35-(2) 救出作戦
対ヘッジホック、廃工場での戦いから一夜明けて。
司令室に集まった、睦月達対策チームの面々は、新たな救出作戦の為の打ち合わせを行っ
ていた。
正面のスクリーン群には、飛鳥崎のとあるエリアの地図が詳細に表示され、集まった仲間
達を前に、そのリーダーたる皆人が口を開いている。
『今回の俺達の目的は、冴島隊及び筧刑事の救出だ。だが、由良刑事のケースを考えると、
後者は既に殺害されてしまっている可能性もある。その時は、冴島隊長達の救出に集中して
くれ。戦力はなるべく大きくまとまって動かした方がいい』
彼の中では、筧の命は半ば諦めているのか。
睦月や海沙、宙などは口にこそせど静かに眉根を寄せ、唇を結んでいたが、確かに情で足
を止めていて無事に帰って来れるほど、今回進入する先は生易しい場所ではない。
冴島に逃がされた隊士の話では、現れたアウター達は彼らを連れ去って行ったという。
おそらくは調律リアナイザと、こちら側の人間の身体検査が目的だろう。加えて冴島達を
圧倒したというその二体のアウターは、今までにないタイプだった。まるでアウター同士を
合体させたような……。実際に遭遇してみないと分からないが、単純に倍の力を備えている
とすれば、厄介だ。
『奴らが逃げ込んだ先は、H&D東アジア支社、旧第五研究所。現在は使われていない事に
なっているが、隠れ蓑としてこれほど奴らにとって好都合な場所はない。やはり社の上層部
に連中のシンパが潜んでいると考えるべきだが……今は後回しだな』
皆人のクルーエル・ブルー、激情の紅形態が突き止めたトーテムの潜伏先。そこは以前潜
入捜査を試みるも、蝕卓の幹部達に手酷い返り討ちに遭ったあのH&D社の関連施設だった。
激情の紅は本来、装甲を犠牲にしつつ、一度攻撃した相手をどこまでも追尾して貫く、ク
ルーエル・ブルーの必殺形態だ。皆人は今回その能力の性質を、トーテム追討と冴島達の居
場所特定に利用したのだった。
データ上では、現在建て替え予定により使われていない筈の場所。
だが、そこから辿れる組織の名前は、今回の一件に蝕卓が関わっていると示すにはあまり
にも充分過ぎた。先ず間違いないと考えてよいだろう。
『状況からして、トーテムと件の二体、及び筧刑事を襲ったアウターや幹部達も絡んでいる
可能性が高い。総力戦になる。皆、気を引き締めて臨んでくれ!』
『了解!』
そんな気丈に張り上げた皆人の声色に、睦月ら面々が力を込めて応える。それぞれに調律
リアナイザを、EXリアナイザもといパンドラを握り締め、いざ冴島達救出の為に駆け出し
てゆく。出撃し、司令室を後にする。
『……お願いね。睦月、皆。無理だけは絶対にしないで』
『敵陣の只中に突っ込む以上、通信は最小限だ。不在中の指揮は、私と香月君で執ろう。全
力でサポートさせて貰う』
「──巡回ルートに死角を作るな! 目を光らせろ! ネズミ一匹逃がすんじゃないぞ!」
「行動する時は必ず二人以上を維持しろ! 何か問題が起きたら、迷わず報告だ!」
一方その頃、冴島達が捕らえられた先、H&D社の旧第五研究所では、スロースの指示で
サーヴァントや元バイオ一派のアウター達が研究所内に配置され、警戒を強めていた。怪人
態のままで歩き回り、既に表の体裁など捨てている。この時期、このタイミングで侵入者が
現れようものなら、問答無用で始末するという構えだ。
「……さあ、何処から来るかしら? 如何攻めて来るかしら?」
そんな研究所内の一室で、スロースも不敵に笑いながらその時を待っている。普段の気だ
るさはややなりを潜め、面倒を押し付けられた責任と内心の苛立ちを、攻めて来るであろう
睦月達に向けてやろうと企んでいる。
『──ぉ、──ぉぉぉッ!』
だが、そんな彼女達の用意周到な布陣は、次の瞬間全く別の方向から崩されたのだった。
まるで不意を突いて横から張り倒されたような、そんな感覚。研究所内で大真面目に目を
光らせていた面々の頭上から、段々と大きな音が近付いて来る。「……何だあ?」と、誰か
らともなくその小さな異変に顔を上げようとする。
「ドラッシャアァァァーッ!!」
そう、頭上からである。グレートデュークの巨大な鉄白馬が、仲間達を乗せてフロアの天
井を盛大にぶち抜き、飛び降りてきたのだった。
「……?! なっ、なあっ!?」
「敵襲、敵襲ーッ!!」
サーヴァント達が、元バイオ一派のアウター達が見上げ、仰天して叫ぶ。
相手が警戒しているであろう事を見越し、敢えてその裏の裏をかいた、正面からの奇襲。
睦月達の救出作戦が、始まった。




