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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-45.Revenger/地獄塚四番地
342/526

45-(1) 刺客の人数

 睦月達が、チェイス・アウターを倒してから十数日後。

 まだ事件の傷跡も癒え切らぬ内に、学園コクガクは仮復旧を経て再開されていた。未だ生徒・職員

らの動揺も大きく、収まっていないであろうにも拘らず強行されたその背景には、新学期早々

授業などの各種スケジュールをこれ以上崩したくない上層部の意向があるのでは? と噂

された。

「──別の、誰かの視線?」

 そんな中で、睦月や皆人、國子などいつものメンバーは、休み時間に机を囲んでヒソヒソ

と話し込んでいた。小さく眉根を寄せる親友に、睦月及びデバイス内のパンドラが相談をし

ようとしている。

「うん……。この前の教室が壊された事件の時、ミサイル型が撃ち込まれる直前、誰かに見

られていたような気がするんだ」

『マスターの話では、感じた先は廊下側だったそうです。でも……』

「実際に、あいつが飛んで来たのは、窓側……」

「正反対じゃない」

「うん。だからもしかして、あの時僕達を狙っていた敵は、他にも居たんじゃないかって思

ったんだ。でも結局、それらしい姿は見てないし……」

 仁の呟きと、宙の疑問符が重なる。事実こうして相談を持ち掛けた睦月自身も、まだ半信

半疑といった様子で、慎重に言葉を選んでいるようだった。

「あり得ない、って話ではないよね。この前、三条君も話してたし……」

「ああ。同じくそいつも刺客であるならば、だがな」

 うーむ……。海沙や皆人、仲間達は誰からともなく難しい表情かおをして押し黙ってしまった。

先の襲撃も玄武台ブダイ──七波への復讐だった。もし蝕卓ファミリーが、元関係者らを巻き込んだ策略を

講じているのであれば、流石に睦月の話を気のせいだと片付ける訳にはいかない。

「……七波ちゃんには悪ぃが、連中がこの程度で終わるとは思えないもんな。中央署を追い

出されて、奴らも頭に来てるだろうし……」

『自業自得ですけどね。そもそも悪いのは奴らじゃないですか』

 ぷくーっと画面の中でむくれっ面になるパンドラ。仁もそんな心算はなかったが、これで

敵の攻勢が止む保証は無い。自分達を含め、その正体を白日の下に晒した七波や筧を、奴ら

は命潰えるまで狙い続けるだろう。

「刺客は他にも放たれていた。だがそうなると、何故あの時、協力して攻撃を仕掛けなかっ

たのかという疑問が残るが……」

 少し目を瞑って、ぶつぶつと思案。次の瞬間、皆人は開いた横目で教室の窓際──仮に修

復して埋められた違和感のある壁材を一瞥すると、自身のデバイスを開いて何やらメッセー

ジを打ち始めた。司令室コンソールの香月や萬波達だろう。

「念の為、今日の放課後にでも博士達にパンドラの記録ログを解析して貰おう。尤も睦月に言わ

れるまで気付かなかったとなると、よほど微細な反応だった可能性もあるが……」

「うん……」

 実際、現状で出来ることと言えばそれぐらいしかない。肝心の敵の姿を捉えられていない

以上、予防的に待ち構えるのが関の山だ。

 睦月や他の仲間達は、そうして皆人の遣った視線と同じく仮修復の壁を眺めると、次いで

今は空となった七波の席を見遣る。事前に対策チームから、授業再開後も暫くは欠席すると

の報告が上がっていた。無理もないだろう。少なからぬ周りのクラスメート達も、このがら

んとした空席を時折視界に入れては、睨んでいる。

 あれもこれも、全部お前のせいだ──。暗にそう、実害を伴ったが故の嫌悪を含んで。

「……あの子には、悪いことしちゃったわね」

「う、うん」

「違うぞ。彼女は被害者だ。俺達が認識を誤ってどうする」

「あっ。そう……だよね。ごめん……」

 しょんぼりと、海沙と宙が思わず暗い表情かおをする。だがそんな二人に、皆人は努めて折れ

ぬよう言い聞かせた。流石に酷だと、仁はそれとなく間を取るように苦笑わらってみせてはいたが。

「だがまあ、実際背負い込んじまってるだろうしなあ。暫く休むってのも、それでだろ?」

「ああ、それもあるが……。今日は見舞いに行っている筈だ。命に別状はないが、母親が用

心の為に入院しているからな」

「えっ? ああ……そういえば」

「ご心配なく。彼女達は冴島隊長が、二手に分かれて見張ってくれています」

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