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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-41.Pride/悪を摘む者達
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41-(3) 反動、それでも

 時を前後して、飛鳥崎に広がる地下水道の一角。

 マッシュ・ムーンこと円谷を撃破した睦月は、一旦変身を解除し、石畳の足場の上に大きく仰向

けになったまま、忙しなく息を荒げていた。

 場所が場所だけに、辺りは水臭いし、じめじめとしている。

 ただでさえ強化換装を使った戦闘は消耗が激しく、その反動も大きいのに、ことトリトン

フォームは水中戦も可能だ。普段の生活で水泳がエクササイズになるのと同じく、その疲労

度は、これまで以上に割り増しであるかのように感じられる。

「ぜえ、ぜえ……。流石に……しんどいな……」

 呼吸するのも手間取って、そうぼやきを絞り出すことさえ辛い。

 状況的に仕方なかったとはいえ、やはりこんな場所に一人残ったというのは正直心細いと

いうか、気持ちを萎ませる作用がある気がする。本音ではすぐにでも皆人ら仲間達を追いた

かったが、身体が言うことを聞いてくれない。少なくともある程度回復を待たないと、まと

もに動くことは出来なさそうだ。

『だ、大丈夫ですか? マスター?』

 いや……一人残ったという表現は正確ではない。

 そうして呼吸を整えながら、じっと仰向けになっている睦月に、手元のEXリアナイザの

中からパンドラが心配そうに呼び掛けてきた。他でもない守護騎士ヴァンガードの制御システム全般を担

う彼女は、この主の消耗具合を否応なく測り知れてしまうからだ。

 上蓋部分から、ブゥゥン……とホログラムの映像越しに現れ、おずおずとこちらを覗き込

んでくる相棒。電脳の少女。

 そんな彼女に、睦月は努めて苦笑いを浮かべていた。優しい声色を返して、先程からずっ

と気になっていたことを確認する。

「平気だよ。ちょっと、疲れただけ。それよりも……作戦の方は順調なんだよね?」

『はい。今の所は、司令の“誘導”通りに』

 ピコピコと、背中の三対の金属羽や銀髪のアホ毛を動かし、パンドラはそう何やら観測し

たデータを確認するようにしてから答える。

 そっか。ならいいんだけど……。まだまだ回復が追い付かず、まともに言うことを聞いて

くれない身体を休めながら、睦月は一旦急いていた頭の中を落ち着かせた。如何せんムーン

との戦闘で過熱気味だった自分の精神を、冷やそう冷やそうと努める。

 ──作戦。尤も今回のそれも、睦月自身はあまり乗り気ではない。

 確かに今回は白鳥の“化けの皮を剥がす”のが目的で、かつ自分達の正体が明るみになら

ないように立ち回るには、他にやりようが無かったのかもしれないけれど。

 問題は、その目的を達成した後、如何に筧刑事と合流・回収してくるかだ。

 だからこそ、その為に自分を含めた皆人以下実働部隊が総出な訳だが……舞台はいわば敵

拠点のど真ん中だ。少なくとも、何の波乱もなしに撤収できるとは思えない。

 大きく息を吸って、きゅっと眉間に皺を寄せながら一旦呼吸を止める。

 相手はプライド。蝕卓ファミリー幹部の一人で、カガミンを殺した人物──。

「……ここで強化換装を使ったのは、間違いだったかなあ?」

 だからこそ、睦月は自身の判断を悔やんだ。これら形態は強い力を発揮できる分、その後

の反動が大きい。基本的に連戦には向かないのだ。

 まだ回復し切らない、ろくすっぽ動かせない身体がもどかしい。こうしている間にも、皆

は敵地のど真ん中に突入しているのだ。戦力的にも、自分が抜けているというのはリスクが

大きい筈……。

『でも、あそこでマスターが奴を押さえておかなければ、作戦そのものが進まなくなってい

たんですよ? トリトンフォームも、奴の特性に対応した最善の選択だった筈です』

 やや膨れっ面でふんすと、両手の拳を脇に引き寄せて。

 パンドラはそう逆ガッツポーズをしながら、この睦月の弱音を一蹴した。彼女なりの激励

の心算だったのだろう。そんな小さな相棒の懸命さに、睦月は苦笑いを零すしかなかった。

観念して素直に回復が進むのを待つが、されど暫くしてもぞっと起き上がる。

『ま、マスター? あまり、無茶はしない方が……』

 確かに身体に鞭打つ格好ではある。だがお陰で身体は動くようになってきた。手足さえ動

けば、また立ち上がれる。

「……大丈夫。さっきよりは楽になったから」

 そんなパンドラの心配を余所に、睦月はゆっくりと歩き出した。

 EXリアナイザを、彼女が入ったこの最終兵器を片手に、再び仲間達の下へと。

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