36-(0) 誰が為、何が為
再び時は遡る。睦月達との再戦を睨み、トーテムはスロース達に見せられた“合成”アウ
ターの実験に、自らも志願していた。準備の整えられた、淡翠の溶液に満たされたカプセル
を前に、スロースは気だるげながらも何処か神妙な面持ちでこちらに向き直ってくる。
「本当に……いいのね?」
「ああ」
それで、今よりも強くなれるのなら。
バイオとヘッジの弔い──仇を討つ為に、ひいては彼らの自由を叶える為に。
そう……。尤も対するスロースの方は、そんな彼の動機自体にはあまり興味はなさそうだ
ったが。
安全は保証できない。最悪“合成”の負荷に耐えられず、自滅してしまうリスクがある。
だがトーテムは構わないと思った。他に選択肢が見当たらなかった。二人の遺志を継ぎ、
この困難を越えてゆく為には。
「じゃあ、始めるわよ」
老紳士風の人間態から苔むす色の怪人態に戻り、スロースらが見守る中、カプセルの中へ
と入る。彼女やサーヴァント達が装置を操作すると、トーテムは自身の身体がデジタル記号
の──半データ状の羅列になってゆくのを見る。更にそこへ、カプセルの上下から、別の個
体のものと思われる核から分解された、データ粒子の螺旋が流れ込む。
『ぐぶっ?!』
人間で言う所の、拒否反応という奴なのだろう。直後トーテムの全身という全身に、経験
したことのない猛烈な激痛が襲った。
だが彼は表情を歪めながら、必死に耐える。全ては力に入れる為。バイオとヘッジ、残さ
れた皆を救う為。こんな所で折れてしまっては、何も始まらない……。
「あ……があああああああーッ!!」
それでも全身を襲う激痛は、治まるどころか時間と共に頻度・強度共に増していき、彼の
意識が少しずつ確実に引き剥がしてゆく。心の中でそう願った、自らに言い聞かせたその意
思と呼べるものも、一緒に“自分”より遠い何処かへ持っていかれそうになり、事実肉体の
側も、激しいエネルギーの奔流に壊され始め……。
「──へえ。やるじゃない」
だが唐突に、その絶え間ない苦痛がはたっと止んだ。白目を剥きながらも、かはっと溶液
の中で盛大に息を吐き出しながらも、その変化を五感の端で感じ取り、外からそう呼び掛け
るスロースの声を聞く。
自壊が始まる、その寸前で“合成”が完了したのだ。注がれていたエネルギーは、先の別
個体の核の全消費でもって収まり、サーヴァント達の操作で溶液がカプセル底部から繋がる
配管へと回収、その分厚いガラスの壁もぐるんと格納される形で消える。
『──』
フシュウ……と、急速に気化する煙と共に、トーテムが出てきた。よろよろとまだ痛みが
残る身体で床に足をつけ、肩で息をしながら目の前のスロース達からの眼差しをゆっくりと
見上げる。
「……これが」
そして今度はゆっくりと自分の両手を、全身をおずおずとためつすがめつ。
苔むした緑色の、彫像が連なったような怪人態の身体。
それが今は、全体が深い青色のそれへと変貌を遂げていたのだった。




