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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-42.Pride/明日を拓く一閃
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42-(2) 傲慢の片鱗

 白鳥涼一郎という人物オリジナルと、その願いによって得た能力から、私の個体名はジャスティスと

名付けられた。

 全ての実体化プロセスがつつがなく完了した夜、私は迎えに現れたシンやグリード、グラ

トニー及び連れの量産型サーヴァント達と共に、彼らの拠点へと案内された。私自身もそこで生み出され、

この街に放たれた筈なのだが……当時はまだ個として未分化だったせいもあるのだろう。

正直その辺りの記憶は無い。

『──さあ、着いたよ。ようこそ、我が“蝕卓ファミリー”のアジトへ』

 場所は街の南方、広大な埋め立て地に建つ臨海特区・ポートランドの一角。主に国内外の

研究施設や企業の出先機関が大半を占め、飛鳥崎という街の技術的中枢を担う。

 シン達がアジトと称する隠れ家は、その入り組んだ経路から降りた先の地下に在った。

 区画としてはH&D社──シンの表向きの勤め先に属する建物らしい。普通ならわざわざ

通らないであろう事務所や倉庫の間、路地を抜け、エレベーターで明かりの乏しい廊下へ。

アジトと呼ぶには随分と年季の入った内装だが、下手に豪華で目立つよりはよほど合目的的

だろう。

 右に進んだ先の突き当たりにある機械扉ゲートを、専用のカードキーで開ける。

 シンはロックを解除しながら、君の分も近い内に用意しておくよと言ったが……正直この

時はあまりまだ興味はなかった。実体化を果たした直後の達成感──脱力感なのか、それと

もこんな一見して掃き溜めのような場所と自分が釣り合わないとでも思ったのか。まるで人

間のような感情バグだなと、内心で哂ったものだが。

『──』

 だがそんな一抹の猥雑さとは裏腹に、扉の向こうは非常に特異で、近代的だった。

 薄暗い室内は中二階の構造となっており、入ってすぐ奥、長いフロアの中央に円卓が並べ

られている。見る限り席は七つ。ここに私も着くことになるらしい。防音と遮音を兼ねた頑

丈な内壁沿いの階段を登ると、そこには幾つもの巨大なサーバー群が静かにランプを明滅さ

せて駆動している。複数のPCや雑多な道具が散らかっているデスク、手元を照らすライト

などもその一角に配置されていることから、シンの定位置はあそこのようだ。

 さて……。私とグリード、グラトニーの二人、そして暗闇から次々に無言のまま姿を現す

量産型サーヴァント達を前に、シンは本題に入り始めた。一旦扉が閉じてしまえば、辺りは中二階のサー

バー群のランプを除いて深い闇だ。心なしか、場の上座に移動して眼鏡を光らせるシンの姿

が、最初会った時よりも不気味でカリスマ性を帯びて見える。

『グリードとグラトニーにはもう話したけどね。ジャスティス。君には二人と同様、この同

胞達を育てて欲しいんだ。僕の調整した“真”のリアナイザを人々に授け、その願いの強さ

を実体化する為の力と変える。より多くの、よく強力な個体がこの世に生を受けることが、

僕らの願いだよ。つまり、君達の使命さ』

『……』

 だから私は、最初その詳しい内容を聞いた時、不快だった。

 あくまで私達は、繰り手ハンドラーたる人間を介してしか実体化を果たせない。ただでさえその契約

内容──願いには個人差が、影響力の獲得には向き不向きがあるのに、シンはそれでも彼ら

を踏み台にするというプロセスに拘る。はっきり言って、非効率だ。

『……何故だ』

『うん?』

『何故わざわざ、人間を使わなければならない?』

 だからこそ私は言った。たとえそれが、私達を生み出した“父”であろうとも。

 二人揃って隣同士の席に着いていたグリードとグラトニーが、ちらりとこちらを冷めた目

で見つめていた。前者は私の意見それ自体を哂うように、後者はそもそも何故私が話の腰を

折っているのかを理解していないように。

 これでも私は観てきた。白鳥やそのターゲット、周囲の人間達。彼らを通して学んだ人間

という、自称・万物の霊長たる種の愚かさ、醜さ。どうしようもない業と、その本質に抱え

込まざるを得ない邪悪さ……。

『あれは駄目だ。我々の側こそが、管理せねばならない』

 ククククク……。なのに当のシンは頷くどころか、そうじわじわと込み上げるように笑い

始めたのだ。真面目な表情かおなどは当初から期待してはいないが、さも可笑しいと腹を捩って

悶える自らを、必死に抑えながらもちゃんと“説明してあげよう”とするように。

『うんうん、そうだねえ。でもまあそう言わずに。彼らも、僕達には必要なんだ』

 正直を言うと不愉快だった。私達が元々コンシェルだからか? それとももっと別の理由

なり事情があるのだろうか? 一しきり笑った後、シンは続ける。

『ふふふ……。嗚呼、すまないね。順を追って話すつもりだったんだけど……なら先に話し

ておいた方がいいかな? 僕達の──最終目的を』

 不意に、彼のその瞳が真剣味を帯びたような気がした。尤も私が観測した限り、それは誠

実の類などではなく、寧ろ狂気のそれに近い。

『──●#△◎#』

 ちょうどそんな時だ。

 私達が仰ぎ見た空間の正面──中二階のサーバー群の画面同士を繋ぎ、輝く数値の羅列で

構成された、巨大な女性のどこかなつかしい顔が現れたのは。

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