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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-34.Faith/その遺志を挫く者
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34-(6) 激情の紅(テリブル・レッド)

「ヘッジホックを倒した事で、懸案の一つは消えた。尤もトーテムや、他の残党達までは倒

し切れなかったが」

 騒ぎを聞きつけた國子や仁、海沙や宙らと合流を果たし、睦月達は司令室コンソールに戻って来た。

立て続けに出撃していたのだ。一旦このタイミングで休憩を取りつつ、今後の方針を皆で話

し合う。

「一先ず、優先順位を切り替える。冴島隊長達と筧刑事を、奴らの手から救い出す」

 パックの牛乳をちゅーちゅーと吸いながら、仁がそう語る皆人を見ていた。國子や海沙、

宙達も真面目だったり不安だったり、それぞれの表情で同じく視線を向けている。

「……」

 反面睦月は、強化換装の反動なのか思う所を引き摺っているのか、終始椅子に背を預けて

ぐったりとしていた。そうしている間にも常時駆動している、司令室コンソール内の機器に時折目を配

りながら、母・香月もそんな息子を複雑な面持ちで見守っている。

 彼とヘッジホックが大暴れした廃工場跡は、現在大騒ぎになっているが、その辺りの後始

末に関しては、各所にパイプを持つ内通者達に任せておくしかない。

「助けるっつったって……そもそも居場所が分かんねえだろ。そっちで何か、手掛かりでも

見つかったのか?」

 ぱちくりと目を瞬き、仁が訊ねた。尤もだと海沙と宙が頷き、これに追従している。國子

がちらりとそんな仲間達を一瞥し、小さく頷く皆人を見た。そういえばシャッター街に向か

った時にも、國子がそんな風なことを言っていたような気がする……。

「ああ。というよりも、仕込んでおいた。ほぼ俺の独断ではあったがな」

「……?」

 言ってから、皆人はスッと懐から自身の調律リアナイザを取り出すと、見つめる皆の前で

再びクルーエル・ブルーを召喚した。仁が頭に疑問符を浮かべていた。ふいっと睦月が、他

の面々が、皆人の傍らに浮かび上がるその姿を見上げる。

「どちらも、蝕卓ファミリーが関与していると判った時点で、対策は考えていたんだ」


「──着いたわよ。さっさと入りなさい」

 時を前後して。手負いのトーテムは逃走の最中、自分の前に現れたスロースに案内され、

飛鳥崎内のとある研究所ラボへと辿り着いていた。廃工場のアジトが吹き飛ばされた風圧でねば

ねばは取れたものの、追撃戦の中で受けたダメージと、何より失ったものの大きさで、正直

何も取り戻せた気がしない。

「トーテムさん!」

「よくぞご無事で……」

「あ、あの……。それで、ヘッジさんは……?」

 研究所ラボ内には、既に先に保護されたと思しき部下達が待っていた。目算でしかないが、元

いた人数よりも減っている気がする。おずおずと訊ねられて、トーテムは静かに首を横に振

った。彼らの表情が、一様に曇ってゆくのが否応にも分かる。

「……すみません、トーテムさん」

「リーダーも、ヘッジさんも、俺達の為に……」

「自分を責めるな。それでは二人が浮かばれん。あやつらはあやつらで、自分が正しいと思

った事をしたまでだろうて」

 言って、しかしトーテムの内心は、彼らに向けてやった慰めとは全く逆だった。自分と同

じく彼らを誘導してきたのだろう。スロースに加え、グリードとグラトニーが中の柱の一角

に背中を預け、或いはニタニタと感情の読めぬ笑みを浮かべながらこちらを見ている。

「……」

 ギリッと、人間態の皺くちゃの手の中に握り締められていたのは、既に破壊された件の小

型発信機で──。


 皆人の傍らに現れ、浮かび上がったのは、彼のコンシェルことクルーエル・ブルー。

 しかしその姿は、睦月達がこれまで見慣れていたものとは大分違う。メタリックブルーの

鎧姿で統一されていたその全身は、今は熱を帯びたように真っ赤に染まっていた。関節や背

中など、要所から蒸気が立ち上り、本体を包んでいた装甲は随分パージされて身軽になって

いるように見える。

「何も俺は、個人的なリベンジの為に奴の前に出て行ったんじゃない。睦月と一緒に奴らの

アジトに踏み込んだのは、いずれ繋がる“保険”の為だ。ある意味、蝕卓ファミリーと繋がりながら、

奴らは俺達に挑戦してきた。ならば一旦奴らを追い詰めれば、その先で縋るのは、この本丸

だろう?」

 仁が、海沙や宙が、或いは睦月が、その姿を目を見開いて見ていた。

 國子は彼の付き人であるため既に知っていたのか、特段表情を動かす様子はない。或いは

この一手について、予め聞かされていたのかもしれない。同じ場所で戦っていた筈の睦月で

はあったが、クルーエルのこんな姿は初めて見る。

「居場所なら追えるさ。奴の傷なら……相棒の刃が覚えてる」

 相変わらずの、眉根が寄った糞真面目な表情。

 だが纏うその雰囲気には、今は狩る側の喜色が混じっているようにも見えた。

                                  -Episode END-

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