47-(1) 忘却(しゅうそく)
刺客騒ぎは一旦落ち着いたのだろうか? 願わくばそうであると信じたい。こんな平和が
一日でも長く続いていて欲しい。
チェイス及び、ストライク二個体を撃破した後の学園。睦月達は本来の学生生活に戻り、
暑さ残る日中のクラス教室で授業を受けていた。
黒板を叩くようなチョークの音と、時折ピンと張り詰めるように響く、女性教師の声。
睦月はぼ~っと、そんな日常の中である筈の光景を視界に、意識は尚も非日常の中に浸さ
れ続けている。
「……」
事件は一先ず区切りがついたが、当の七波さんはクラスに馴染めず、結局保健室登校とな
ってしまった。まだ学園に来ているだけマシとは言えるのかもしれないが、心情としてはや
はり、後ろめたさの方がずっと勝る。
周囲や他のクラスメート達からは、依然として腫物扱いされたままだった。
自分達のように全ての事情を知っている訳ではないし、無理もないとは思うが……それで
もこうした隔離が常態化し、彼女自身がクラスから“消える”状況が続けば、その存在は本
当に忘れられていってしまうだろう。一体何の為に、彼女は玄武台から逃れてきたというの
か?
尤も現状、保健室登校なり何なりで余所に隔離しておかなければ、学園の日常もままなら
ないというのもまた事実だ。全の為に一を殺す──思って、睦月は改めて自分達の外道っぷ
りを自覚せざるを得ない。
『心配は要らない。彼女のケアに関しては、学園内の協力者が担ってくれている。お前達は
当面、彼女の“警護”に専念してくれればいい』
事後処理が大よそ済んだ後、親友はそう話していた。対策チームの工作員があちこちに潜
んでいるのは今に始まった事ではないが、本当に掌の上で関係者らが転がされているんだな
と内心思ったものだ。
日常のサポートも、その人物が担ってくれている。自分達は皆人の言う通り、先の中央署
の一件で得た公的な勝利の勢いを借りて、一日でも早く“蝕卓”を倒す手立てを見出さなけ
ればならない。それが彼女にとっても、今まで関わり巻き込まれた人達にとっても、真の安
息となる筈だ。
先日H&D社も、妙な動きを見せ始めた。政府との“共闘”も早々にせず済むならば、そ
れに越した事はない。元々は自分達が内々に、決着をつけたかった戦いもである……。
「──」
そんな親友の様子を、皆人はちらっと横目に映しながら見ていた。自分の席からやや後方
斜めに捉えたクラス内では、彼や海沙、宙、國子に仁といった仲間達が思い思いに授業を受
けている様子が見える。真面目に正面の黒板を見つめてノートを取っている者もいれば、暑
さと根気不足を理由にぐったりと机に突っ伏し、或いは机の陰で手持無沙汰にデバイスを弄
っている者もいる。
良くも悪くもいつもの風景。そして当の皆人自身は、ちょうど後者の部類だった。
机と広げたノート、身体の陰に隠したデバイスの画面に、とあるメッセージがポップして
きたのを、彼はフッと視線だけで確認する。




