表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-47.Stigma/悪性への疾走
357/526

47-(1) 忘却(しゅうそく)

 刺客騒ぎは一旦落ち着いたのだろうか? 願わくばそうであると信じたい。こんな平和が

一日でも長く続いていて欲しい。

 チェイス及び、ストライク二個体を撃破した後の学園コクガク。睦月達は本来の学生生活に戻り、

暑さ残る日中のクラス教室で授業を受けていた。

 黒板を叩くようなチョークの音と、時折ピンと張り詰めるように響く、女性教師の声。

 睦月はぼ~っと、そんな日常の中である筈の光景を視界に、意識は尚も非日常の中に浸さ

れ続けている。

「……」

 事件は一先ず区切りがついたが、当の七波さんかのじょはクラスに馴染めず、結局保健室登校とな

ってしまった。まだ学園に来ているだけマシとは言えるのかもしれないが、心情としてはや

はり、後ろめたさの方がずっと勝る。

 周囲や他のクラスメート達からは、依然として腫物扱いされたままだった。

 自分達のように全ての事情を知っている訳ではないし、無理もないとは思うが……それで

もこうした隔離が常態化し、彼女自身がクラスから“消える”状況が続けば、その存在は本

当に忘れられていってしまうだろう。一体何の為に、彼女は玄武台ブダイから逃れてきたというの

か?

 尤も現状、保健室登校なり何なりで余所に隔離しておかなければ、学園の日常もままなら

ないというのもまた事実だ。全の為に一を殺す──思って、睦月は改めて自分達の外道っぷ

りを自覚せざるを得ない。


『心配は要らない。彼女のケアに関しては、学園内の協力者が担ってくれている。お前達は

当面、彼女の“警護”に専念してくれればいい』


 事後処理が大よそ済んだ後、親友みなとはそう話していた。対策チームの工作員があちこちに潜

んでいるのは今に始まった事ではないが、本当に掌の上で関係者らが転がされているんだな

と内心思ったものだ。

 日常のサポートも、その人物が担ってくれている。自分達は皆人の言う通り、先の中央署

の一件で得た公的な勝利の勢いを借りて、一日でも早く“蝕卓ファミリー”を倒す手立てを見出さなけ

ればならない。それが彼女にとっても、今まで関わり巻き込まれた人達にとっても、真の安

息となる筈だ。

 先日H&D社も、妙な動きを見せ始めた。政府との“共闘”も早々にせず済むならば、そ

れに越した事はない。元々は自分達が内々に、決着をつけたかった戦いもである……。


「──」

 そんな親友ともの様子を、皆人はちらっと横目に映しながら見ていた。自分の席からやや後方

斜めに捉えたクラス内では、彼や海沙、宙、國子に仁といった仲間達が思い思いに授業を受

けている様子が見える。真面目に正面の黒板を見つめてノートを取っている者もいれば、暑

さと根気不足を理由にぐったりと机に突っ伏し、或いは机の陰で手持無沙汰にデバイスを弄

っている者もいる。

 良くも悪くもいつもの風景。そして当の皆人自身は、ちょうど後者の部類だった。

 机と広げたノート、身体の陰に隠したデバイスの画面に、とあるメッセージがポップして

きたのを、彼はフッと視線だけで確認する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ