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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-44.Gossip/悪意に差す灯を
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44-(2) 繰り上げ臨戦

 事件から数日が経った、司令室コンソール

 ミサイル型のアウターによる襲撃以降、学園は臨時休校を続けていた。復旧作業など、物

理的に態勢が整わない以上仕方ないが、生徒を始めとした関係者達の心に落とした影は相当

なものと思われる。この日も皆人や睦月以下対策チームの面々は、市中の様子を中央のディ

スプレイ群越しに眺めながら、対応を話し合っていた。

「しっかし……。まさか、新学期早々とはねえ」

「ああ。こちらの打った保護策が、寧ろ裏目に出てしまった。教室に直接というのは、流石

に俺も考えが甘かったらしい」

 皆人曰く、七波の転入について当局などのニュースリリースは無い筈だという。至極当然

だろう。彼女をなるべく、一時でも世間の耳目から遠ざけることがそもそもの目的なのだ。

尤も本人を目の当たりにしたクラスメートなどを発端に、ある程度噂に戸は立てられなかっ

たろうが……。

「それで、当の七波さんは?」

「今日も自宅から出ていない。今は地域全体が似たようなものだがな」

「ただ、これまでと今回の一件で、当局も彼女を守る口実を得たのも事実だ。実際の所、ど

の程度の抑止力になるかは分からんが……何も無いよりはずっとマシだろう」

 皆人の台詞を萬波が引き取り、ディスプレイの一部に七波宅の現在の様子を映させる。周

囲には少なからぬ記者達が張っていたが、それ以上に配置された警官達が巡回し、睨みを利

かせて、彼らをより遠巻きに追いやろうとしている。

 休校以来、状況はずっとこんな調子だ。心の傷も浅からぬ内から、連日マスコミ各社は取

材攻勢に忙しい。彼女だけでなく、他の学園コクガク生にまでその魔の手は及びつつあった。

「……國子、大江。聞こえるか?」

『おう。電波バッチリだぜ』

『お呼びでしょうか、皆人様。次のご指示を』

 そして皆人は、通信機に手を伸ばすと、既に現地へ派遣されている仲間達──國子及び仁

隊の面々に呼び掛けた。報道陣や警官達の人だかりから更に遠巻き、七海家からの出入りが

確認できるように、正面や裏口に手分けして隠れ、物陰に待機してくれている。

「どうやら状況は膠着しつつあるようだ。改めて彼女と、ご両親を連れ出して来てくれ。表

向きの取り繕いに関しては、こちらでなるべく早く手を回す。朧丸やダズルのステルス能力

があれば、確保すること自体はそう難しくはないだろう。必要があれば、冴島隊長達にも応

援を掛ける」

 了解ラジャ! 通信の向こうで、國子と仁の短い返答が聞こえた。至って真面目な声色と、何処

か努めて明るく振る舞っているような声色だ。

 ディスプレイの優先順が切り替わるのを傍目に、司令室コンソールの睦月達は再び話し合いに戻り始

めた。七波の保護と並ぶ現在の懸案と言えば、先日襲ってきたミサイル型のアウターである。

「ただまあ……このまますんなり、七波ちゃんの問題が片付くとは思えないわよねえ」

「そう、だね。心の傷もそうだけど、あのアウターも何か変だったもの」

『ええ。そうなんですよお。あれだけ殺意ムンムンの割には、案外弱かったですし……』

 睦月のぷらんと提げた手の中、デバイスの画面内でそう身振り手振りに話すのは、彼の相

棒であり守護騎士ヴァンガードのシステム制御を司るコンシェルの少女・パンドラだ。

 先の交戦から数日、事態の暗澹さと消化不良感も手伝って思わずごちる宙や海沙に、彼女

は改めて当時の違和感を話していた。睦月もコクコクと、今回の敵に未だ引っ掛かる部分を

感じていたらしい。

弾頭ミサイルのアウター、でいいのかな? あいつは多分“蝕卓ファミリー”の刺客だと考えて差し支えない

んだろうけど……」

「十中八九、そうだろうな。つまりは報復だ。彼女及び、俺達に対しての」

 対する皆人は淡々と言い切る。睦月や宙、海沙達の表情が明らかに暗くなった。とうに何

処かで解っていても、いざ真正面から言葉にされると辛いものがある。

「だがお前の証言や、パンドラから採った戦闘記録ログからも、本当に奴がアウターだったのか

は怪しい。刺客としては不十分ではないか? というのは俺も同じ見立てだ」

 博士。そして促され、先ほどから話し合いの輪に交ざっていた香月が、手元のタブレット

を見せてくる。画面には例のミサイル型のアウターの3Dモデルと、各種比較用のグラフが

幾つも並べられている。

「少なくとも、睦月やパンドラが“弱い”と感じた理由は、奴のエネルギー出力よ。これま

で私達が戦ってきたアウター達と比べても、およそ半分ほどの出力量しかない。貴方達が単

純に、経験を積んで強くなっているという面もあるんでしょうけど……」

 実際、そう分析結果を出した彼女自身、戸惑っているようだった。息子達が無事に戻って

来られるならば、勿論それに越した事はない。だが、ただ純粋に“敵が弱かった”と片付け

てしまっていいものなのか? かつてのミラージュのように、市中に紛れて無害な個体なら

ばいざ知らず……。

「……楽観的に済ませる、という訳にはいきそうにないかな」

「結局、正体とか色々分からないままでしたもん。そりゃあ気にはなりますよ」

「でも優先するべきは七波さんの保護だし、調べるのはその後でもいいんじゃない? 当の

本人だって、むー君が倒しちゃったんだから……」

「そうだな。今後の支障になるようならば、解明を急がなくてはならないだろうが……」

 だがちょうど、そんな時だったのである。

 萬波の苦笑や宙、海沙の思案。とりあえずは國子達の帰りを待とうとめいめいが黙り始め

た次の瞬間、当の彼女らから通信が入ったのである。緊急を知らせる甲高い声、周囲のざわ

めきと破裂音。七波家の下へ潜行スニークしようとした二隊を、妨げる者がいる。

『皆人様、大変です! アウターが出ました!』

『あん時のミサイル野郎だ! 加勢を頼む!』

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