40-(0) 悔恨
今思えば、由良が『二手に別れましょう』と言ってきた時、俺はあいつを止めるべきだっ
た。勝手な親心を利かせ、こいつも先ず俺を頼ることから離れて一人前の刑事になろうとし
ているんだなと、その心中を察せなかった事がそもそもの間違いだったんだ。
一体どういう経緯で、どれほどの事実を知ったのかは分からない。
だが少なくとも、あの時点であいつは越境種や当局について怪しんでいたのではないか?
その確証を得ようとしていたのではないか?
つまり、わざわざ一人で調べようとしたのは──俺を巻き込まない為。
……馬鹿野郎。要らない所ばかり似やがって。先輩よりも先に逝ってどうする。
白鳥達に消されたのは、十中八九蝕卓と当局の繋がりに、あいつが勘付いてしまったから
なのだろう。或いはもっと踏み込んで、触れようとしたからか。
……何てことはない。敵は始めから、すぐ傍にいたんだ。
もし当局自体がクロ──白鳥や幹部連中が染まっているのなら、これまでの不自然なほど
の隠蔽や性急さにも合点がいく。というより、その為に奴らが組織内に入り込んだと考えた
方が妥当だろう。少なくとも、昨日今日の話ではない筈だ。
(すまねえ、由良。俺のせいで、お前は……)
悔しくて悔しくて、何度だって唇を噛み締める。
相棒がいなくなってから、一体何度、俺は自分の不甲斐なさに己をぶちのめしたくなった
だろう? いっそ暴発し、何もかも吐き出してしまいたかった。
だけども出来なかったのは……ひとえにそれが刑事の誇り以上に、あいつの犠牲を無駄に
する事だと、頭の何処かで解っていたからだ。
あいつが自身の血を使ってでも俺に残そうとした『ASU』──杉浦が連中の仲間だとい
うメッセージ。俺にはその意思を、受け継ぐ義務がある。あいつに代わって白鳥達を、この
街のど真ん中で踏ん反り返っている奴らの鼻っ柱をへし折らなけらばならなかった。
尤もその為に、そんな事実に俺自身が行き着く為に、対策チームなんていう外野の集まり
に借りを作ってしまうことにはなったが。
「……」
全くどいつこいつも、他人を馬鹿にしてやがる。
連中に捕まって、あっちこっちを引っ張り回されて。
俺自身が表向き容疑者にされちまったことは、正直どうでもいい。それよりも今は、奴ら
をあの場所から引き摺り降ろすのが先だ。
大よそ身体の傷は癒えた。一体あれから、どれだけ時間が経ったのだろう? 相変わらず
でたらめな技術だが、今は都合が良い。元よりじっとなんざ──大人しく怪我人なんざして
られない。
(……もう少し待ってろよ。由良)
だから俺は一人歩いてゆく。目指すべき場所ならば決まっている。
全ては由良の弔いの為。あいつの信じた、正義の為だ──。




