38-(7) 詐欺師討伐
「守護騎士……!? もう嗅ぎ付けて来たのか!」
突如として押し入って来た侵入者らに対し、ライアーは咄嗟に身構えた。気持ち前に出た
バーナーと背後の筧の間に、ちょうど自分は直接攻撃されない位置へサッと後退り、両手を
広げ気味にしてそう、彼を暗に人質にしていることをアピールするように睨み返す。
「刑事さん!」
「やっぱり、あいつの召喚主にされてたのね……」
「もう逃さない。今度こそ決着をつけよう。彼は、返して貰うよ?」
「はん……」
海沙がそのボロボロさを見て思わず声を上げ、宙が唇を噛む。
どうやら皆人の予測は大よそ当たっていたようだ。冴島とジークフリートが、抜剣と宣戦
を同時に行って言う。ライアーは悪態よろしく舌打ちをし、次の瞬間デジタル記号の光に包
まれて怪人態に変身した。寸胴な肉柱と唇の全身に苛立ちの血管を浮き立たせて叫ぶ。
「それはこっちの台詞だ! わざわざ、そっちから出向いてくれるとはな!」
やれッ!! 直後ライアーに命じられ、バーナーが先手を打ってその両腕の火炎放射器を
放った。一対が捻じれてより巨大になる炎。そんな攻撃を、仁のグレートデュークの盾が、
真正面から防ぎ切る。
「今だ!」
そして彼の掲げた盾を死角にし、睦月と冴島、他のメンバー達が駆け出す。
筧が捕らわれの身であるという時点で、作戦の優先順位は先ずその救出からだった。彼が
無理やり召喚させられたバーナーとも、一度戦っていればこちらのもの。その戦闘ログから
同一の反応だけを市中から捜せばいい。今はビブリオという、探知・分析能力に秀でた海沙
のコンシェルもついている。
『リアナイザを破壊するんだ! それで少なくとも、バーナーは消滅する!』
目的を果たす為には、とにかく直接の戦闘は後回しに。
インカム越しの通信の向こうから、司令室の皆人が叫んだ。仁のデュークが構えた盾ごと
突進してバーナーを組み伏せ、先ずは両腕の放射器を仲間達に向かないようにする。それを
左右から迂回して睦月達が駆け抜け、筧とその前に立ち塞がるライアーへと挑みかかる。
「させるかよ! そいつにはこれから先、もっと色んな奴を消し炭にさせるんだからさ!」
図体の割に機敏なステップを踏みつつ、ライアーは反撃とばかりに襲い掛かってきた。先
行して睦月と冴島、守護騎士とジークフリートが応酬するが、やはり二人ともその拳や剣撃
は、吸い込まれるように相手の絶妙な脇に逸れて当たらない。代わりに五指の鉤爪を叩き込
まれてカウンターを食らい、少なからずよろめく。
「だったら空間ごと制圧する! ジークフリート!」
反動のダメージに顔を顰めつつ、それでも冴島は、ジークフリートの身体を土の流動化に
変えて旋回させた。半固形の泥の身体をマントの下から噴射しながら、ダンッとコンクリ敷
きの床に手を。するとライアーを包囲せんとするように、石板状の盾が次々と隆起しながら
迫る。倉庫内に高くそびえ立ち、彼を挟み潰さんとする。
「ははは、無駄だ無駄だあ!」
しかしライアーはこれらの攻撃も全て回避──いや、石盾の方が彼の立っていたスペース
だけを残して止まってしまい、圧殺は不発に終わった。彼は勝ち誇ったように笑いながら、
掌底の一撃で目の前のそれを打ち抜くように壊し、周囲に砕かれた大粒の破片が舞うように
飛び散ってゆく。
「お前達に、俺は倒せない!」
更に駄目押しと言わんばかりに一旦後ろに跳び、捕らわれたままの筧を人質として使用。
睦月・冴島以外の面々の動きも牽制しようとする。
「──それはどうかな?」
だがその時、既に睦月は動いていたのだ。作戦は織り込み済みだったのだ。
束の間スローモーションになる世界。砕かれて吹き飛んだ石盾の破片の中を、睦月はEX
リアナイザの銃口をこちらに向けて構えていたのだった。既にホログラム画面からサポート
コンシェルを選択し、その光弾を変化させる形で。
『ARMS』
『FLARE THE CAT』
次の瞬間だった。睦月はその炎を纏った弾を次々にばら撒き、ライアーを数拍驚かせた。
しかし肝心の弾が自分に当たらなかったのを良いことに、彼は「……はっ!」と再び勝ち誇
ったように唇に弧を浮かべて──。
「んぎゃッ?!」
いや、当たった。まるでライアーが油断したその瞬間を狙い澄ましたかのように、炎を纏
う猫型の光弾が、次々に彼の下に集結するようにして連打を食らわせたのだ。
「がっ……あっ……? な、何がどうなって……? ま、まさか。跳弾!?」
「ご名答」
炎に焼かれてあちこちが黒焦げになったライアー。
衝撃とダメージに倒れ、しかしややあってバッと起き上がったその時、彼はようやく自分
が何をされたのかを悟った。倉庫内という限られた空間の中において、猫型の炎の弾丸が猛
スピードで壁という壁を跳ね回っている。
「攻撃しても当たらないっていうんなら、間接的でも当たればいい。僕らの攻撃の意思を妨
害は出来たって、偶然に飛んでくるこの子達までは制御し切れないだろう?」
お前、まさか始めからそのつもりで──ぎゃはッ?! 言おうとしたライアーのその台詞
を、再びキャット・コンシェルの跳弾達が襲って中断させる。大きく吹き飛んで焦がされ、
のたうち回っているその隙に、國子と冴島が筧の握っていた改造リアナイザを破壊した。同
時にバーナーも、召喚に必要な生体エネルギーの供給を絶たれ、仁に組み伏せられた格好の
ままデジタル記号の光を伴ってどんどん薄くなり……消滅する。
「く、くそっ! お前ら、始めから俺の能力に穴を空けるつもりで……」
三度改めて頭を振りつつ起き上がり、ライアーは忌々しげに呟く。
そう、この一見掠りもしなかった無数の石盾は、何も自分に向けられた攻撃はでなかった
のだ。始めからこの一手は、跳弾から筧を守り、且つ視界を封じる為のもの……。
「舐めるなよ! ならもう一度、お前ら全員に──」
だがそう焦り、逆上して再び能力を使おうとしたことが、彼にとって決定的な敗因となっ
てしまった。両手をパァンと合わせようとした次の瞬間、側面からこの両手を覆うように粘
着性の弾丸が撃ち込まれ、破裂したのだ。
「ぐっ……!?」
その主は、同じくこの砕け散った石盾の中に紛れた、Mr.カノンに長銃を構えさせ引き
金をひいた宙と、その弾道を計測してサポートする海沙及びビブリオ。
「くっ、そおおおおおおおーッ!!」
ライアーは思わず叫んだ。また相手の策に嵌ってしまった。こんな粘々に両手を絡め取ら
れてしまっては、例の能力が使用できない。
『打たせる訳がないだろう? 前回の戦いで、お前の能力は解析済みだ』
睦月達のインカム越し、通信の向こうからそうこの一部始終を見ていた皆人の、淡々と酷
く落ち着いた声が聞こえる。それはまさに、ライアーにとっては最終宣告にも等しかった。
『お前の能力はいわゆる“言霊”だろう? 尤もお前の場合は“嘘を現実にする能力”──
引き出したい効果と“逆”の表現を使っていたのがその証拠だ。晴れと言えば雨になり、攻
撃が当たると言えば当たらなくなる……。筧刑事に無理やり改造リアナイザを使わせていた
のも、その応用だ』
「……」
有無を言わせぬ口調。通信越しに聞こえる、顔の見えない奴らの仲間。
だがそれ以上に、ライアーはどん底に突き落とされていた。自分の能力の秘密が、そこま
で見破られていたなんて。
『対象の意思に拘わらず、結果を引き寄せる──因果逆転とでも言うのか。以前出くわした
プライドと、似た系統だな』
『ええ。だけどあいつの能力も、彼の能力も、決して万能じゃない。強力な分、同時に幾つ
かの制限を負わなければならないわ』
そんな皆人の語りに、香月らも加わる。國子や海沙、宙らはぐったり気を失ってしまった
筧を抱え起こし、冴島の肩に乗せてあげていた。睦月や仁も、これでもう遠慮する必要はな
くなったと言わんばかりに、この両手を粘着弾で封じられたライアーに向かって歩き出す。
『例えばプライドは、能力発動に“相手からの害”が必要だった。それは“判決”という形
で行使するという性質上、どうしても避けられなかったのよね。だから必然的に、能力自体
がカウンター型のそれにならざるを得なかった』
『お前もそうなんだろう? 俺達の推測では、お前が発動させた効果を維持できるのは精々
同時に三つか四つ──内容の大小にもよるが、それ以上はお前自身の“メモリ”が制御し切
れない筈だ。先に筧刑事に改造リアナイザを使い続けるよう、言霊を掛けていた分の効果を
消してしまわないように、睦月達との戦いでは内容を“限定”したんだろう?』
「……っ」
『おかしいと思ったんだ。そもそも発した言葉と逆のことを現実にできるのなら、最初に睦
月や冴島隊長と戦った時に、一撃では“死なない”とでも言えば済んだ筈だからな』
バレてるぅ──?! 言葉にこそ出さなかったが、ライアーは内心大量の冷や汗をかいて
硬直していた。どんどん退路を塞がれていた。
も、もう駄目だ。隠し切れない。というかもう、意味がない。
だって能力の正体自体見破られているし、そもそも発動の──。
『それと……。お前は能力発動前、手を叩く動作を取っていたな? あれはおそらく、音を
放って聞かせた者へ、暗示を与える為だったんじゃないか? 事実、初戦の場に居合わせて
いなかった天ヶ洲の攻撃はこうしてヒットした。これでもう、お前の力は使えない』
「……っ!? ……?!」
もう隠し通せる訳もなく、ライアーの大きな大きな唇が歪む。
以上だ。さもそう打ち切るように止んだ皆人の声を合図にして、この詐欺師の怪人を囲ん
でいた睦月達が、次々に必殺の一撃を叩き込む体勢に入った。「ま、待ってくれ……!!」
必死に叫ぶ彼の姿を、EXリアナイザを持ち上げた睦月が面貌越しに睨んでいる。
「何を待つっていうんだ。お前だけは……絶対に許さない」
「ひいっ?!」
彼に殺された、度重なる監禁と暴行を受けた由良や筧の姿を脳裏に描いて。
チャージ! 睦月は必死に怒りを声色の奥に押し込めて、最後のコールを叫んだ。自身の
纏うパワードスーツの胸元のコアから、赤い大量のエネルギーが流れを作り、EXリアナイ
ザの銃口へと瞬く間に溜まってゆく。
『MAXIMUM』
「これで……っ!」
「終わりだあ!」
「由良刑事の……刑事さん達の仇ッ!!」
更にMr.カノンの砲撃最大出力と、デュークの迸るエネルギーを纏った投槍。三対の魔
法陣を模した中空のディスプレイから放たれる、ビブリオの光線掃射。睦月の構えた銃口、
燃え盛り牙を剥く巨大な猫型の、渾身のエネルギー弾と共に、面々の一斉攻撃がライアーの
身体を侵し尽くす。
「ぎゃああああああああーッ!!」
炎の猫型弾に噛み千切られ、砲撃と光線、投槍に貫かれる。瞬く間にライアーの身体は膨
大なエネルギーの中で粉々に分解され、刹那爆発四散した。
(畜……生……)
倉庫内には、やがてそれまでの激戦が嘘のように、静寂だけが戻った。但し筧の保護と遮
蔽の為に、ジークフリートが生成した石盾の残骸達は、戦いがあったという事実を伝えるが
如く、辺り一面に転がっている。
「……ふう」
「倒せた、ね。何だか虚しい気もするけど」
「気のせいだよ。散々他人をコケにしてきた奴だ。おあつらえ向きの最期だったろうよ」
睦月達は、暫くその場に立ち尽くしていた。ライアーの姿は例の如く、影も形もなく消え
去ってしまっている。余りの激しい決着に、寧ろ筧に肩を貸していた冴島とこれを支える國
子が、少し唖然としていたくらいだ。
「……あっ、冴島さん。その、筧刑事は……大丈夫ですか?」
「ああ。リアナイザを引き剥がしたショックで気を失っているが、問題ない。きちんと手当
てをすれば、じきに目を覚ますだろう」
少し気まずい。そんな空気を敏感に読んだのか、海沙がハッと我に返って振り返ると、冴
島達に問うた。確かに暴行された痕、物理的な怪我もあるが、重症なのはもっと心の奥の部
分だろう。
『……そうですね。ライアーも無事倒せたことですし、一旦戻って来てください。彼の手当
てと、何より証言が俺達には必要です』




