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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-43.Gossip/渦中の彼らは
331/526

43-(5) 弾頭のアウター

 何の前触れもなく、文字通り降って来たミサイル型の怪人に、教室内の生徒達はパニック

に陥った。更に校舎を襲った物理的な衝撃は、睦月らの近隣や上下階のクラスにまで及び、

異変に放り込まれた者達を我先にと逃げ出させ始める。

「いっ、一体何が……??」

「お、おい! 廊下を走るんじゃ──あばあっ!?」

 他の準備室ないし、廊下に居合わせた教師達が慌てて制そうとしたが、時既に遅し。

 激しいパニック状態になった生徒達には、聞く耳などなかった。寧ろ自分達が目撃してし

まったものに怯え、一刻も早く逃れようと、逆にそうした人の波が彼らを呑み込んでゆく。

「あ、あわわわわわわわっ……!!」

 教室の片隅で、七波はすっかり腰が抜けてしまっていた。全身に力が入らず、隣で片膝立

ちで身構える睦月に、つい今し方庇って貰ったこと──記憶や、男子に触れられた照れさえ

も吹き飛んでしまっている。

「……ナ」

『??』

 そんな時である。まさかこいつは──突如として現れた怪物の正体に、眉根を寄せる睦月

と七波に向かって、このミサイル型の怪人は何やらぶつぶつと呟き始めたのだった。デフォ

ルメながら狂気を感じるその眼差しは、明らかにこちらを──彼女を捉えている。

「ナナミ、ユカ……コロス!」

『──っ!?』

 そして同時、およそ常人とは思えない獣のような雄叫びを上げながら、この怪人はこちら

へ跳ぶと襲い掛かって来て……。

「ぬんっ!」

 だがそれを、直前に割って入って来た國子が投げ飛ばした。睦月と七波の背後にあった窓

ガラスへと、怪人の突っ込んでくる勢いを利用し、そのまま合気道の要領で外へと放り投げ

てしまったのだ。入って来た時と同様、盛大にガラスをぶち破り、ミサイル型の長細い身体

は、綺麗な放物線を描きながら階下のグラウンドへと落ちてゆく……。

「陰山さん!」

「大丈夫ですか? さあ、今の内に……」

 差し出された手を取って、立ち上がり直す睦月。続いて彼が七波の手を取り、腰の抜けて

しまった身体を何とか引き上げる。「睦月!」「むー君!」皆人や仁、海沙、宙といった残

りの仲間達も、グシャグシャにされ、クラスメート達が逃げ出してしまった教室内を横切っ

て駆けつけた。改めてそんな室内の惨状を見渡し、七波の顔色がどんどん青くなってゆくの

が分かる。

「だ、大丈夫? も、もう。無茶するんだから……」

「っていうかもう、全部國っち一人でいいんじゃないかな……?」

「七波ちゃんも怪我はねぇか? 動けそうか?」

「は……。は、はい。私は何とか……」

 で、でも……。心配してくれる仁以下、こちらの問いかけに、ややあって七波は言葉を濁

らせた。あれはもしかして……? 確かに聞いた。あの化け物は、間違いなく自分のことを

狙っていた。

「……パンドラ。やっぱりあいつは」

『はい。間違いなくアウターです。なのですが……どうも妙な反応で』

「? 妙って?」

「睦月。それよりも今は状況の打開だ。予定は大狂いだが──彼女の保護が最優先だ」

 そんな彼女の戸惑いと、睦月からの問いかけにデバイス内のパンドラが答える。同時に彼

女は何やら先ほどのアウターに“違和感”を覚えていたようだが、今は拘っている場合では

ない。睦月達を纏めるように、皆人が言う。

「……しかし彼女を狙っていたという事は、やはり報復か。こちらの用心が裏目に出たか」

 あの? されど歩き出し際、そうポリポリとうなじを掻きながら歯噛みする皆人に、当の

七波は困惑する。

 どうやら話しぶりからして、先ほどののっぽは、例の怪人の一人であるようだ。

 では何故この人達は、かくもこんな目の前の状況を、すんなり受け入れているのだろう?

こうも慣れたように動いているのだろう……?

「……皆人様」

「皆人。もうこれじゃあ、少しずつ云々って話じゃなくなってきたよね?」

 そしてそんな彼女の様子に、國子や睦月など、他の仲間達がちらりと一瞥を遣ってから促

していた。先刻立てた方針も、このような状況となっては秘匿も何もなかろう。……仕方な

いな。対する当の皆人も、一度大きく嘆息をつきながらもそこは認めざるを得ない。

 先の襲撃で、クラスメートや隣接する教室の生徒達は逃げ出してしまった。

 しかしこの騒ぎで、いつ他の生徒や教師、警備員などが駆けつけて来るとも限らない。

「とにかく、場所を移そう」

「奴の狙いが彼女なら、おそらく……」


 國子によって地上に落とされたミサイル型のアウターは、学園内のグラウンドへと盛大に

めり込んでいた。休み時間、軽くサッカーなどで遊んでいた生徒達が、この突然飛んで行っ

たかと思えば降って来た人型の物体に、おずおずと取り囲みながら近寄ろうとする。

「ヴォ……」

『ひいっ!?』

 しかし当のアウターは、大したダメージを負うこともなく復活した。ズボリとめり込んで

いた地面の穴から這い出てくると、相変わらず不気味なデフォルメ顔を時折ゆらゆらと左右

に振りつつ、数拍ぼ~っと辺りを見渡し始める。

「ナナ、ミ……ユカ……。コロス」

 へっ? 慌てて逃げ出そうかと後退りしていた彼らなど気にも留めず、されどこの怪人は

呪文のように呟いた。居合わせた面々が戸惑っている中、その視線はついっと高く校舎の上

階へ向く。そして次の瞬間、再び角錐状のミサイル型に可変すると、飛び立ってゆく……。


「──はあっ、はあっ、はあっ!」

 ボロボロの教室を抜け出して、七波を連れ出した睦月達は、校舎の屋上フロアまでやって

来ていた。右手には全学年共通の大グラウンド、背面には中庭と中等部・初等部の校舎。左

手奥方向には文化系の部室棟がある筈だ。

 大急ぎで上って来た階段を越えて、面々は肩で息をついていた。睦月は未だよく状況が飲

み込め切れていない七波の手を取ったまま、運動慣れしていない海沙や仁は文字通りに。國

子が後ろ手で校舎内に戻れる鉄扉を閉めつつ、基本空調機器ばかりが並ぶ辺りを用心深く見

渡している。

「よし、誰もいないな。ここで一旦奴を迎え撃つぞ。学園の敷地外に逃げるという選択肢も

なくはないが……それまでに追い付かれる可能性も否定できん」

 了解! 皆人の合図で、早速作戦会議が始まった。相手がアウターとなれば、勿論前線に

立つのは睦月だが、それ以上に今は七波を守ることに主眼を置かなければならない。

「あ、あの……」

 加えて司令室コンソールや、冴島隊にも連絡を。

 睦月達が取り急いで迎撃と避難警護の面子を決めていく最中、その当の七波がまたおずお

ずと声を掛けてきた。状況が状況だけに、頭の中が多少混乱している様子だ。先ほどまで睦

月に手を握られていたのも相まって、その表情かおは何処か赤い。

「うん?」

「その……。あ、貴方達は、一体……?」

「……すぐに分かる」

 睦月。肩越しに振り向いたままの親友に、睦月は彼女を庇うようにしてずんずんと前に出

ていった。ちょうどフロアの右半分、大グラウンドの方向。皆人達も歩き出し、彼女を守る

ように陣営を組む。──ォォォ。ミサイル型に戻ったアウターが、再び飛んで現れた。

「ナナミ、ユカ……コロス!」

「ひいっ!?」

「やっぱり、あれぐらいじゃあ死なないか……。皆、七波さんをお願い!」

『応ッ!』

 そして再び人型に変形し直し、着地するアウター。繰り返し呟き、より明確な殺意を向け

てくるこれに、睦月も臨戦態勢に入る。懐から白亜のEXリアナイザを取り出し、皆人達も

それぞれに調律リアナイザを構える。

『TRACE』

『READY』

「変身!」

『OPERATE THE PANDORA』

 目を真ん丸に見開く七波の前で、睦月が守護騎士ヴァンガードに変身する。続いて皆人達も調律リアナ

イザからコンシェル達を召喚し、ぐるりと彼女のボディガードに充てる。いざという時は彼

女を連れて、敷地外へと避難する算段だ。

「ナナミ、ユカァァァ!!」

 ミサイル型のアウターが、狂ったように叫びながら襲い掛かって来た。当然睦月はこれを

阻むように立ちはだかり、突き出してくる拳──ほぼ円柱のような腕を横に受け流して懐に

入り、踏み込むと同時に肘鉄。逆に弾き飛ばして彼女から引き離し、インファイトに持ち込

んでゆく。

「えっ……? ええっ? えええっ!?」

 戦いは終始、睦月の優勢でもって進んでいった。相手の身体の構造上、細かい殴打や立ち

回りがし辛いというのもあったのだろうが、何より彼自身の戦闘経験が存分に効いていたと

いう点が大きい。睦月と、皆人以下仲間達が呼び出した姿──守護騎士ヴァンガードの生戦闘に七波が驚

きや動揺を隠せない中、繰り返し打撃と受け流しを打ち込んでいた睦月の回し蹴りが、ミサ

イル型のアウターの顔面にクリーンヒットする。

「ア、ガッ……!?」

『マスター、決めちゃいましょう!』

「ああ。これで……止めだ!」

 スラッシュ! そして立て続けに武装を剣戟モードに変えて、相手の起き上がり際に、二

度三度四度と斬撃を。火花を散らして再び大きくよろめくこのアウターに、睦月はEXリア

ナイザに必殺の一撃をコールする。

「……チャージ!」

『PUT ON THE HOLDER』

 腰の金属ホルダーにエネルギーの刀身ごとEXリアナイザを収め、そのまま相手との間合

いを疾走。居合の如く、睦月は直後走り抜けながらの渾身の一閃を叩き込み、このアウター

を真っ二つ──絶叫しながら爆発四散させた。

「よしっ!」

 仁や宙、仲間達のガッツポーズが後ろから聞こえる。彼らに囲まれて、当の七波も呆然と

した様子で立ち尽くしていた。

『やりましたね。マスター』

「うん。思ったほど強くなくて良かったよ」

 残心からの刀身解除、仲間達に振り返りながらEXリアナイザに「リセット」のコール。

 守護騎士ヴァンガード姿から元の人間に戻り、睦月は一見穏やかに苦笑わらっていた。しかしその実内心で

は、実際に相手と刃を交えてみて、彼はその“違和感”を確かなものとしていたのだった。

(……変だな。パンドラも言ってたけど、妙に手応えが無さ過ぎる……)

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