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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-34.Faith/その遺志を挫く者
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34-(4) 非情の追撃

「──誰もいねえなあ」

「ええ。最後に反応があったのは、この辺りの筈なんですが……」

 別行動中の冴島達からの連絡が途絶え、國子や仁、海沙や宙らは急ぎ現場へと向かった。

 行き着いたのは、頭上に雑居ビル群を仰ぐ、人気のない路地。

 表通りから大分外れたシャッター街であることも手伝い、辺りは物寂しかった。手入れが

疎かなのか、そのあちこちに細々としたゴミが散らばっている。

「やっぱ、何かトラブルに巻き込まれたと考えた方がよさそうだよねえ」

「うん。理由があるにしても、任務を放り出すような人じゃないし。筧さんの姿だって見え

ないし……」

 言いながら一行は、暫くの間辺りを手分けして捜索することにした。やけにゴミやら何や

らが散らかっているこの路地の中をうろうろしながら、冴島達の足取りが判りそうなものは

ないかと注意を配らせる。

「……副隊長?」

 ちょうど、そんな時だったのだ。ふと、路地の更に奥の物陰から、聞き覚えのある小声が

聞こえた。國子以下面々が、耳聡くこれに反応し、集まる。よくよく目を凝らしてみれば、

その物陰に傷付いた隊士が一人、息を殺すように潜んでいたのだった。

「!? 貴方──」

「ど、どうしたんですか? その怪我……」

「自分は……大丈夫です。それより、隊長達が……」

 慌てて皆でこの隊士を引っ張り出し、横たえる。本人は気丈にも他の仲間達を気遣おうと

していたが、ボロボロになっていたその姿では説得力はない。海沙が鞄の中から救急セット

を取り出して、とりあえず間に合わせの手当を始めた。その傍らで、同行していた他の隊士

司令室コンソールに連絡。至急、医務班の出動を要請する。

「手酷くやられたな……。一体、何があった?」

「隊長や筧刑事の姿がありませんが、何故貴方だけが?」

「……襲撃です。自分達が、筧刑事を待っている時、見た事もないアウター達が現れて交戦

になりました。隊長のジークフリートでもまるで歯が立たず、そのまま自分達は奴らに全滅

させられて……」

 この生き残った隊士曰く、此処にはそもそも、筧が知人の探偵──情報屋と接触する為に

訪れたのだそうだ。しかしその情報屋は訳ありらしく、いきなり部外者の自分達を大挙して

同行させる訳にはいかないと、筧に一旦人払いさせられたのだという。

 そうして彼が戻って来るまで待機している間に、そのアウター達は現れた。鎧のように頑

丈な黒サイのアウターと、全身からキノコの生えた、蒼いクラゲのアウター。

 まるで複数のモチーフが“合体”したかのような彼らは、その力で自分達を圧倒し、敗北

した冴島達を連れ去ってしまったのだという。加えてその発言から、筧が接触しようとして

いた件の情報屋も、彼らとグルである可能性が高いとのこと。

「……何てこった」

「自分は、隊長が寸前に機転を利かせて逃がしてくれたんです。せめて皆さんにこの事だけ

は伝えねばと、自らを囮にして……」

『冴島君……』

 通信の向こうで、香月が小さく呟いていた。言外にはしなかったが、萬波や他の仲間達も

一様にきゅっと唇を結んでいる。

 この隊士の調律リアナイザとデバイスを回収し、國子達はその襲ってきたという“合体”

アウターの姿を確認した。リアナイザの方は本人同様かなり損傷していたが、デバイスの方

はまだ生きている。データを一旦司令室コンソールに送って保存して貰い、再びこちらに受信し直して、

この件の敵を目に焼き付けておく。

「確かに、何か見た事のない感じよね」

「これってもしかして、単純に二倍の力があるとか、そういう事なのかな……?」

『現物のデータを採れていない以上、何とも言えんがね。だが、冴島君とジークフリートが

手も足も出なかったのなら、そう考えれば辻褄は合う』

「……すみません。そちらの任務まで邪魔をして、ご迷惑を……」

「ああ、もう。だから安静にしてろって。傷に響くぞ?」

「急いでそのアウター達を追った方が良さそうですね。隊長達の身が心配です」

 えっ──? そして國子のその呟きに、この手負いの隊士が驚くように目を丸くした。仁

達が介抱しているにも拘らず、上半身を起こして彼女の方を向こうとし、されど未だ残るダ

メージに表情かおを顰めながら言う。

「き、危険です! ここは一旦体勢を立て直して……。それに追うにしたって、何処に行っ

たのかも自分には──」

「それなら大丈夫です。こちらの件も、アウター絡みなのでしょう?」

 すると彼女はスッと彼に振り向いて応えた。頭に疑問符を浮かべる彼に、状況からして、

その存在を探る由良や筧を狙うということは、十中八九“蝕卓ファミリー”の差し金である筈だと。

「それはそうですが……。そういえば司令は? 睦月さんの姿も見当たりませんが?」

 だからこそ、この隊士はふと言いかけて気付いた。先程から皆人の声も聞こえないし、戦

力の要である睦月の姿も見えない。國子が淡々と、一見殆ど表情を変えずに言う。


『──ッ!?』

「お前ら、まさか……」

 ちょうどその頃、当の二人は全く別の場所に現れていた。痛み分けとなって逃げ帰って来

たヘッジホックやトーテム達、バイオ残党の廃工場のアジト。そこへ皆人と睦月は、隊士達

一個小隊を率いて乗り込んでいた。カツンと、驚き振り返る彼らの視線の先、廃工場の開か

れたシャッターを前に、静かに靴音を慣らして立ち並ぶ。


「心配は要りません。睦月さんなら今、皆人様率いる小隊と合流して、もう片方の追撃に向

かっています」

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