表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-41.Pride/悪を摘む者達
318/526

41-(7) 遅れてきた者

「デューク!」

 角野ことアーマー・ライノ渾身のタックルで吹き飛ばされたのは、仁と國子、及び偶然近くに立

っていた他数名の隊士達だった。すんでの所で転がり跳び、辛うじてこれを回避した残る皆

人達は、思わず大穴の空いたそこから地上に向かって叫ぶ。

「あいっ、たあ……」

 常人ならば、間違いなく即死している高さだ。本体は司令室コンソールの一室に集まっている。同期

したコンシェルの身体だけでやって来て正解だった。

 白鳥の執務室から地上、中央署の真ん前に落下した仁達は、最初数拍ピクリとも動かなか

ったが、すぐに遅れてやって来た鈍痛に喘いでじたばたともがいていた。その姿に皆人達は

一先ずホッと胸を撫で下ろすが、案の定すぐに白鳥やグリード、グラトニー、及び既に配下

と思しき人間態のアウター達──署内の刑事や職員らが集まっては迫って来る。

「……あうあ」

「痛てて……。チーフ、姐さん、大丈夫ッスか?」

「私なら平気です。それよりも、来ますよ」

 何より地上の仁達の方には、同じく突進の勢いのまま落下してきたライノが、着地の衝撃

で大きくひび割れた地面をもろともせずに残心。敵意を剥き出しにしている。

「俺達も降りるぞ! 隊長、風を!」

 続いて皆人達も、一斉にこの大穴から飛び出した。戦力が分断されるという懸念以上に、

とにかく部屋の外へ出ようという意識が勝ったからだ。がしりとまだ混乱している筧の首根

っこを掴みつつ、ジークフリートの起こした風に包まれて滑空。同じく中央署前の広場へと

着地する。

 これに驚いたのは他でもない、この場所に集まっていた大勢の人達だろう。

 中には連日の警戒態勢と“同僚殺し”の情報を追い、署を張っていた記者らも含まれては

いたと思われる。それでもこの日この場に居合わせ、偽の筧騒動後の余韻の中にいた野次馬

もとい通行人達は、突如として自分達の頭上から降ってきた一団──皆人以下対策チームの

面々とライノを始めとした怪人達の姿に、大いに錯乱した。誰からともなく悲鳴を上げては

散り散りになって逃げ惑い、辺りの物をぐちゃぐちゃにひっくり返しながら離れてゆく。

「……よくもやってくれたな。貴様ら、このまま生きて帰れると思うなよ」

「あ~、あいつらだ~。いっぱいいる~。ねえねえ? 食べてもいい?」

「おう。つーか、食い尽くしちまえ。ここで全員ぶっ殺しでもしねえと、もう帳尻も何も合

わねえよ」

 壁の大穴を降りながら、白鳥達はそれぞれ怪人態──アウター本来の姿に変身した。

 白鳥ことプライドは、単眼の銀仮面を被った紳士。手にはあの“処刑”能力を象徴する法

典が握られている。グリードはモフの付いた盗賊風の怪人へと姿を変え、グラトニーも元の

体形を更に増したような、分厚く巨大な顎と丸太のような巨体を持つ異形へと変わる。

 加えてその背後からも、一人また一人と普段人間として潜り込んでいた配下のアウター達

が合流してきた。同様に変身し、怪人としての本性を現してこれに続く。

「……やはりそう簡単には、逃がしてはくれないか」

 小さく舌打ちをし、皆人ことクルーエル・ブルーがそう呟く。

 飛び降りる際に一緒に連れてきた筧に、避難していてくれと指示し、一行はプライド達を

迎え撃つことにした。地下水道で睦月と別れて来てしまった以上、逃げ惑う周囲の人々を守

れるのは自分達しかいない。強敵とは知りながらも、決死の覚悟で身構える。

「殺せ。一人残らずだ!」

 初手のプライドのギロチン召喚を掻い潜り、皆人達は一斉に散った。一ヶ所に纏まってい

れば格好の的になる。少しでも時間を稼ぎ、同時に人々の避難誘導も行う。ただでさえ怪物

達が降ってきたと錯乱している所に、件の筧兵悟まで現れたものだから、寧ろ彼らの恐怖心

は増すばかりだったが。

 プライドは今回自身の能力だけに頼らず、地の高い戦闘センスも存分に活かして皆人らに

襲い掛かってきた。クルーエルの刺突やジークフリートの炎剣もことごとく軌道を見切った

上で捌き、重く素早い肘鉄や蹴りを確実に叩き込む。

 グリードは持ち前の速さで朧丸と打ち合いになりながら、尚且つ掌握の能力でまだ同胞と

入れ替えていなかった人々さえも手駒にし、盾に矛にと使い分けて翻弄してくる。その横で

グラトニーは巨体が故のパワーを振るい、援護に入ろうとする隊士達を次から次へと叩きの

めしていた。グリードに「許可」を貰ったこともあり、倒した傍から彼らを食べようとする

が、他の隊士達からの妨害や直前で同期を解かれて消滅していってしまうこともあり、中々

その食欲を満たすことは出来なかったが。

 ライノからの猛攻は、必然メンバー随一の防御力を誇る仁が担った。しかし最初の突進を

防ぎ切れなかったように、デュークの盾と装甲の分厚さをもっても、辛うじて一瞬耐えるの

が精一杯だった。仁は必死に踏ん張り、海沙や宙、ビブリオとMr.カノンによる援護射撃

や隊士達の避難誘導を支えたが、鎧のように頑丈なライノの皮膚は、掠り傷一つ付かない。

「……チッ。やっぱし硬えなあ」

 カノンが放ったライフルですら、弾丸の方が衝撃に負けてへしゃげ、大きく飛んできた方

向に弾き飛ばされる。自身の突撃槍ランスもギィン! と甲高い金属音と共に弾かれ、仁は改めて

回避を兼ねつつ、距離を取り直して呟いた。

「どうすんのよ!? ダメージが入らなきゃ倒せないじゃん!」

「ああ……余所見は駄目だよう! あ、そこ、後ろから攻撃来るよ!」

 必死にアシストする海沙と宙も、手詰まり感が否めずに焦っていた。ただでさえ相手側は

幹部級が三人、皆人達も苦戦を強いられている。単純な数の利でさえ、後から後から増えて

きた配下のアウターらによってあっという間に埋められてしまい、隊士達も気付けば結構な

人数が同期を解除──戦闘不能による離脱ドロップアウトに追い遣られている。

「……何だ。あいつは来ていないのか」

 そんな時である。乱戦と苦戦を強いられる中、更にこの中央署前の広場に、黒いリアナイ

ザをぶら下げた勇が現れたのだった。

 えっ? まさか……。

 逃げ惑っていた人々が、一人また一人とその近付いて来る姿を認め、戦慄する。

 ただでさえ実はまだ生きていたという事実に驚いていたのに、そこから更に彼が手にした

黒いリアナイザに『666』と入力し、姿を変えたのだから、もう絶望しかない。

「変身」

『EXTENSION』

 直後、闇色のバブルボールのような光球に包まれ、彼は龍咆騎士ヴァハムートに変身を遂げた。漆黒の

パワードスーツから覗く両眼は、錆鉄色に一度明滅し、必死の戦いを繰り広げる皆人達やプ

ライドらをざっと睥睨する。

「思いの外早かったな」

「ええ。その、プライドさん」

「……とにかく手伝え。お前の尻拭いは、お前でするんだ」

 数拍勇は何やら口籠っているようだった。いや、何かを恐れていたのか?

 されどその言葉を向けられた当のプライドは、再三皆人達を蹴り飛ばし、召喚した刑具の

槍や剣などを放って彼らに激しく火花を散らせながら、今はすぐ加勢するようにと命じる。

(拙いな……。このままじゃあ、俺達は間違いなく全滅だ)

 繰り返し叩き込まれたダメージに激しく息をつきながら、皆人は内心その同期の下で苦悶

の表情を浮かべていた。ただでさえ幹部級三人を一度に相手するという無茶をやらざるを得

ないというのに、これ以上敵が増えたら逃げるものも逃げられない。

 既に隊士達の多くが、戦闘不能になってしまった。こちらの数は減ってゆく一方だ。かと

いって自分達だけが同期を解いて離脱したとしても、奴らはこの場に居合わせた人々を決し

て逃がしはしないだろう。筧刑事だって取り残してしまう。多少一般人に比べて荒事に慣れ

ているとはいえ、こと対アウターとなれば無力だ。完全に、作戦が裏目に出ていた。

(……すまん、睦月。俺達だけでは、押さえ切れな──)

 だがちょうど、そんな時だった。同期したコンシェル姿でボロボロになり、最早防衛線も

維持できないと皆人らが諦めかけた次の瞬間、周囲のアウター達が次から次へと、放たれた

エネルギー砲の餌食となったのだ。激しく火花を散らして吹き飛ばされ、或いはそのまま蓄

積していたダメージが限界を越えて、爆発四散する。

「!? まさか……」

「何だよ。やっぱり来てるんじゃねえか」

「……むー君」

「あははは……。ったくよう、憎い登場の仕方してくれるじゃねえの」

「本当よ。まったく、無事なら無事って言いなさいよね?」

「……何とか、持ちこたえられたようだね」

「ええ。これで、全員集合です」

 消滅してゆく配下らを視界の端にさえ置かず、プライド達は警戒心を露わにしている。尤

も勇だけは、何処かその登場を期待していたようだったが。

 海沙や仁、宙などが酷く安堵したように、そんな憎まれ口を叩いていた。或いは無表情な

コンシェル姿のまま、同期の下で涙声を漏らしている。冴島や國子、残る隊士らがゆっくり

と、そう呟きながら倒れ伏した身体を起こし始めた。

「……睦月」

 皆人と、そして司令室コンソールにて急ぎこの一部始終を捉えていた萬波や香月、映像越しの皆継以

下、対策チームの仲間達。

『──』

 はたしてそこには立っていたのだった。

 地下水道から中央署内を突っ切り、こちらに煙燻るEXリアナイザの銃口を向けた白亜の

パワードスーツ。守護騎士ヴァンガードに身を包んだ、他でもない睦月の姿が。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ