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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-35.Eternal/永遠(とわ)を望んだ罪
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35-(6) 上回る能力(ちから)

 再び、改めて対峙したトーテムの姿からは、以前よりも剣呑さが増したように見えた。

 睦月達は咄嗟に、背後の捕らわれたままの冴島達を庇うように、一歩正面に振り向き直っ

て身構える。元より全く戦闘をせずに済むとは考えていなかったのだ。幸い、相手は一人。

こっちは三人。今度こそと、睦月達はEXリアナイザと短剣、太刀をそれぞれに構える。

「馬鹿め。お前達の目論見など、とうにバレている」

 だがしかし、そこで一同は異変を目の当たりにした。静かに、されど秘めた敵意を濃く吐

き出すように呟いたトーテムが、デジタル記号の光を纏って怪人態に変身したのだ。

「──」

 その姿は……元々の苔むした石色から、全体に深い青に。

 睦月達は思わず、面貌の下で目を見開いていた。明らかに以前とは異なっている。纏う力

が、以前よりも大きくなっているような気がする。

(これはまさか……。だが、ならばその力を発揮する前に!)

 先手必勝! 皆人ことクルーエル・ブルーは、最初から激情の紅テリブル・レッド形態になって装甲をパー

ジし、蒸気噴き出す全身をそのままに、真っ先にその伸縮する刃を射出した。

 こいつには一度、この状態で一撃を与えている。

 何か能力を出してくる前に、何処までも追尾して叩き潰す──!

『──』

 だが次の瞬間、トーテムは“トーテム達”になった。青いその身体が一瞬鈍くブレたかと

思うと、テリブルの刃が直進するその寸前で幾人もの姿に分裂し、これを避けたのだ。

「っ、増えた!?」

「これは……分身?」

 ずらりと睦月達を取り囲むように、円陣を作りながらあっという間に増殖──もとい分身

してゆくトーテム。

 皆人のテリブルが放った刃は、数度屈折を繰り返しながら、その元々の一体にヒットさせ

ること自体はできた。だがそれは、あくまで数多に分身した内の一体を吹き飛ばすだけで、

トーテム達全体にはまるでダメージが入っていない。一人分欠けた包囲の穴を、すぐにまた

別の隣の一体が、分身し直して埋めてしまう。

「……新しい能力、か。まさかとは思ったが、お前も例の新型になったというのか」

 伸縮した刃を手元に戻し、テリブル越しに皆人が呟く。

 トーテムは答えなかった。だが分身したままで一斉に杖を握り締め、強い敵意を向けてく

るそのさまは、肯定と言って過ぎるくらいの態度であっただろう。

「これで数もこちらが上。取らせて貰うぞ、バイオとヘッジの仇を!」

 トーテム改め、ジェミニ・トーテム。

 従来の分離する身体と念動力に加え、無数に分身する能力を備えた“合成態”だ。一対三

をあっという間にひっくり返し、数の力と共に睦月達に襲い掛かる。

「くっ……! おわっ!?」

「こ、このままでは……。皆人様、私のお傍に!」

「そうも言って、られないだろう! この数を俺達だけでどう捌く?」

 次々に襲い掛かってくるトーテムの分身達。数に翻弄され、一方を防御されれば別方向か

ら杖の打撃を加えられるといったダメージを繰り返し、睦月達は防戦一方を強いられた。

 少しでも数を減らそうと各個撃破を試みるが、元々の身体を分離・浮遊させる能力を使わ

れて攻撃もろくに通らない。空振りする。その間に分離したパーツと分身が合わさって数は

益々増え、辺りはまさにトーテムの嵐とでもいうべき状況に陥っていた。

「司令、睦月君!」

 円柱に括り付けられたままの、冴島達が悲痛な声で睦月達の名を呼ぶ。

 幸いなのは、トーテムが彼らまで狙っては来ないということだ。もし人質として矛先を向

けられたら、こちらが益々不利になる。……いや、それ以上にこのアウターは、執拗なまで

に睦月を、守護騎士ヴァンガードを標的に据えて攻め立てているようにも見える。

「くそっ! 数が……。数が多過ぎる!」

 最初の一手でテリブルとなり、装甲をパージしたのが裏目に出た。

 ピンチの友や國子を守ろうとせども、攻撃の代償として薄くなった防御は、辛うじて回避

して掠めたダメージさえ、同期する皆人にその反動を容赦なく伝えた。繰り返し繰り返し火

花が散る。もう三人だけでは手に負えない。

「……お前だけは、お前達だけは、絶対に許さん!」

 そんな睦月達の姿を、トーテムは怪人態の目が血走るほどに見つめていた。自在に分離し

て飛び回る身体が、荒れ狂う暴風のようになって彼らを襲う。

 最初、バイオが斃された。次にその弔いと遺志を継ごうとしたヘッジが斃された。

 この人間達が自分達を倒すことを使命とする“敵”である以上、それは仕方がなかったの

かもしれない。だがそんな客観的な事実とは別に、トーテムは義憤いかっていた。長い時間を共

に過ごした盟友達の死を、この作り物の心は悼んでいた。

 ……彼らはただ、自由に生きたいと願っただけだ。そんな彼らに宿った“意思”すらも、

お前達は挫くのか? お前達人間の都合で生み出した癖に、そんな彼らの些細な願いすら、

踏み躙るのか?

 儂は憎い。お前達を恨む。

 人の世に紛れて、同胞たる若人らを見守って、それだけでもいいとあの頃は思っていた。

だが違う。根本的に、救われていない。

 仇を討とう。そして滅ぼしてやる。

 こんな理不尽な、人間達きさまらの世界など全て──。

「おおおおおッ……!!」

 次々に、一人また一人と分離していた身体を一旦元に戻して。

 トーテムと分身達は、浮かぶ中空から一斉に、この憎き仇らに向けて手をかざした。元々

備えていた、しかし“合成”を経てより広範で強力になった念動力で、辺りのコンクリ敷き

の床ごと彼らを押し潰す。

『……かはっ!?』

 空間それ自体さえノイズを食らったかのように歪み、激しく軋んで巨大な陥没を作る、見

えざる力の奔流の中で。

 睦月達は、彼の成すがままに地面に叩き付けられる。

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