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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-4.Girls/近くて遠い距離
28/526

4-(4) 藍の鑓騎士

「もう逃げられねぇぞ、木場ァ!」

 時を前後して。繁華街奥にある裏路地の一つ。

 昼でも周りの雑多なビルに囲まれて薄暗いそこに、如何にもと言わんばかりの不良達が大

挙して押し寄せていた。

 幅広のナイフや鉄パイプ、或いは拳銃すらも。

「……」

 だがそんな文字通り追い詰められた状況にも拘わらず、当の本人は微塵も怖気づいた様子

はなかった。むしろニィッと犬歯を見せながらほくそ笑み、獲物を見つけたかのような嬉々

とした表情さえしている。

「よくもうちのチームを殺ってくれたな!」

「俺達のチームもだ! 畜生ッ!」

「こんな派手にやらかして分かってんだろうな? ああ!?」

「ぶち殺してやるよ……。徹底的にだ!」

 見た目なら、間違いなく木場だった。

 背後にはコンクリートの壁。前方百八十度には怒り狂い、殺気を微塵も隠そうとしない繁

華街のワル達が彼を亡き者にしようと取り囲んでいる。

 なのに、これだけ彼らが罵倒して殺気を振り撒いているのに、木場は嗤っていた。

 ゆたりゆたりと、むしろこちらから不良達に歩み寄り始め、その一見無謀とも思えるさま

に彼らも一人また一人とこの青年の異常さに身を硬くし始める。

「お、おい。止まれ!」

「止まらないと撃つぞ!」

「今日は西極組がついてるんだぞ、分かってるのか!?」

 なのに、木場は止まらない。引き攣った表情かおで不慣れな銃口を向けてくる何人かの不良達

が脅すが、その静かな足取りは着実に彼らとやり合おうとする意思を表している。

「……クソがッ!!」

 故に、銃声。

 次の瞬間、いよいよ痺れと恐れを切らした不良達が一斉にその引き金をひいてしまった。

 これでお終いだ。

 鉛玉ぶっ込まれて、この馬鹿野郎の命運も──。

『……え?』

 しかし彼らが想像した末路は、来なかった。

 故に不良達は目の前に広がったその光景をにわかには信じられる事ができず、愕然とする

事になる。

「……効かねぇよ。てめぇら人間の攻撃なんざ」

 銃弾は木場の後ろ──背後のコンクリ壁に幾つかの穴を空けていたのだ。

 その一方で木場自身は傷一つ負っていない。いや……確かに銃弾が通り抜けていった筈の

身体の各部分が、いつの間にか半透明なデジタル記号の羅列に変貌していたのである。

「ちょうどいい。てめぇらでこの実体からだの試し斬りってものをやらせて貰おう」

 そして、咆哮する。

 刹那、一同が木場だとばかり思っていた人間は怪物に──言わずもがな木場の姿を模して

いたハウンド・アウターへと変わった。

「ひっ……ひいッ!?」

「ばばっ、化け物ーッ?!」

 右手に鉤爪、左手に鎖分銅。

 その変貌に明かされた正体に思わず恐怖し、逃げ出す彼らに、猟犬ハウンドの怪物は狂気を含んだ

笑いを浮かべた。鉤爪を振りかざし、手当たり次第にこの裏路地の住人達を蹂躙しようとする。

「──貫け、クルーエル・ブルー!」

 だがそんな時だった。路地裏から分岐する道向かいからそんな何者かの声がすると、瞬間

ギュンと、ハウンドに向けて一直線に鋭い刃先が伸びて来たのだ。

「ぬっ……!? だ、誰だ! 俺の邪魔をする奴は!」

『……』

 怒気。そしてその声に次いで現れたのは、調律リアナイザを手にした皆人。その傍らには

この刃先の元と思われる小剣を突き出す、藍のメタリックブルーで統一された甲兵のような

姿のコンシェルが身構えている。

 他にも数名、リアナイザ隊員らがこれに続いていた。突然の出来事に混乱している場の不

良達を、彼らの確保と口封じの為に次々と取り出したスタンガンで以って気絶させていく。

(……ギリギリ間に合ったか?)

 司令室コンソールに一足早く届いた木場死亡の報。

 故に皆人は駆けつけたのだった。事態がより深刻なレベルに達した。万が一の為にと残し

ていた兵力を連れ、加勢に訪れたのだった。

「しゃらくさい……ッ!」

 ガリガリッと伸縮自在の刃に押されつつも、しかし踏ん張って弾き返したハウンドが皆人

らを睨み付ける。

 数秒。両者は気絶した不良達の山を挟んで対峙していた。

 ふむ……? そしてやがて先に口を開いたのはハウンドだった。弾かれた刃先を元の小剣

サイズに戻し、再び構えるコンシェル──クルーエル・ブルーと皆人を確かめるように眺め

ると言う。

「……この前の奴らとは違うな。だが、俺に一発打ち込めたって事は……奴の仲間か。俺達

の“敵”の一味か」

「……さてな」

「はん、そうかよ。どっちにしろ邪魔するならぶっ潰すだけだ。だが本当にお前らが“敵”

だってんなら、ここで倒せば俺も“あの席”に着けるかもしれねえ。本当の本当に、もう誰

も、俺を邪魔する奴はいなくなる!」

「……?」

 何故か更に嬉々としたハウンド。皆人はその言葉に引っ掛かりを覚えながらも、しかし今

すべき事に集中すべきと意識を切り替えた。

 バッと片手を払って隊員らに指示を。皆が一斉にリアナイザを起動し、ハウンドを囲むよ

うにそれぞれのコンシェル達を召喚する。

「おっと」

「──っ!?」「しまっ……!」

 だが対するハウンドは、すぐさま隊員らの手元、リアナイザを左手の鎖分銅で叩き落す事

でこれを速やかに無力化させてみせた。

 召喚のエネルギーである隊員ら自身からリアナイザの引き金が離れれば、アウターでもな

いコンシェル達はその姿を維持できなくなる。

「ふん。話には聞いてるぜ? てめぇらの弱点なら把握済みだ!」

「……ちっ」

 殴打を受けた手を庇いながら隊員達が悔しげに膝をついている。皆人が小さく舌打ちをし

てクルーエル・ブルーをより自身の前面に陣取らせた。

 びしり。

 されどハウンドは余裕の嗤いで、左手に下がった鎖分銅を揺らして見せ付けてくる。

『TRACE』

『HEAT THE TIGER』

「うおおーッ!」

 だが次の瞬間だった。はたと一同の頭上からそう無理をした少年の雄叫びと流暢な機械音

が振って来たかと思うと、今にも襲い掛かろうとしていたハウンドにそのまま声の主が飛び

掛かっていったのである。

「睦月!」

「皆人、大丈夫? 話はっ、職員さん達から……聞いたよっ!」

 勢いに任せて鉤爪で二撃三撃。

 着地してそう構え直す、変身した睦月の姿は見慣れたパンドラの白亜ではなく、赤を基調

としたパワードスーツに変わっていた。

 何も装着トレースできるのは彼女だけではない。

 彼の銀のリアナイザにインストールされたコンシェル達、本来その全てが対象なのだ。

「ぐぅっ。またお前か……」

「皆人様!」「司令!」

 やや遅れて先程の道向かいから國子と他のリアナイザ隊員らも合流してきた。奇襲を受け

た格好故にハウンドはよろよろと立ち上がり、忌々しげな声色と眼光でもってそう睦月を睨

み付ける。

「皆はそこの人達を安全な所に。こいつは……僕が倒す!」

 これに物怖じせず──さものめり込むように睦月は身構える。

 背中越しに叫ばれ、皆人らは一瞬躊躇った。だがちらと目を遣った國子らがコクと小さく

頷いてくるのを見、他に最善手もなかろうと一同はすぐに指示通りに動く事にする。

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