5-(4) 目撃証言(後編)
『──リアナイザを持った、中年?』
「うん。どう考えても不自然でしょ?」
林から一通り話を聞き終わって部屋を辞し、睦月は病院を後にしていた。
早速デバイスから司令室にいる筈の皆人に電話を掛ける。林から聞いた目撃証言、その肝
となる部分を聞くと、彼は通信の向こうでじっと眉根を寄せていた。
『そうだな。リアナイザ──TAのユーザーは基本的に若年層だ。そんな歳の男性がただ
所有しているだけとは考え難いな』
『それに彼を見たという状況が一番物語っています。昨夜の現場を見下ろすように立ってい
たという事は、やはり』
「うん。改造リアナイザ──アウターだと思う」
病院を後にし、通りを歩きながら通話する。
大丈夫だとは思うが、行き違う人々を警戒して気持ち声は抑え目に。
林が撮ったという事件直後の写真は、流石に混乱の中でいう事もあってあまり鮮明に捉え
られてはいなかった。何より肝心のこのリアナイザを手にした男性の姿までは収めていなか
ったのである。
睦月は改めて、予感を確信に変えて言った。
状況からして間違いない。
今回の爆破テロ事件、おそらくアウターだ。
『……というか睦月お前、何を勝手に動いてる? 出現していないから一度家に戻ると言っ
てきた時点まさかとは思ったが……俺の話を聞いていなかったのか?』
「それはごめん。でも……居ても立ってもいられなかったんだ。アウターであってもなくて
も、テロはたくさんの人達を巻き込む。次に海沙や宙がその一人にならないなんて保証、何
処にもないんだ。それに実際に何人も怪我をした人達がいる。許されるものじゃないよ」
『……』
故にやや後回しに皆人は先立った行動を咎めたが、もう既に睦月の“正義感”はそのスイ
ッチをオンにしてしまって久しい。はっきりとそう言い切った親友に、皆人はデバイスの向
こうで皆人は静かに深い嘆息をつく。
『分かったよ。とりあえずその証言者の撮った写真とやらを、パンドラの記憶からこっちに
送ってきてくれ。肝心の犯人が映っていないにしても、解析してみる価値はある』
「ありがとう。それと皆人。そっちでリアナイザを持っている人達が何処にいるか、追えた
りしないかな?」
『……難しいな。そもそもあれは出力用のハードであって、常時回線に繋がっている訳じゃ
ない。改造型の方も基本的には同じ筈だ』
『そうですねえ。起動している分だけなら、近くにいるかどうかは分かりますけど……』
「……そっか」
ともかくアウターが絡んでいる可能性が出てきた以上、何もしない訳にはいかない。
半ば根負けしたかのように皆人が言い、続いて睦月からの提案──直接犯人の目星をつけ
る作戦にもそう渋る返答を寄越した。睦月のデバイスの中で、パンドラがふよふよと浮きな
がらそう捕捉してくれる。
『とにかく一旦國子達をそっちに遣ろう。適当な所で合流してくれ。それとお前が聞いた、
その中年男性の特徴も教えてくれ。流石に情報量が少な過ぎるが、一応こちらで住民データ
を洗ってみよう』
「うん。宜しく頼むよ。それで、その人の特徴だけど──」
だがちょうどそんな時だったのだ。早速睦月が林から聞いた、犯人と思しき男の特徴を伝
えようとした時、遠くから大きな爆発音がしたのである。
『どうした!? さっきの音は何だ、睦月?』
電話の向こうで皆人がにわかに叫び始めた。周囲の職員達も、急ぎ慌てて目の前の監視映
像群をチェックし始めている。
「……爆発だ。また爆発が起きた! ここから見て南東……西國モールの方角だよ!」




