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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-37.Fakes/容疑者・筧兵悟
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37-(6) 燃え咽ぶアウター

 相手の正体に気付き、睦月と冴島は身構えた。

 しかし次の瞬間、当の杉浦──ライアーは、こちらに背を向けたかと思うと、すぐ横の路

地へと入って行ってしまったのである。

 二人は慌ててその後を追った。入り組んだ路地裏を何度か曲がり、奥へ奥へと進む。

『──』

 するとその先には、四方を高めの建物に囲まれた資材置き場らしき空間が広がっていた。

肝心のライアーはその奥で、人間態のままこちらを見つめて嗤っている。

「……何でわざわざ、こんな所に」

『さてな。少なくとも人気のない場所で戦えるのなら、こちらとしても好都合だが』

 気を付けろ。道中で耳に着けたインカム越しから、そう皆人の声が聞こえた。

 言われずとも……。睦月と冴島は、既に臨戦態勢だ。

「やはり嗅ぎ回ってやがったか。困るなあ。そう何度も邪魔をされちゃあ」

「っ……!? やっぱりお前達の仕業か!」

「筧刑事は何処だ? あの二人を何処へやった!?」

「さてねえ……。言う訳ないでしょうが」

 ヒヒヒッ。思わず感情的になる睦月らに、案の定ライアーは答えなかった。寧ろそうして

こちらを翻弄して、その反応を楽しんでさえいる。

 本性を現した自称・私立探偵。司令室コンソール側の皆人らも、既に市中に散って情報収集に当たっ

ていた國子以下仲間達に連絡を飛ばし、向かわせている。ザッと大きく両手を横に広げて、

ライアーは叫んだ。

「腸煮えくり返ってるのはこっちの方なんだよ! ……いい加減、消えて貰うぜ?」

 刹那、デジタル記号の光に包まれて、杉浦ことライアーは本来の姿を現した。寸胴な肉柱

のような身体に、巨大な唇が貼り付いた怪人態である。

「冴島さん!」

「ああ。ちょうどいい。相棒のバックアップを試すいい機会だ」

 睦月と冴島もこれに応じて、それぞれのリアナイザを取り出して構えた。「変身!」一方

は頭上に光球を撃ち上げてパワードスーツを身に纏い、もう一方はその銃口から自身のコン

シェル──ジークフリートを召喚する。

「スラッシュ!」

『WEAPON CHANGE』

「焼き尽くせ、ジークフリート!」

「ふはははっ! 死ねぇ!!」

 殆ど一斉に地面を蹴り、両者はぶつかった。守護騎士ヴァンガード姿の睦月と、流動化する炎を纏わせ

たジークフリートの剣が、ライアーの図太い腕や拳と激しく交わる。戦いは二対一、近接戦

闘に持ち込まれた。重い打撃を振り回してくるライアーに対し、二人は左右から切り結んで

コンビネーションを活かし、同時の突きをその肉柱に叩き込む。

「ぐうっ……!? はは、流石だな。中々やるじゃねえか……」

 しかしそうして火花を散らし、一旦大きく後退った当のライアーは、白煙を浮かべた身体

を押さえながらも不敵に笑っている。

「なら──」

 するとどうだろう。ライアーはサッと両掌を目の前に広げると、パァンとこれを合わせた

のだった。小気味良い音が辺り一帯を、睦月と冴島の後ろへと通り過ぎてゆく。

「お前達は、俺に攻撃を当て“られる”」

 次いで宣言した。そんな不可解な行動に、睦月が頭に疑問符を浮かべつつも、一瞬攻撃の

手を止めてしまったことを後悔するように走り出す。

「ぬう……ッ!」

「っ?! 待つんだ、睦月君!」

 ハッと我に返った冴島が、思わず叫ぶ。だがその時にはもう遅かった。

 剣撃モードのEXリアナイザを振りかぶり、ライアーに向かって大きく振り下ろす。

 しかしその攻撃は……紙一重の所で彼のすぐ脇を空振っていったのである。思わず勢いの

まま前のめりになり、睦月がととっとよろめく。一瞬何が起こったのか理解できない、戸惑

うように不敵に嗤うライアーを見上げ、もう一度、殺気を込めて斬り掛かる。

「ふっ、ほっ……。ほれほれ、どうした? 随分と見掛け倒しじゃないか」

 なのに睦月の攻撃は、一向に当たらない。まるで向こうが軽くステップを踏んだ後の空間

に吸い込まれるようにして、繰り返し振るうエネルギー剣が空を切ってゆく。

『ま、マスター?』

「ど……どうなってるんだ? 何だか、目測が……」

 困惑するパンドラと睦月。

 そんな相手の隙を、ライアーは見逃さなかった。ニッとその大きな唇を歪めて哂ったかと

思うと、今度はこちらからと言わんばかりに重い掌底を、胴体の正面から左右、そして顎下

へと叩き込んで吹き飛ばす。

「があっ──?!」

「睦月君!」

 辺りの資材を巻き込んで盛大に転んだ、睦月のこの一部始終を、冴島は目を丸くしながら

見つめていた。通信の向こう、司令室コンソールの皆人も、この奇妙な現象にスッと目を細めて観察し

ている。

「な、何が……? もしかしてこれが、奴の能力……?」

「ああ。おそらくそうだ。気を付けてくれ。僕も前に一度、あの妙な技で逃げられている」

 片手で後頭部を抱えながらよろよろと起き上がり、睦月はかぶりを振った。そんな彼に、冴島

も確信を持ったように注意を促す。あの時とは見舞われた現象が違うようだが、どうやら一

筋縄ではいかない相手であることに間違いはないらしい。

「ふふ。これでお前達はもう、俺を倒せねえ。更に駄目押しに……こいつだ!」

 するとライアーは、今度はパチンと指を鳴らした。直後それを合図とするように、辺りを

囲む建物の上から、十数人の荒くれ達が一斉に飛び降りて来る。

『うおおおおおおおーッ!!』

 各々が雄叫びを上げ、デジタル記号の光に包まれる。

 その全員が、進化体のアウターだった。

「!? こいつら、まさか……」

「バイオ一派の残党か!」

 文字通り強襲を食らった形の冴島とジークフリートは、一転して防戦に回らざるを得なく

なった。怒涛の勢いで攻め立ててくる彼らに、自身のコンシェルでもって身を守る冴島は苦

戦を強いられる。

『拙い。睦月、援護を!』

「分かってるよ!」

 インカム越しからの皆人の声。だが睦月はそんな指示が飛ぶよりも早く、ライアーに背を

向けることになろうとも走り出していた。EXリアナイザを操作し、覆された数の利を埋め

ようとする。

『SUMMON』

『GENERATE THE MAGNESIUM』

『HARM THE LILY』

『STOMP THE HORSE』

 銀と緑、黒色の光球が銃口より飛び出し、睦月に先行してこの乱戦に切り込んでいった。

発炎棍を装備した金属質のサポートコンシェルと、百合をモチーフにし、毒の縄を放って敵

を縛り上げるサポートコンシェル。馬をモチーフにした、筋骨隆々のサポートコンシェル。

 生身という弱点を持つ冴島を守護するように、この三体が一斉に伏兵──バイオ残党達に

反撃する。発炎棍の炎に巻かれてもがき、その隙を突かれて吹き飛ばされ、或いは分厚い蹄

型の拳具ナックルで壁に殴り付けられ、一人また一人と残党達は爆発四散する。

「くっ……! すまない。助かった」

「いえ。それよりこのままじゃあ、奴を倒すどころじゃありませんよ?」

 冴島もまた、ジークフリートの渾身の一閃で内一体を倒す。流動化する身体を炎から雷に

替えて、攻撃よりも速さで敵の数を捌こうとした。

 合流し直して、互いに背中を預けて構えた二人は、この伏兵ことバイオ残党達の攻勢に窮

地に立たされていた。四方八方から迫って来るこのアウター達には、まさに鬼気迫った執念

のようなものを感じる。そんな彼らの合間を縫って、悠々とライアーが掌底を繰り返し打ち

込んでくるが、やはり何故かこちらからの攻撃は空を切ってばかりで当たらない。反撃ばか

りを食らってしまう。

守護ヴァン騎士ガード……!!」

「バイオさんの……ヘッジさんと、トーテムさんの仇……ッ!!」

 更にそこへまた、我先にとなだれ込んで来る、バイオ一派の残党。

 彼らは一様にぶつぶつと、睦月達への怨嗟を呟いている。


「──ふーむ。こりゃあ、案外粘るなあ」

 そんな二人の戦いを、ライアーはさも他人事のように、一派達の外周から眺めていた。

 自身も何度か攻撃を打ち込んで、間合いを空けたそのままに、彼は一旦大きく跳び上がる

と、近くの積み上がった資材の上に立った。残党達かれらも入れて、数の上ではこちらが上回って

いるにも拘らず、相手も相手で味方のコンシェル達を呼び出しては必死の抵抗を続けている。

「仕方ねえなあ。やっぱ、こいつも使っとくかねえ……」

 おーい、出番だ! するとどうだろう。ライアーがそう叫んで呼び立てた次の瞬間、その

眼下の路地からまた新たに、何者かが近付いて来たのだった。

 ま、また伏兵……? 睦月と冴島、召喚されたサポートコンシェル達が思わずその方向を

見遣る。ちょうど斜め向かいの路地から現れたのは、はたして新たな敵のアウターだった。

『……』

 分厚い防護用の鉄仮面を被った、両腕が巨大な放射器と一体化したパワードスーツ姿。

 睦月達が思わず目を丸くしていた。その面貌の下で、シューシューと何度も粗い呼吸音を

立てながら、ゆっくりとその重厚な金属質の身体を進めて来る。

 さあ、焼き殺せ! 資材の山の上で、ライアーがそう大きく両手を広げて叫んだ。

 無言のままそこに立ち、全身から大量の熱気を立ち上らせるそのさまは、まさに無慈悲な

処刑マシンと形容するに相応しかった。

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