44-(0) 観察者
「に、逃げろおおおーッ!!」
「くそっ! 一体何なんだよ!? 何でこんな……!」
自分には関係ない、何処か遠いセカイの出来事だとの思い込みに“否”を突き付けられた
時、人はその本性を露わにするのだろうか。或いは元より保身は、皆誰しもに備わった反応
なのか。
アウターと思しきミサイル型怪人からの襲撃を受け、現場に居合わせた学園生や職員達は、
大わらわになって逃げ出していた。直接大穴の空いたクラス教室近隣から始まり、恐怖は
間を置かずして波紋のように伝染してゆく。
『──』
そんな学内の一部始終を、密かに見つめている者達がいた。少し上階の廊下側、窓際の一
角に立ち、生徒達と破壊された現状を見下ろしている。
「ねえねえ、見えた?」
「ああ。視た」
人影は二つ。先ずは少女らしき人物が口を開き、もう一人が応える。彼女に比べるとひょ
ろっとした背丈で、やや気の弱い印象を受ける男性だった。共にその顔は逆光と物陰に隠れ
ており、口元から上は窺い知ることが出来ない。
校舎内には先ほどから、緊急を知らせる警報が鳴り響いている。
そういった状況も手伝って、生徒や職員達は避難一辺倒だったのだが……この二人はそん
な他人の波には呑まれていない。寧ろ自ら取り残されるように、その場に立ったまま、事の
推移をギリギリまで観察しているかのように見えた。
『よし、誰もいないな。ここで一旦奴を迎え撃つぞ』
『あ、貴方達は、一体……?』
『ナナミ、ユカ……コロス!』
『やっぱり、あれぐらいじゃあ死なないか……。皆、七波さんをお願い!』
変身!
そして二人の“眼”には、一連の騒ぎの中で全くの別行動をしていた、ある人物達の一部
始終もまた映っていた。
七波を庇いながら屋上へと逃げ、更にそこへミサイル型の怪人が追いついて来る。これを
面々の一人──睦月が守護騎士となって迎え撃とうとし、残る面々もリアナイザらしき装置
を片手に身構える。
「よりにもよって、あの子が学園に来た矢先にねえ……。少なくとも転入するって話は、対
外的には発表されてない筈なんだけど……」
一旦フッと瞳を閉じて、彼女は一人しみじみと呟いた。尤もその内容とは裏腹に、肝心の
声色の方は寧ろ弾んでいるように思える。ワクワクと。そんな彼女の、良くも悪くも旺盛な
好奇心に、一方で男性の側は半ば呆れた様子を見せている。
「……面白くなってきた」
ふふふ、と口元で微笑う声と、やれやれと肩を竦める気配。
爆音轟く非日常にあっても、事態は変わらず構わず進んでゆく。




