39-(6) 突入開始
かつてのリベンジを兼ねた大規模作戦が、いよいよ始まった。司令室を出発した守護騎士
姿の睦月と、それぞれのコンシェルに同期した皆人や冴島以下仲間達とリアナイザ隊の面々
が、同室を大きく迂回してから、飛鳥崎中に張り巡らされた地下水道を行く。
「次の三叉路を右に、そこから二番目の曲がり角まで直進だ。その先に一段高くなっている
区域が始まるから、そこへ入った後は暫く道なりに進め」
いつ敵と出くわしてもいいように、お互いを予めテープで結んだまま、國子の朧らが持つ
ステルス能力の恩恵を受ける。
睦月や冴島、仁や國子と共に先頭を行く皆人が、そう随時道筋をナビゲートする。
一見すると他人からは見えない迷彩状態の中、緊張と軽く切れる息を混じらせながら、睦
月達は一路、飛鳥崎中央署最寄りの侵入路を目指していた。その間も随時的確にルートを指
示する皆人に、睦月がちらっと感心したように言う。
「よく道覚えてるね? ここの地下って、もの凄く複雑な筈だけど……」
「俺は対策チームの司令官だ。作戦に必要になる道順くらい、とうに頭に叩き込んである」
そう、クルーエル・ブルーと同期した姿で何でもないという風に答える皆人に、睦月は思
わず苦笑した。冴島のジークフリートと仁のグレーデューク、國子の朧丸。後ろを隊士達と
共について来る海沙のビブリオや宙のMr.カノンからも、小さく感嘆というか、ふいっと
緊張の隙間から同じような声が漏れる。
「それより……。そろそろ地図的に中央署が近くになってくる。この先のT字路を左に曲が
って直進してゆけば、敷地内の一角に出られる筈だ。見えてきたら、司令室との通信は控え
てくれ。基本的にできないものと考えろ。あの時とはまた違うだろうが、奴らに回線を辿ら
れてしまえば、こちらの本拠地がバレる危険性がある。H&D社の生産プラントに潜入した
時と同じだな。打ち合わせの通り、撤退のタイミングを見誤るな」
──了解。あくまで生真面目で慎重な皆人からの言葉に、睦月以下仲間達は素直に頷き、
耳を傾ける他なかった。
こちらの本丸、司令室の位置がバレぬよう、敢えてアトランダムな遠回りをしての行軍。
國子や隊士達のコンシェルに積んだ、ステルス能力を最大限活かしての隠密行動。
上手くいけば、ストレートに白鳥ことプライドの下に辿り着けるかもしれない。だが肝心
なのは、その後どれくらいのタイミングで奴が尻尾を出すかだ。筧の動向もある意味で必須
であり、不安材料でもある。皆人が渡した“保険”がしっかり働いてくれればいいが……。
『……っ!? 待って! この先にアウターの反応、それも多数!』
だがちょうど、その時だったのだ。睦月達が最後のT字路を左折しようとした直前、EX
リアナイザ内のパンドラが、ハッとその存在を感知して叫んだ。
にわかに緊張し、慌てて足を止めようとする一行。
しかしこの時既に“敵”の攻撃は始まっていたのである。T字路に差し掛かり、警告され
た左側へ睦月達が視線を遣ろうとした刹那、目の前に広がっていたのは──地下水道の薄闇
に輝く、大量の微細な粒子。
「!? 何だ?」
「小さな……粉?」
ぎゃあああああああッ!? するとどうだろう。この空間に振り撒かれていた無数の粒子
が、睦月達の身体が触れた直後、激しい火花を放ってその猛威を振るったのだった。相手か
らの先制攻撃だと理解したのも時既に遅し。てんでバラバラにダメージを受けて弾き飛ばさ
れた一行は、半ば強制的にステルス状態を解除させられて辺りに転がった。お互いを結んで
あったテープが千切れる。どれだけ姿形が傍からは見えなくとも、事実睦月達はここに居る
のだから。
「ぐっ……! あっ……!」
「み、皆、無事か!?」
「な……何とかな」
「痛つつ……。何だあ?」
「一体、何が起こって……?」
完全に不意打ちを食らった格好で、めいめいに転がる仲間や隊士達。幸いにもこれ単体で
致命傷にならずは済んだが、間違いなくこちらの作戦、その第一段階は破綻した。
『──』
はたしてそこには、待ち構えていたのだった。
中央署敷地内、その最寄りの地上へと繋がる梯子と通路を前に、よろよろと立ち上がった
睦月達を待ち構えていたのは、アウターの軍勢だった。大量のサーヴァント達を率い、両肩
や身体のあちこちからキノコを生やした、深海色のクラゲを彷彿とさせるアウターだった。
「っ、お前は……!!」
ジークフリートの姿を借りた冴島が、思わず声を詰まらせる。
M・ムーン・アウター。
一度は冴島隊を圧倒し、その身柄を拘束した、白鳥の側近が一人・円谷の真の姿である。




