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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-41.Pride/悪を摘む者達
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41-(2) 私刑執行人

 私を召喚した繰り手ハンドラーの名は、白鳥涼一郎。この街、集積都市・飛鳥崎にて刑事の身分を得

ている若きエリートだ。

 そんな彼が、私を呼び出した際に願った契約は──世に蔓延る「悪人」達を一人残らず根

絶やしにすること。

 一般的な知識と理解では、彼の持つ身分からして一見それは矛盾した願いだ。だが他人に

直接影響を及ぼすような行為は、我々にとっては実に都合が良い。

 故に私は、その契約を引き受け、先ずは自身の実体確保の為にと動いていた。街の夜闇に

紛れつつ、今日も今日とて世に蔓延る「悪」を狩る。中々どうしてか、人間という生き物は

こちらの選定基準にあり余るほどその条件に殺到してくれる。幸いなことだ。この調子でゆ

けば、私はそう遠くない内に所定の進化を果たすだろう。


『──圧死刑だ』

 男の頭上から、頑丈な金庫が落ちてきてこれを押し潰す。辺りに血の海を広げつつ衝撃で

開いた扉の中からは、大量の札束が覗いていた。暴利を貪り、人々から金を巻き上げていた

彼にとっては、おあつらえ向きな最期だろう。

 とある雑居ビルの一室。私達は今回のターゲットを一通り始末し終え、静かな達成感と若

干の疲労に身を任せていた。

 私が適当な“判決”を下して標的を始末し、並行して白鳥が財布を抜く、衣服を乱すなど

の偽装工作を行う。

 それが私達の、いつものやり方だった。ターゲットは全て常習犯だったり、地域で悪名を

挙げている──実害を出すような業者やヤクザ、不良の類。人間が人間を守ろうとする余り

自縄自縛になっているその綺麗事を超え、超法規的に社会の「悪」を一つ一つクレンズして

ゆく作業だ。最初は、人間とは実に両極端な、矛盾する思考を抱えている存在だなと捉えて

いたが……なるほど、これはこれで確かに“効率的”ではあるのだろう。

『そっちは終わったか?』

『ああ。圧殺だ。そのように処理を施してくれ』

 分かった。この男、白鳥はそう頷き、今日も足元に広がるこの人間だったもの達に淡々と

工作を施してゆく。彼も彼で、すっかり手慣れたものだ。昼間の仕事ぶりを見なければ、誰

もこの人物が現役の刑事だとは思わないだろう。そこまで丹念で、且つ自分達が殺した者達

を徹底して“物”として処理するさまは、裏を返せば彼がこうした「悪人」らを執拗なまで

に憎んでいる証明だと言える。

『“悪は、その可能性から摘むべき”』

『“十を守る為に一を殺す”……だったな?』

 能力を解除し、男に圧し掛かっていた鈍器きんこが消える。

 私がそう、かつて彼自身が話してた言葉を暗唱すると、白鳥はついっとこちらに顔を向け

て見上げてきた。単眼の銀仮面を被った紳士。彼が私に与えたイメージの姿を、彼は改めて

その瞳に記憶するようにしてから頷く。

『……ああ。これだけ人間が一ヶ所に集まっているんだ。澱めば澱むほど、こいつらのよう

な失敗作は増えてゆく。そんな奴らを野放しにしていれば、間違いなく善良な市民は割を食

わされることになるだろう。だから定期的に、積極的に駆除するんだ。こんな糞みたいな連

中の所為で、私達人間のクオリティと生存が脅かされるなど、あってはならない』

 正直を言うと、私自身、彼の思想にそこまで共感している訳ではなかった。ただ私を召喚

した繰り手ハンドラーだから、その契約内容だから、履行しているに過ぎない。

 それでいい。私達にとってはそれで十分だ。あくまでこれは、手段なのだから。

『何故だ? 何故お前はそこまで、この浄化クレンズに邁進する?』

 だが……私という個体は、一方で興味があった。彼自身の思想云々よりも、彼という人間

をそこまで衝き動かすに至った原因、そのモチベーション発生のメカニズムは、今後の私に

とっても有用な資料になると考えていたからだ。

『……聞いてもつまらないと思うがな。私がまだ、幼かった頃の話だ』

 故に私は訊ねていた。

 最初は数拍、眉間に少し皺を寄せて逡巡する素振りを見せていたが、やがてこの男・白鳥

涼一郎は、そう私からの問いに答え始める。

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