36-(4) 叶わない
叩き付けられたG・トーテムの念動力は、睦月達三人を含む倉庫内を激しくへしゃげさせた。
コンクリ敷きの床に広範囲に渡り広がった大きな陥没。その中央に守護姿の睦月と、クルー
エルや朧丸とそれぞれ同期した皆人・國子がボロボロになって突っ伏している。
「大、丈夫? 二人とも……?」
「……何とかな。どうやら寸前で、博士達が同期強度を下げてくれたらしい」
「とはいえ、全くの無傷とはいきませんが……」
パワードスーツ故、比較的耐久力が残っている睦月が、そう傍で倒れている二人に呼び掛
けつつ、ゆっくりと肩を貸し始めた。あくまで冷静に、淡々と司令室越しの様子を伝えてく
れる皆人だったが、隣の國子を含め、もう満足には動けそうにない。
「中々どうして、しぶといな。流石はと言った所だが……ここまでだ。次の一撃でとどめを
刺してやる」
だがトーテムは、尚も攻撃の手を緩める素振りは見せなかった。一旦中空に散開していた
分身達と共に地面に降りて身体を元に戻し、ゆっくりと近付いて来る。サッと振り払った杖
先に再び、凝縮した念動力を込め直す。
「……くっ」
よもや、こいつまで“合体”していたとは。
いや、それ以上に彼の執念というものを、自分達は甘く見ていたのかもしれない。
「あの二人の願いを断ったこと、後悔するがいい」
睦月の肩を借りて辛うじて膝立ちになるものの、ダメージが大き過ぎて身体が思い通りに
動かない。言うことを聞いてくれない。
実際に倒したのは守護騎士──睦月だが、バイオとヘッジ、二人の仇と自分達を狙うトー
テムの怒りと憎しみは相当なものだろう。これまでの情報からしても、この戦いは、彼らの
願った“自由”の為でもある。
念動力で破壊され、辺り一面に散らばったコンクリの瓦礫。
じっと静かに、あくまでその激情を押し込めて進んでくるトーテムからは、寧ろそういっ
た外へ向くエネルギーをも越えた、末恐ろしいほどの凄みを感じる。
「……願い、か」
だがそこで、皆人はぽつりと呟いたのだった。肩を借りていた睦月の表情をちらりと一瞥
すると、まだふらつく身体を引き摺りながら、この近付いて来るトーテムに再び向かい合う
ように一人ゆっくりと前に進み出る。
「俺達を倒して“蝕卓”に力を示し、奴らから独立する……。だがそんな動きを、奴らが本
当に許すと思うのか?」
「……」
睨み合った両者。食い下がるように問い掛ける皆人に、一見トーテムは足を止めず、聞く
耳持たずといった様子だった。
だがその眉間には──彫像型の怪人態なので、実際には無いのだが──瞬間皺が寄ってゆ
くように思えた。それだけ彼の言葉を、怒りに換えているのが雰囲気で感じ取れる。
「連中から助力もなく、ここに一人遣られた時点でおかしいとは思わなかったのか? お前
は捨て駒にされているんだ。残りの者達も、同様に」
「……黙れ」
「これは俺の推測なんだがな。これまでの“蝕卓”の動向から、今までどうも妙に思ってい
たことがあった。奴らはお前達アウターを生み出し、流通させている。だがその目的は何だ?
ただ怪物を撒き散らして悦に浸るだけの組織ではないだろう。ただ勢力を増やしたいと
いうだけでは弱い」
だから俺は考えた──。ギリッと苛立ちと共に低い声を漏らすトーテムを、皆人は全く無
視して続けていた。背後で睦月と國子、二人が言葉なく立っている後ろ姿がある。杖を一層
強く握り締め、トーテムが念動力でこの減らず口を叩き潰そうとする。
「……もしかして、お前達が召喚主の“願い”で実体化するように、連中自身も何かしらの
“願い”故にお前達を実体化させて回っているんじゃないのか? だとすれば──お前達は
そもそも、その為の駒だ。元より“自由”など存在しない。独立など……叶わない」
「黙れッ!!」
だからこそ次の瞬間、トーテムは遂に感情を爆発させた。皆人の淡々と紡がれる推測に声
を荒げて叫び、その余波で練っていた念動力を周囲に撒き散らす。
見えない力が柱という柱、壁という壁を大きくへしゃげさせ、粉塵を巻き上げさせた。大
小幾つかの瓦礫がその衝撃で落ちてきたが、皆人はその場から微動だにしない。舞い上がる
土埃に姿を隠しつつ、じっとこちらを見つめて佇んでいる。
「……黙れ。今更お前達と問答など──」
「もういいか? 睦月?」
「うん、十分だよ。ありがと」
だがそんな時だったのだ。威嚇の後の台詞を吐き終わる前に、皆人がちらりと肩越しにそ
の後ろの友を──睦月を見遣っていた。霧散する土埃、瓦礫の中に立っていていたのは、白
亜のパワードスーツを纏った守護騎士。つまりは時間稼ぎだったのだ。
睦月は既にEXリアナイザを片手に、これを持ち上げてホログラム画面から操作を完了し
ていた。指先でタップし、スライドさせたコンシェル達のアイコンが、その動きに呼応して
点灯してゆく。
『ROSE』『BLOSSOM』『APRICOT』
『DAISY』『VINE』『MISTLETOE』『LILY』
『TRACE』
『ACTIVATED』
「変身っ!」
『YGGDRASIL』
そして大きく掲げられた銃口が、睦月の頭上に大きな緑色の光球を放ち、一旦空中で七つ
に分裂すると、円陣を組むように旋回し始めた。しまっ──!? 思わず彫像の眼を見開い
て見上げるトーテムの目の前で、それらは次々に落下してゆき、まるで意思を持つかのよう
に輝きながら、睦月の身体へと吸い込まれて……。




