45-(1) 刺客の人数
睦月達が、チェイス・アウターを倒してから十数日後。
まだ事件の傷跡も癒え切らぬ内に、学園は仮復旧を経て再開されていた。未だ生徒・職員
らの動揺も大きく、収まっていないであろうにも拘らず強行されたその背景には、新学期早々
授業などの各種スケジュールをこれ以上崩したくない上層部の意向があるのでは? と噂
された。
「──別の、誰かの視線?」
そんな中で、睦月や皆人、國子などいつものメンバーは、休み時間に机を囲んでヒソヒソ
と話し込んでいた。小さく眉根を寄せる親友に、睦月及びデバイス内のパンドラが相談をし
ようとしている。
「うん……。この前の教室が壊された事件の時、ミサイル型が撃ち込まれる直前、誰かに見
られていたような気がするんだ」
『マスターの話では、感じた先は廊下側だったそうです。でも……』
「実際に、あいつが飛んで来たのは、窓側……」
「正反対じゃない」
「うん。だからもしかして、あの時僕達を狙っていた敵は、他にも居たんじゃないかって思
ったんだ。でも結局、それらしい姿は見てないし……」
仁の呟きと、宙の疑問符が重なる。事実こうして相談を持ち掛けた睦月自身も、まだ半信
半疑といった様子で、慎重に言葉を選んでいるようだった。
「あり得ない、って話ではないよね。この前、三条君も話してたし……」
「ああ。同じくそいつも刺客であるならば、だがな」
うーむ……。海沙や皆人、仲間達は誰からともなく難しい表情をして押し黙ってしまった。
先の襲撃も玄武台──七波への復讐だった。もし蝕卓が、元関係者らを巻き込んだ策略を
講じているのであれば、流石に睦月の話を気のせいだと片付ける訳にはいかない。
「……七波ちゃんには悪ぃが、連中がこの程度で終わるとは思えないもんな。中央署を追い
出されて、奴らも頭に来てるだろうし……」
『自業自得ですけどね。そもそも悪いのは奴らじゃないですか』
ぷくーっと画面の中でむくれっ面になるパンドラ。仁もそんな心算はなかったが、これで
敵の攻勢が止む保証は無い。自分達を含め、その正体を白日の下に晒した七波や筧を、奴ら
は命潰えるまで狙い続けるだろう。
「刺客は他にも放たれていた。だがそうなると、何故あの時、協力して攻撃を仕掛けなかっ
たのかという疑問が残るが……」
少し目を瞑って、ぶつぶつと思案。次の瞬間、皆人は開いた横目で教室の窓際──仮に修
復して埋められた違和感のある壁材を一瞥すると、自身のデバイスを開いて何やらメッセー
ジを打ち始めた。司令室の香月や萬波達だろう。
「念の為、今日の放課後にでも博士達にパンドラの記録を解析して貰おう。尤も睦月に言わ
れるまで気付かなかったとなると、よほど微細な反応だった可能性もあるが……」
「うん……」
実際、現状で出来ることと言えばそれぐらいしかない。肝心の敵の姿を捉えられていない
以上、予防的に待ち構えるのが関の山だ。
睦月や他の仲間達は、そうして皆人の遣った視線と同じく仮修復の壁を眺めると、次いで
今は空となった七波の席を見遣る。事前に対策チームから、授業再開後も暫くは欠席すると
の報告が上がっていた。無理もないだろう。少なからぬ周りのクラスメート達も、このがら
んとした空席を時折視界に入れては、睨んでいる。
あれもこれも、全部お前のせいだ──。暗にそう、実害を伴ったが故の嫌悪を含んで。
「……あの子には、悪いことしちゃったわね」
「う、うん」
「違うぞ。彼女は被害者だ。俺達が認識を誤ってどうする」
「あっ。そう……だよね。ごめん……」
しょんぼりと、海沙と宙が思わず暗い表情をする。だがそんな二人に、皆人は努めて折れ
ぬよう言い聞かせた。流石に酷だと、仁はそれとなく間を取るように苦笑ってみせてはいたが。
「だがまあ、実際背負い込んじまってるだろうしなあ。暫く休むってのも、それでだろ?」
「ああ、それもあるが……。今日は見舞いに行っている筈だ。命に別状はないが、母親が用
心の為に入院しているからな」
「えっ? ああ……そういえば」
「ご心配なく。彼女達は冴島隊長が、二手に分かれて見張ってくれています」




