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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-45.Revenger/地獄塚四番地
345/526

45-(4) 目の付け所

 再び、飛鳥崎北市民病院。正面駐車場兼広場にて。

 日中、再開された学園に縛られる睦月達に代わり、冴島は部下達を率いて入院・見舞いに

来ている筈の七波母子おやこを監視していた。壁や看板、植木に停まっている車など周囲の物陰に

溶け込み、めいめいに上階の病室を見上げている。

 部下の隊士達は、予め二班に分けた。A班は冴島と共に彼女らを、もう一方のB班には引

き続き、筧の動向を見守らせてある。

(……流石に、直接は見えないか。事前に関係者むこうと交渉できていればよかったんだけど……)

 先の襲撃には間に合わなかったが、今度こそ守らなければ。

 学園の教室と自宅、双方を襲ったアウターは倒されたそうだが、他に彼女を狙う者がいな

いとも限らない。その点は皆人君も指摘していた所だ。司令室コンソールも、ニ十四時間態勢で市内の

異変をモニタリングしている。

(彼女も、辛いだろうな……)

 他人事と言われれば否定は出来ないが、それでも冴島は内心胸が痛んだ。なまじ自分達の

力が及ばなかったせいで、ここまで彼女を巻き込んでしまった。玄武台ブダイの事件も中央署の一

件も、彼女の勇気ある告発がなければひっくり返らなかったとはいえ、その代償を背負わせ

るには若過ぎる……。

(──うん?)

 そんな最中の事だった。七波の胸中を思って静かに顔を顰めていたその時、冴島はふと視

界の向こうに自分達以外の人影を認めた。敷地の一角、半ば植木に隠れたベンチにちょこん

と、見知らぬ二人組が座っている。

 少女と、成人男性だ。一見すると親子という訳でもなさそうだが、隣同士に腰を下ろして

いることから、少なくとも親しい間柄であることは判る。少女は睦月達と同じ年頃か、少し

上といった所か。ミドルショートの毛先がぴょこんと跳ね、赤い細めのフレームの眼鏡を掛

けている。男性の方は倍ほどの年齢だろうか? 背丈や体格はあるが、どうも全体的になよ

っとした印象を受ける。

「隊長……?」

 故に冴島は、一人ゆっくりと歩き出していた。周囲の隊士達が、その動きに一人また一人

と気付き、何事かと視線を巡らしてくる。怪しい……。だが構わず、冴島はこの見知らぬ二

人組の傍へと近付いて行った。

「ちょっと……いいかな?」

「? な、何ですか?」

「えっと……? 勧誘か何かならお断りしますよ?」

 先ずは軽く。努めて紳士的な声色と所作で一礼し、切り出す冴島。

 それでも対する少女と男性は、妙に動揺しているようにも見えた。後方で点々とこちらを

見ている隊士達に気付いたのか、それとも自分の顔に見覚えでもあるのか。

「いえ、そういう訳ではありませんよ。ただじっと座って、何をしているのかなあ? と」

「な……何もしてませんよ??」

「そうですよ。貴方達こそ、一体何なんですか? そんな大人数で……」

 だがどうやら、最初の違和感は勘違いではなかったらしい。何とか平静を装おうとしてい

るが、少女の目には明らかに動揺があった。一方で男性の方も、やや不自然なほどに警戒感

を示している。威圧するな、ということだろうか。

「ええ。すみません。ただ珍しいなと思いましてね」

 質問に質問で返すか。

 冴島は内心、応じるように怪訝の念を強くした。表面上努めて苦笑わらいながらも、次の瞬間

核心を突く一言を放り込む。

「──“人間ではない連れ”と、一緒にいる女の子など」

 刹那二人の表情が蒼褪めるのを、彼は確かに見ていた。同時に、懐から調律リアナイザと

自身のコンシェル──ジークフリートが収まるデバイスを取り出し、暗に示す。

 彼女達が怪しいと踏んだのも、他でもないこの相棒が、先ほどから異変を知らせてくれて

いたからだ。元はどちらも同じコンシェル──男が越境種アウターであると、感知したその直後から。

「それに、君達はさっきから見上げていただろう? 僕達と同じ、七波沙也香かのじょの病室を」

 対策チームの一員でもないのに、何故そこに彼女ひとが居ると知っている?

 冴島は更にそう状況証拠を突き付け、且つ既に動き出していた。もしかしてこの二人は、

蝕卓やつらからの新しい刺客ではないのか? 何よりこちらを見た瞬間の動揺──間違いなく自分

達のことを知っている。

 逃げ──! そして少女の手を取り、慌てて逃げ出そうとしたこの男を、冴島は素早く調

律リアイナイザにデバイスを装填。召喚したジークフリートで組み伏せた。「アイ!」半ば

彼に庇われ、軽く突き飛ばされた少女は叫んでいたが、あくまで彼を見捨てて逃げる心算は

ないらしい。数拍の隙を突き、隊士達もめいめいに調律リアナイザを構え、急ぎこの二人を

取り囲む。

「は、離してっ!!」

「だったら、大人しくすることだ」

「なら、どうして逃げようとしたんだ? やっぱりお前達も、奴らの……」

 男に加えて、少女も。最初はじたばたと抵抗していたが、冴島達がすぐさま危害を加える

心算はないと判ってくるにつれ、少しずつ大人しくなっていった。本人達は知らないだろう

が、牧野黒斗やミラージュの例がある。少なくとも独断で処理すべき段階ではない。

「──もしもし。冴島です。アウターと、その召喚主らしき少女を確保しました。引き取り

の人員をお願いします。ええ……はい。市民病院の前です」

 部下達とジークフリートに二人を押さえて貰いながら、冴島は早速司令室コンソールに連絡を繋いだ。

皆人達はまだ学園だろうが、すぐに向こうにも伝わるだろう。

「うう……。流石に、前に出過ぎたか」

「? それはどういう……?」

「ともかく、答えて貰おうか。君達は一体──」

 だがちょうど、その時だったのである。冴島と隊士達がこの二人に改めて問い質そうとし

た直後、頭上を激しい爆音が襲った。ハッと殆ど反射的に顔を上げ、病院の方を見遣る。大

きく見開いた目に、濛々と立ち込めた土埃と壁の穴──七波家の病室が破壊されている。

 何かが……“撃ち込まれた”?

 ただそれだけが、文字通り衝撃となって、冴島達の脳裏を揺さぶる。

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