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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-39.Assault/君が為の攻略戦
299/526

39-(3) 巣窟、その頃

「そうか。やはり、あいつでは止められなかったか」

 時を前後して、飛鳥崎中央署内。白鳥の自室。

 角野と円谷から杉浦ライアーが倒されたとの報告を受け、彼はデスクの上で両手を組んだまま、

そう静かに呟いていた。

 配下を失い、言葉なく沈む。

 事情を知らない者からすれば、一見そんな風に見えたかもしれない。だがことこの白鳥と

いう男──プライドに関しては、およそそういった情などは存在しない。

 寧ろプライドは、元からそこまで期待していなかったように見えた。あくまで自身の駒と

して使い捨てるのだから、一々リソースを傾けてやる必要すらない。

「中々どうして、邪魔者一人“消す”のに難儀するものだ。やはり西大場の一件の時点で、

始末しておくべきだったか。伊達に私に楯突いてきた宿敵──というべきか」

 ぶつぶつと、嘆くように思案するように漏らす声。

 だが次の瞬間プライドは、ククク……と嗤っていた。冷静沈着なエリートという仮面の下

から、どす黒い狂気と殺気が滲み出る。

『……』

 尤もその一方で、彼に報告を上げに来た角野と円谷──A・ライノセスとM・ムーンは、

共に渋い表情かおを浮かべていた。プライド様をこうも煩わせるなど……。糞真面目な憂いと毛

嫌い。筧兵悟も守護騎士ヴァンガード達も、このまま放っておけばきっと遠くない将来、自分達にとって

大きな障害となるだろう。我らが主はどうも、その辺りを軽く見ておられるような気がする。

「……早々に、奴を“駒”にしておいた方が良かったのでは?」

「本来ならな。だがそうもいかない。お前達だって解っているだろう?」

 少し躊躇いつつも、そう訊ねてみる角野。

 するとプライドはフッと肩を竦めてみせると、言った。彼も彼で、この側近達の心配性に

は気付いているようだ。ただ倒してしまえばいいのなら力さえ振るえばいいが、実際はそう

もいかない。あくまで戦いは、自分達“蝕卓ファミリー”が目的遂行の為の、いち手段でしかないのだ

から。

「“駒”を育て、尚且つ入れ替えを済ませるには相応の時間が要る。その過程でグリードの

能力は必須ではあるが、増え過ぎても、奴が一日に捌かせられる人数には限界がある」

『──』

 あくまで余裕綽々といった様子のプライドと、直立不動でこれを聞く角野・円谷。

 だがそんな彼らのやり取りを、部屋の外からそっと盗み聞きしてようと耳立てている者達

がいた。アウター対策チーム側の、当局内に潜入している内通者達だ。気配を殺して何人か

が周囲の見張りを務め、残る一人が緊張した面持ちで、懐から聴診器のような装置を取り出

して壁に押し当てている。

「何より……筧兵悟という人間は、手下としては馴染まない。あの男はいわば“反骨の塊”

だ。組織に属しながら自らの信念を貫き、その利益が損なわれることも厭わない……。そん

な彼がある日“入れ替わって”従順になったとしたら、間違いなく私達を怪しむ者が出てく

るだろう。こと奴の同期や、ノンキャリアの連中がな。そもそも目的は嗅ぎ回られない為な

のに、それでは意味がない」

「ええ……」

 角野と円谷が、そう半ば押し切られる形で頷いていた。相変わらず心配の渋面そうを浮かべた

まま、認めざるを得なかった。

「彼は結局、守護騎士ヴァンガード達が連れ去ってしまった。つまりは背後にいる、私達と事を構えるつ

もりなのだろう」

「……やはり、ですか」

「面倒な事になってしまいましたね」

「確かにな。だがまあ、いずれは決着をつけなければならなかったんだ。奴らはきっと仕掛

けてくる。そう遠くない内にな」

 手筈通り、警戒を怠るなよ? プライドがそう改めて指示を飛ばし、二人が「はっ!」と

挙手敬礼のポーズでもってこれに応えた。なまじ当局の中枢、現役の刑事だけあって、その

所作には年季が感じられる。

「……だがその前に」

 そしてプライドは、更にこれに併せて動きを見せたのだった。スウッと目を細めて部屋の

外側、密かに聞き耳を立てていた内通者達の方へと視線を投げると、同じく振り返った角野

と円谷を従えつつ呟く。

「そこに居るネズミどもの、掃除もしないといけないな」

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