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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-40.Assault/今明かされる都市伝説
307/526

40-(4) 猪口才な人間

 建物の外が連日物々しい雰囲気に包まれているにも拘わらず、署内自室の白鳥はじっと落

ち着き払ったかのようにデスクに座り続けていた。

 それはひとえに、待っていたからだ。

 表に集る外野どもなどではない。この状況、水面下で確実に仕掛けてくるであろう、自分

達“蝕卓ファミリー”の宿敵のことを……。

「プライド様」

「ご報告します」

 ちょうどそんな時だった。部屋の入口をノックして、配下の刑事達が姿を見せる。言わず

もがな、白鳥らの正体を知る“同胞”達である。

 スッと流し目を遣るようにして、後ろ手に扉を閉めた彼らに、次の言葉を促す白鳥。

 そんな彼に、この部下達はとうにこなれた様子で敬礼のポーズを取ると言った。

守護騎士ヴァンガード達が現れました。地下水道です。現在、円谷殿が彼らと交戦している模様です」

「ほう?」

 来たか……。待っていたその報告に、白鳥は静かに目を細める。

 流石に真正面から攻めるのは分が悪いと考えたか。だがそれはこちらも計算の内。奴らの

侵入した地下ルートには円谷を、地上ルートには角野をそれぞれ配置している。

「それで、筧は?」

「はい。報告によると、姿は確認できないとのことです」

「どうやら別行動を取っているようでして……。先刻、別方面から、奴が一人裏町へ入って

ゆく姿が目撃されています」

「ふむ……?」

 白鳥は口元に軽く握り拳を当てて、一旦考えるような仕草をした。それでもそんな思考と

現状への対応は別物だと割り切ったのか、すぐに彼らへ次の指示を飛ばす。

「では、兵力をそちら方面に振り直せ。角野にも一旦戻ってくるように伝えろ。連中はこの

すぐ真下にまで近付いて来ている。決して署内に踏み込ませるな。向こうがわざわざ人目に

付かないルートを選んでくれたんだ。丁重に“歓迎”して──始末しろ」

『はっ!』

 敬礼のポーズのまま了解と応え、足早に出てゆく部下達。その気配と靴音が遠ざかってゆ

くのを聞きながら、部屋にまた一人残された白鳥は内心先程からずっと考え事をしていた。

ある種の違和感を覚えていた。

 ……妙だな。どうにも攻め方が単純過ぎる。

 ただ私と戦って、倒せばいいという状況ではないことは向こうも理解している筈だ。少な

くともそれでは、筧兵悟に貼られた烙印うたがいは晴れない。あれだけ戦力を投入して奴を取り戻し

たというのに、利用して来ないというのも妙だ。或いは元より彼らにそんな心算はなく、自

分達の身バレも辞さずに私を倒そうと……?

 いや、決め付けるのは早計か。それでも警戒するに越した事はない。状況的には今も尚、

こちらに正当性がある。もし万が一にも私を倒せたとしても、白鳥涼一郎という人間のロス

は、倒した連中の側に罪が掛かる。その辺りも、解っていないとは思えないのだが。

(忌々しい……)

 だからこそ、この正当性の強化の為に、かねてより筧兵悟を“特安”指定にすべく水面下

で動いていたのだが、どうも生身の幹部連中は『まだ直接市民に害が及んでいない』と及び

腰だ。お陰で、肝心の手続きも遅れている。

 猪口才な人間どもめ。身内の──組織としての保身、醜さがここに来て裏目に出たか。

 だが仕方ない。奴らがここまで攻めて来た時点で、もう間に合わないだろう。一連の始末

が終わったら、残りの幹部達も早々に“こちら”と入れ替えてしまわなければ……。

「──?」

 だが、次の瞬間だったのである。ふと白鳥ことプライドの耳に、これまでよりも殊更に騒

がしい声が聞こえてきた。どうやら建物の外、署の前で何かトラブルが起きたらしい。ちょ

うどこの時、伝令を受けた角野とその他部下達も戻って来て、同じく何事だろうと入室して

早々辺りを見渡している。

 静かに顰めた眉。そして白鳥はおもむろに席を立ち、窓際のブラインドを軽く指先で押し

除けると、眼下に広がるその光景を見下ろした。

『か、筧だ!』

『筧兵悟が出たぞー!』

 するとそこでは、繰り広げられていたのだった。

 この建物、中央署の前。そこに現れた白鳥達も見覚えのある姿をした男が、多数の警官達

に包囲されながら、暴れているのを。

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