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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-33.Faith/その遺志を継ぐ者
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33-(4) 待ちながら

 時を前後して、人気のない原っぱ。その一角の木陰で、睦月は一人仰向けになって寝転が

っていた。

 かつて此処は近隣の住民達が集まる憩いの場だったが、三六五日常に新陳代謝を繰り返す

集積都市という環境にあって、その開発の波に取り残された場所の一つでもある。今では訪

れる者も殆どなく、辺りには背の低い枯れ草とか細い木が点々と広がっているだけだ。

「……」

 気付けばすっかり自己主張するようになった夏の日差しが、木陰の影と熱の暖め合い・冷

まし合いを続けている。

 睦月はここ数日ずっと、この無関係の人々を巻き込まないであろう場所で、ヘッジホック

が現れるのを待っていた。要するに囮役である。こうして連日姿を見せていれば、奴もいず

れ嗅ぎ付けてくるだろうと踏んでの作戦なのだが……。

「ねえ、皆人」

『? 何だ』

 一人仰向けのまま、長い沈黙の後、睦月はそうインカム越しに司令室コンソールでこちら様子をモニ

タリングしている皆人に訊ねる。

「アウターって、一体何なんだろう?」

 それは、彼にとってはずっと頭の隅にあった根本的な疑問。

『……人間に欲望に便乗して、実体を得ようとする電脳の怪物、だろう?』

「あ、うん。そうなんだけど……。そうじゃなくて……」

 通信の向こうにいる皆人は、数拍言葉を選ぶように、間を置いてから答えた。だがそれは

ある種の辞書的な回答だ。睦月はそんな友の、立場と自分の“我が儘”を理解しておきなが

ら、それでも訊いてしまう己にフッと苦笑いを零さずにはいられなかった。

「僕は言いたいのは、アウター達は“何故”実体を欲しがるんだろう? って話だよ。確か

に召喚主に呼び出されないとこっちに出て来れないのは不便なんだろうけどさ……。それっ

て、自分の意思なのかな? それとも、誰か別の……?」

『……アウターも、元を正せばプログラムだ。だからそういった風に“作った人間”が確実

に存在する』

「作った、人間……」

 それでも通信の向こうの友は、あくまで冷静だった。睦月は若干心許ない木漏れ日に目を

細めながら、そっと眉を顰める。

 アウターを作った人間。確かミラージュ──カガミンが以前話してくれた情報では、シン

と呼ばれる人物がその生みの親だとか。彼は今もプライドら“蝕卓ファミリー”の幹部達を率い、この

飛鳥崎で暗躍している……。

『確かに奴らの“目的”に関しては、未だ判然としない部分が多い。ただ、これまでの戦い

からして、一体でも多く進化を──実体化させたいようには見えるな』

「うん……」

 客観的事実は、まさしく。少なくとも現在自分達が把握できている事実となれば、その辺

りまでである。

 しかし一方で睦月は、内心そんなアウター達にある種の「哀れ」を感じていた。感じさせ

られるケースがままあった。

 その存在理由も曖昧なまま、この世に生み出されて怪物となり、いずれは召喚主を殺さね

ばならないなんて。たとえ「そうプログラムされているから」といって……。

「……でも、人と分かり合える個体もいた。それは皆人も一緒に見てきたでしょ?」

 それは半ば、睦月の希望的観測でもあった。友の言うように、ただプログラムされた通り

に召喚した人間を使い潰すのではなく、彼らと共に歩もうとした者達がいる。人と何ら変わ

らぬ“心”を持つようになった個体もいる。

 タウロス、ストーム、黒斗にミラージュ──必ずしも自分達にとって完全な“敵”とは言

い切れない者達を、これまで何度か見てきた。出会ってきた。それでも自分達は、対策チー

ムとして倒さなければならない。じっくりと話せばもっと何かが解るかもしれないと思った

相手であっても、斃してこなければならなかった。

『……』

 だが対する通信の向こうの皆人は、重い沈黙を寄越している。少なくとも睦月のそんな呟

きには否定的だった。頭ごなしに否定するでもなく、激怒するでもなく、ただ淡々と論理的

に説き伏せる。

『俺にはあくまで“そういう立場”であったとしか思えんがな。銀仮面──プライドの言葉

を借りれば、所詮は学習しただけに過ぎないんじゃないか? 奴らはプログラムの塊。善悪

という俺達の主観より、アウターとして暴れる“害”なのか、パンドラのような“益”とな

るのか、肝心なのはそこだろう?』

「それは……。そうだけど……」

 モニターの向こうの友を、皆人はじっと見ていた。木陰に寝転がっている姿は、遠巻きに

は先程から何ら変わらないが、その内面は常に迷いと踏ん切りの間を行き来しているのだと

知っている。

 尤も皆人自身は、コンシェルひいてはアウターを、人を援ける道具ツールとして見るように努め

てきたつもりだった。自分達人間が、不確実な心というものを持ってしまう存在だからこそ、

そこを越えてスマートにサポートする相棒が必要だと考えている。

『大体、お前も時々“敵”認定してるだろうが』

「うっ……。そ、それは、放っておいたら被害の方が大きくって、避けられないから……」

 だがそんな自身の基本的なスタンスを、皆人は特段この友に押し付けようとは思わない。

代わりにそう別の突っ込みを入れ、彼がぐうっと言葉を詰まらせるのを聞いている。

「それが僕の──守護騎士ヴァンードの役目だし……」

『それでいい』

 もじもじと言葉を選んでいる、迷っている睦月。だが皆人はその発言を引き出しただけで

今この場では充分だと思った。

 既に他のメンバーは、全員持ち場に就いている。

 海沙と宙、ビブリオとカノンはこの原っぱを見下ろせるビルの屋上で狙撃の態勢を整えて

いるし、仁とデュークは彼女達の護衛役として、その盾と槍をギチリと構えている。國子以

下隊士達は“暗がり”の中に潜み、戦いが始まる時を待っている。

『……どうやら、お喋りはここまでのようだ』

 ちょうど、そんな時だった。ふと司令室コンソール側で状況を監視していた皆人が、そうインカム越

しに促す。睦月もハッと顔を上げ、身体を起こした。見れば原っぱの向こうから、真っ直ぐ

にこちらに向かって歩いて来る人影がある。

「──」

 ヘッジホックだった。

 ギロリとこちらを睨みつけながら、灰色フードの青年がその姿を現した。

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