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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-44.Gossip/悪意に差す灯を
333/526

44-(0) 観察者

「に、逃げろおおおーッ!!」

「くそっ! 一体何なんだよ!? 何でこんな……!」

 自分には関係ない、何処か遠いセカイの出来事だとの思い込みに“否”を突き付けられた

時、人はその本性を露わにするのだろうか。或いは元より保身それは、皆誰しもに備わった反応もの

なのか。

 アウターと思しきミサイル型怪人からの襲撃を受け、現場に居合わせた学園コクガク生や職員達は、

大わらわになって逃げ出していた。直接大穴の空いたクラス教室近隣から始まり、恐怖は

間を置かずして波紋のように伝染してゆく。

『──』

 そんな学内の一部始終を、密かに見つめている者達がいた。少し上階の廊下側、窓際の一

角に立ち、生徒達と破壊された現状を見下ろしている。

「ねえねえ、見えた?」

「ああ。視た」

 人影は二つ。先ずは少女らしき人物が口を開き、もう一人が応える。彼女に比べるとひょ

ろっとした背丈で、やや気の弱い印象を受ける男性だった。共にその顔は逆光と物陰に隠れ

ており、口元から上は窺い知ることが出来ない。

 校舎内には先ほどから、緊急を知らせる警報が鳴り響いている。

 そういった状況も手伝って、生徒や職員達は避難一辺倒だったのだが……この二人はそん

な他人の波には呑まれていない。寧ろ自ら取り残されるように、その場に立ったまま、事の

推移をギリギリまで観察しているかのように見えた。


『よし、誰もいないな。ここで一旦奴を迎え撃つぞ』

『あ、貴方達は、一体……?』

『ナナミ、ユカ……コロス!』

『やっぱり、あれぐらいじゃあ死なないか……。皆、七波さんをお願い!』


 変身!

 そして二人の“眼”には、一連の騒ぎの中で全くの別行動をしていた、ある人物達の一部

始終もまた映っていた。

 七波を庇いながら屋上へと逃げ、更にそこへミサイル型の怪人が追いついて来る。これを

面々の一人──睦月が守護騎士ヴァンガードとなって迎え撃とうとし、残る面々もリアナイザらしき装置

を片手に身構える。

「よりにもよって、あの子が学園うちに来た矢先にねえ……。少なくとも転入するって話は、対

外的には発表されてない筈なんだけど……」

 一旦フッと瞳を閉じて、彼女は一人しみじみと呟いた。尤もその内容とは裏腹に、肝心の

声色の方は寧ろ弾んでいるように思える。ワクワクと。そんな彼女の、良くも悪くも旺盛な

好奇心に、一方で男性の側は半ば呆れた様子を見せている。

「……面白くなってきた」

 ふふふ、と口元で微笑わらう声と、やれやれと肩を竦める気配。

 爆音轟く非日常にあっても、事態ときは変わらず構わず進んでゆく。

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