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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-4.Girls/近くて遠い距離
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4-(3) 死に想う

 先遣のリアナイザ隊員らと合流し、睦月達は昼休みを返上して木場の行方を捜し回った。

 溜まり場、カラオケ、ゲーセン。一連の事件が起こった西の繁華街を中心に、彼──不良

達が行きそうな場所を一つ一つ手分けして洗っていく。

 現在の職場に聞き込みをした所、今日木場は姿を見せていないらしい。

 やはり姿をくらましたようだ。自分達という対抗勢力が現れ、逃げ回っているのか。

『──木場、ね。確かにあいつは喧嘩っ早いけど、腕っ節はそれほど強かった訳でもねぇん

だよな』

『でも、TAをやり始めて暫くしてさ。急にあの野郎、他のチームから怖がられるようにな

ったんだよ』

『何でもバケモノを操り出したとか何とかで……。よくは知らねぇんだけど、この前三番街

のチームが潰されたのって、あいつの仕業なんだろ?』

 それでも潮目は確実に変わっているようだった。捜索に向かった方々で、不良達から木場

に関するじょうほうを幾つか聞く事ができたからである。

 大よそ真実半分・尾ひれ半分といった所か。

 あれだけの惨殺もあった。当然の反応だろう。彼らの多くは木場の暴走を恐れているよう

だった。

 武力ちからが足りないから、渇望した。

 皆人の分析の通り、やはり木場がアウターに願ったものとはそれなのだろう。

「……どっちが悪いのかな」

 人を殺めた。その時点で罪は償うべきだし、咎も正さなければならないと思う。

 だが睦月は正直、少しずつ悩み始めていた。

 アウターという存在が悪いのか、それとも力に溺れた木場にんげんが悪いのか……。

「両方ですよ」

 しかし横に並んで歩く國子の返答はにべもない。

 あくまで淡々と。それでも彼女のその普段の仏頂面には、心なし義憤に類する感情が押し

込められているようにも見える。

「共犯である以上、彼らを打倒する勢力に私達が属している以上、彼らは“敵”です」

「そう……だけど」

 嗚呼。間違ってはいない。

 だけど……。睦月は思わず口篭った。

 以前の金井という例もある。

 必ずしも全ての人間がアウターがもたらす力に溺れるとは、決め付けたくない。

「──ん?」

 ちょうど、そんな時だったのだ。

 ふと道行く睦月達の向こうで、人だかりが出来ていた。

 場所は繁華街から少し外れた所の、小さなどぶ川。その古びた石橋の下。

 ぐるりとブルーシートと非常線が巻かれ、周囲の道から近所の人々が野次馬よろしく覗き

込もうとしている中で、黙々とスーツ姿やジャケット姿の男達──警察関係者が出入りを繰

り返している。

「……陰山さん。あれってまさか」

「……ええ」


 遺体は川に捨てられていたため、水を吸ってかなり膨れてしまっていた。

 加えて場所が場所だけに汚い。臭い。筧達はそっと指で鼻を摘まみながら、それでもホト

ケになったこの青年に一度静かに手を合わせる。

「……間違いないですね。木場です」

「ああ」

 担架に乗せられた遺体、容疑者・木場荒太をシートを捲って確認し、隣で由良が吐き気を

ぐっと堪えるようにしながら言った。筧は頷き、係員らがそっと会釈しながらこれを再び運

び出していった。

「まさか、聞き込みで出てきたホシが仏さんになっちまうとはな。ざっくりと一突き、か」

「また振り出しに戻っちゃいましたね。やっぱり抗争の成れの果て、なんでしょうか?」

「うむ……」

 鑑識が少しでも手掛かりを見つけるべく、辺りの草っ原や泥の中を探っている。

 だが筧は、おそらく大したものは出てこないだろうと踏んでいた。木場が生前テリトリー

にしていた地域からは、此処は少し離れている。彼を殺した犯人が遺体を見つかり難くする

為に川に沈めたと考えるのが妥当だ。

(……嗚呼。胸糞悪ぃ)

 職業柄、そう一々感傷に浸っていては身がもたない事くらいよく知っている。

 だが筧はだからといって人一人の命に頭を垂れないなど、冒涜だと思っていた。

 由良は言う。抗争の成れの果てだと。

 結局そういう事なのか。白鳥が吐き捨てていた通り、不良は不良同士、潰し合ったのか。

(……馬鹿野郎)

 叱るように、防げなかった自分を悔いるように。

 筧は遺体しゅやくの退場したどぶ川の河原の上で、佇む。


「──どうでした?」

「ええ。間違いありません。木場でした」

 人目を避ける為に一旦路地裏へ。リアナイザを起動して朧丸を召喚した國子は、その五感

をこのコンシェルに託し、橋の下の現場へと透明化ステルスさせた状態で向かわせていたのだ。

 暫くして彼女がゆっくりと目を開く。朧丸がステルスを解いて傍に現れ、彼女が引き金か

ら指を離すのに合わせてスゥっと消えていく。

「そう、ですか……」

 嫌な予感が的中してしまっていた。報告に、睦月らはぐっと唇を噛む。

 皆人の懸念が現実のものとなってしまっていた。何時何処でかは分からないが、どうやら

自分達が取り逃した後、ハウンドは実体化もくてきを果たしてしまったらしい。

「とにかく、司令室コンソールと他班にも連絡します」

「ああ。頼む」

「──睦月さん、隊長!」

 だが、ちょうどその最中だったのだ。

 同伴の隊員が木場死亡の報を伝えようとデバイスを取り出していた時、別な隊員がこちら

の物陰から少し息を切らしながら顔を出してきたのである。

「木場が……現れました」

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