表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-47.Stigma/悪性への疾走
356/526

47-(0) 鶴の一声

 公の状況が新たに変化し始めたのは、他ならぬ渦中の関係者が一つ、H&D社がその日動

きを見せたからだった。同グループのトップ、リチャード・ビクターCEOが突如として、

飛鳥崎市内で記者会見を開いたからである。

「ようこそ皆サマ。本日は遠い所へ足を運んでいただキ、ありがとうございマス」

 キラキラと、文字通り輝くような平素の微笑えみも、流石に今回ばかりは幾許かの影が差して

いるようだ。外人訛りのこなれた日本語で、先ずはそう開口一番繕いを覗かせる。

『──』

 それでも会場に駆け付けたマスコミ各社は、総じて緊張と驚きに包まれていた。広々とし

た室内、指定されたホテルのイベントホールの方々から、構えたカメラのフラッシュが焚か

れていてる。

 渦中のH&D社が、事件後ようやく声明を出したという点は勿論ながら、まさか彼がこの

飛鳥崎までやって来ていたとは。

 事前にそのような情報は無かった。完全にお忍びである。尤も自社製品への信頼が大きく

損なわれかねない中、CEO自ら火消し──本国を飛び出して駆け付けるべき案件であると

考えたなら、そこまで不自然という訳ではないのかもしれないが。

 曰く先の中央署の一件、いわゆる電脳生命体に自社の製品であるリアナイザが関わってい

るとの情報を受け、彼らは内部調査を進めていたのだという。今回来日し、このような会見

の場を開いたのは、他でもないその結果を伝える為だ。

「結果から申しましテ……報道されている内容は、事実デス」

『!?』

 ざわっ。強くひっきりなしになるカメラのフラッシュは勿論、リチャードの端的な発言を

受けて、集まった記者達は目に見えて衝撃を受けていた。大きく目を見開き、神妙な面持ち

を貼り付けて語り出す彼の一挙手一投足に、細心の注意を払っている。

「調査の結果、我々の商品であるリアナイザを違法に改造シ、件の怪人達の苗床とシテ巷に

ばら撒いている者達がいると判明しましタ。皆サマもご存知の通り、彼らはこの街の中枢に

さえ忍び込み、暗躍してきた者達デス。残念ですガ……事態は既に我々のみでは対処し切れ

ないほど大きくなっていマス。それでも我々にハ、未だ出来ることがありマス」

 加えて同グループの総責任者として、当面正規リアナイザの出荷を自粛し、既に市中に出

回っている分の回収を進めるとも彼は表明したのだった。かねてより水面下で進行していた

対応ではありながら、今後も飛鳥崎当局と協力して事態の収拾に当たり、損なわれた信頼を

取り戻す決意だ……とも。

「皆サマも、どうかご協力をお願いしマス」

「この度ハ、誠に申し訳ございませんでしタ」

 そうして深々と、同席していた他の幹部らと共に頭を下げ始めるリチャード。流石は世界

中に事業を展開するグループのトップか。欧米ほんごく以外の文化圏における、求められる対応のス

タイルについても、豊富な知識と理解があるらしい。ここぞとばかりに記者達が、この絶好

の“画”を収めに掛かる。

(……まさか、あのビクターCEOが直々に出張って来るとは)

(こいつは特大のネタだ。暫くはどの局も、この話題一色になりそうだな……)

 一見すると、H&D社の迅速な対応であるように見えた。自社へのダメージを最小限に抑

えたいという思惑なのだろう。

 トップダウンによる大鉈──ただその一方で、自粛によって切り捨てられる人々、リアナ

イザの製造・販売に関わってきた者達が、報道によって埋もれる可能性も出てくる。

(それに……)

 “画”はまだ続いている。実際の所、時間にすればほんの十数秒ほどだ。ただそんな大き

なうねりの中で、記者達の何人かは思った。

 即ち彼らの対応は事実上、既に流通している分も含めて、リアナイザという商品それ自体

を“禁制の品”にするようなものではないか──。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ