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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-35.Eternal/永遠(とわ)を望んだ罪
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35-(4) 永遠計画

 時を前後して、トーテムがスロース達と合流──旧第五研究所ラボに到着してまだ間もない頃。

「これ、は……?」

 彼女に案内されて、彼は研究所ラボ内深くのとあるエリアに足を踏み入れていた。

 そこにずらりと並んでいたのは、淡い翠色の溶液に満たされた大型のカプセル群。中には

同胞と思しき怪人達が一人一人、封じられるようにして浮かび、眠っている。

「“合成”された個体達よ。ベースとなる個体に、別のデータ化した個体を注入する。基本

一個体に一つの能力という原則を超えて、より強力な個体に生まれ変わるわ。それは即ち、

より生存率を高めることに繋がる」

 大型カプセルの並ぶ廊下をカツ、カツンと進みながら、スロースはそう気だるげに淡々と

答える。彼女曰くこの施設は、その研究の為に宛がわれた場所だという。

 そんなモルモットたる同胞達を、時折横目で眺めながら、トーテムは一人静かに眉根を寄

せていた。正直言って、不快だった。

 確かに個々が強くなれば生存確率は上がる──極めて“合理的”ではあるのだろう。

 だがそれは、自分達の“命”を弄ぶということだ。元よりあの男は、蝕卓ファミリーは自分達のこと

を体のよい駒ぐらいにしか考えていないのだろうが、こう目に見えて文字通り使い潰されて

ゆく過程を見せつけられると、少なくとも良い感情は湧かない。

(……やはり、奴らと“約束”するなど無理だったのだ。ヘッジ、バイオ……)

 脳裏に、バイオとヘッジホック──相次いで失った友の姿が掠めた。

 加えてこの研究所ラボ内には、まだ二人と共に率いていた仲間達が残っている。自分と同じよ

うに避難して来ている。彼らの為にも、ここで露骨に彼女ら蝕卓ファミリーと対峙すべきではない。

「あの二人もよ」

 そうして渋面を作って黙っていると、ふとスロースが再び口を開いた。促されるようにし

て視線を向けると、進行方向奥の曲がり角の向こうから、大木のような長身の男と丸太のよ

うにガタイのよい男が出て来た。角野と円谷だ。やや遅れてついて来た杉浦──ライアーと

共に、ちょうど冴島や隊士達、筧を繋いできた所だった。

 最初、トーテムはこの見慣れない人間達に少し身構えそうになったが、すぐにその気配で

同胞だと知れた。特にスロースが示したあのスーツ姿の二人からは、自分達とは一線を画す

力を感じる。それだけ、彼女の任されている“合成”とやらは彼らを強力にするのか……。

「そっちは終わった?」

「ああ。まだ気を失ったままだ。暫くすれば目を覚ますだろうが」

「……? 誰か、他にも連れて来られているのか?」

「ん? ああ、もしかしてあんた、例の直訴トリオ? 気にしないでくれよ。ちょっと俺達

を嗅ぎ回ってた敵を捕まえてきただけだからさ」

 スロースが彼らの方に近付いてゆく。彫りの深い長身の方、角野はそんな彼女にニコリと

もせず、無愛想に答えている。その後ろでやり取りを見ていたトーテムの問いに、ライアー

がニヤリとほくそ笑みながら返した。

 敵──守護騎士ヴァンガードの仲間か!

 その返答にトーテムは思わず、ギリッと口の中で歯を噛み締める。

「ライアー。あまり喋るな」

「そもそもあいつらを取ったのは、俺達だ。失敗した奴が出しゃばるんじゃない」

 ひっ! す、すいやせん……。すると角野と円谷が向けてきた視線に、ライアーが反射的

に畏まって頭を下げていた。やはり彼らの力関係は、この二人の方が上らしい。先刻までに

彼らと守護騎士ヴァンガードの間に何があったかのは知らないが、どうやら自分やヘッジが、バイオの仇

討ちに躍起になっていたのと同時期に、事態は色々と進んでいたらしい。

「で? 気絶したままってことは、まだ情報は採れてないのね?」

「ああ」

「そこまでは俺達の仕事じゃない。あんたが勝手にやっててくれ」

 あっそ……。スロースは少し唇を尖がらせていたが、さりとてこの二人に強く詰め寄るつ

もりはないようだ。彼女に対する口の利き方も然り、どうやら彼らは、彼女とはまた別の幹

部の下についているらしい。そうでもなければ、ここまで七席の一人に対してこうも大きな

態度は取れないだろう。

「……スロース殿。その“合成”とやらを受ければ、私も守護騎士ヴァンガードに勝てるようになるので

しょうか?」

 だからこそ、トーテムはたっぷりと内心の躊躇いを置いてから言った。目の前で「では、

もう帰るぞ」と言って、再び歩き出そうとした角野と円谷を含めた彼女らを、ついっとこち

らに注目させる。

「少なくとも今よりは、ね……。でも、全ての個体がその負荷に耐えられる訳じゃないわ。

最悪、そのまま自滅するわよ?」

 彼女らはじっとこちらを見ていた。その言わんとすることを、それぞれ知っている事情に

差はありながら、四人はすぐに理解したからだ。

「……。そうですか」

 短く一言。だが次に呟いたその言葉は、変わらぬ眼差しで──いや、先程よりも一層強い

決意をもって、言外の意思表示へと代えてゆく。

「……ふぅん?」

 そんな、真っ直ぐ自分に向けられたトーテムの眼。

 するとスロースは、怪訝な様子の角野や円谷、ライアーを背景にして、そう何処か意味深

な様子で小首を傾げると、静かに嗤う。

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