ました!」

「多分今回の犯人です! 至急応援を!」

「……滅茶苦茶だな」

「どうやら、力ずくで大人しくさせるしかないようだ」

 仕方なく仁と冴島は、それぞれの調律リアナイザからグレートデュークとジークリフリー

トを召喚。引き金をひいて放たれるこの火球達を盾や剣撃で防いだ。残る隊士達や睦月も、

続けて自身のコンシェルを召喚。守護騎士ヴァンガードに変身する。

「変身!」

『OPERATE THE PANDORA』

 デュークとジークフリートを先頭に、先ずは反撃の態勢を。

 だが睦月が白亜のパワードスーツに身を包み、通信の向こうで皆人達が大急ぎで各所へ指

示を飛ばし始める中、この鍔広帽のアウターは更なる攻撃を仕掛けてきたのだ。

「ウウウ……!」

 右手に冷気、左手に電光。

 今度は両掌から別々に、先程とは違うエネルギー波を練り上げ、放ってきたのだった。距

離を詰めようとしていたジークフリートの足元を、冷気の奔流でもって凍らせ、大きく盾を

構えていたデュークをその防御ごと電撃で撃ち抜く。

「ぐっ!?」

「しまっ──!」

 すかさずその隙を突き、更に火球の二連。冴島と仁の操る二体は、あっという間に体勢を

崩されて大きく吹き飛ばされた。これを半ば同期し、操っていた当人達にも、そのダメージ

は少なからず跳ね返る。

「大江君、冴島さん!!」

「氷と雷!?」

「炎だけじゃねえのかよ!?」

『多彩な攻撃手段……。志郎のジークフリートと、似た能力の持ち主のようですね』

 苦痛の表情を浮かべて、一旦後ろへ大きくふらつく冴島と仁。ちょうど彼らと交代するよ

うに、守護騎士ヴァンガード姿の睦月は前に出た。思わぬ攻撃パターンにしてやられた二人を庇いながら、

飛んでくる火球の群れに銃撃モードを発動。一心不乱にこれを撃ち落としに掛かる。

『奴の風貌からして、差し詰め“魔女ウィッチ”のアウターといった所か。睦月、気を付けろ。おそ

らくチェイスやストライク達のように、何かしらに特化した能力という訳ではないのだろう。

他にもまだ、奥の手を隠しているかもしれん』

 分かってるよ──! 耳の中、インカムから聞こえてくる皆人の言葉に、睦月は実際乱暴

気味に応じていた。冷静な立ち回り云々というよりも、今目の前に飛んでくる火球や氷柱、

電撃などを撃ち落さねばという意識にリソースの大部分を割かれていたからだ。

 他の隊士達、その召喚したコンシェルらも援護してくれてはいるが、その全てが対中・遠

距離に対応する手段を持っている訳ではない。一方で相手──鍔広帽ことウィッチは、身軽

な体格を活かして駆け回りながら、大量の各種エネルギー弾をばら撒いてくる。

 ……その手数に苦しめられるというのは勿論の事ながら、こちらはどうしても守勢に回ら

ざるを得なかった。自分を除き、場の仲間達は皆生身なのだ。たとえ一発でもまともに受け

てしまえば、大怪我は免れないだろう。常人があんなものを食らえば、四肢の一本や二本、

軽く吹き飛ばされる。

(くそっ! 弾数が……間に合わない!)

 睦月は焦っていた。状況はどんどんこちらの一方的な防戦に傾きつつある。一度ウィッチ

本体に攻撃が当たりさえすれば、この雨霰も止むだろうに……。しかし攻撃の連射性能も多

彩さも、どうやら敵に大きく分がある。連射ペッカーから拡散羽根ピーコックへ、銃撃モードで応じながらサポ

ートコンシェルの付与を切り替えるが、それでも相手の弾幕には対応し切れない。

「ちっくしょぉぉぉーッ!!」

「撃て撃て!! 弾幕を薄めるな!!」

「なんつーデタラメな能力だよ……。こっちは十人からはいるっていうに、相手はたったの

一人だぞ……?」

 最初は手痛い反撃を受けた、仁や冴島もこれに加わってはいた。それでも弾幕と共に距離

を詰めさせないウィッチに守勢に回らされ、自身や仲間達の防護に専念せざるを得ない。飛

び交う火球や電撃に、一人また一人と撃ち落され、或いは生身にその余波を受けて大きく後

退ってゆく。

「だったら……!!」

『ELEMENTS』

『COMPOSE THE IRON』

 埒が明かないと、睦月は思い切って別の手段を取った。アイアン・コンシェルの能力を利

用し、自分達の前に巨大な金属製の防御壁を生成したのである。

 ウゥ……? しかし対するウィッチは、これを難なく突破してみせた。驚き迷ったように

見えたのは一瞬だけで、今度は両掌から三対六連の風刃を放ってこれを切り裂き、睦月達を

防御壁ごと吹き飛ばしたのである。

「ぐぅッ!?」

「畜生、金属の壁までぶち抜くなんて……。一体、どうすりゃあいいんだよ……??」

 そうして土埃が一通り捌けた後に在ったのは、あちこちに転がる大小ボロボロの睦月達。

寸前で各々のコンシェルらが盾となってくれたのもあり、本人達へのダメージは辛うじて即

死を免れたようだ。よろよろと、睦月や冴島、仁以下隊士達は、いよいよ為す術がなくなり

つつも立ち上がっていた。ウィッチもゆっくりとこちらへ近付き、軽く両掌開きながら、次

弾の練り上げを始めている。

 正直もう、かなり息が上がっていた。だが此処で退く訳にはいかない。

 彼女とこのアウターは、十中八九、例の惨殺事件の犯人だ。このまま見逃してしまえば、

また新たな犠牲者が出る可能性が高い……。

『むー君、聞こえる!?』

『佐原さん、大江さん、無事ですか?』

『話は聞いたよ! 私達も今そっちに向かってるから──』

「っ……。駄目だ! 今こっちに来ちゃいけない!」

 更に通信越しに、司令室コンソールからウィッチ出現の報を受けた海沙や宙、國子隊の面々から連絡

が入る。

 しかし当の睦月は反射的にこれを遮っていた。戦力が増えるには増えるだろうが、彼女達

もまた生身の自分を連れて来ている。本人らが安全な場所に居てくれない以上、庇うべき相

手は増える。正直、これ以上守り切れる気がしない。

『だ、だったら……。召喚主です! マスター、アウターではなく人間の方を……!』

 そうか! 故にEXリアナイザ内のパンドラがそう助言してくれた通り、睦月はギュッと

残る力を振り絞って顔を上げた。召喚主──先程の女性はまだ向こうの物陰近くにいる。憎

悪の眼でこちらを睨んでいる。

 ならば、このまま彼女の持っている改造リアナイザを狙って──。

「……えっ?」

 だが無かったのだ。一瞬見間違いかと思ったが、ゴシゴシと目を擦って凝らし直しても間

違いない。彼女は全くの“手ぶら”だった。左右どちらの手にも、リアナイザらしい物は握

っていない。何より荷物をしまう鞄の類さえも所持してはいなかったのだ。

『あ、あれ?』

「リアナイザを、持っていない……?」

 睦月やパンドラ、冴島や仁隊、或いは司令室コンソールの画面越しに戦いの一部始終を見ていた皆人

達も思わず目を丸くしていた。作戦変更と向けた銃口も、そのまま戸惑って引き金さえひけ

なかった。

 彼女の手に、改造リアナイザが無い。

 召喚主が他の人物という可能性もあるが、それならばわざわざ戦う手段を持たない彼女が

出張ってくる必要は無い筈だ。何よりあそこまで、こちらに憎悪の眼差しを向けてくる人間

が全くの無関係だとは考え辛い。

 ……と、なると。

 この魔女型ウィッチのアウターは、既に実体化している……?

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