33-(2) 迎撃会議
「瀬古勇が、か……」
司令室で事の詳細を聞いた皆人は、集まった一同の前で暫し思案顔をしていた。ふむ、と
口元に手を当てて、次の言葉を待つ睦月達に見つめられている。
(本人の宣言通り、怪我人は一人もなし。それでいて睦月を焚き付けるような言動……)
報告を受けた時は驚いたが、冷静に考えてみればそれほど不思議な事ではない。こと瀬古
勇という人物は、睦月──守護騎士に対して並々ならぬ対抗心と執念を抱いている。弟の復
讐を邪魔されたあいつを、自らの力で倒し、越えるのだという誓約。その為ならば、たとえ
蝕卓の方針に反する事も厭わない。今回のそれは、その範囲内ギリギリの干渉だったのだろう。
「……だが、こちらにとっては好都合だ。これで懸案の片方を正面から叩ける」
ついっと顔を上げ、皆人は言った。他の職員や隊士達も少なからず同じような思考をして
いたのだろう。誰からともなく、コクリと力強い首肯が返ってくる。
「うん。龍咆騎士……だっけ? 何で僕への刺客が瀬古さんじゃなくて、ヘッジホックにな
ったのかは分からないけど」
「大方弔い戦という理屈なのだろうが……。少なくともこれで、瀬古勇との交戦という現状
ではリスクの高い戦いを、本人の話が事実ならば避けられる。何より件のアウターが向こう
から出て来てくれるんだ。この機会を活かさない手はない」
睦月の疑問に、尤もと頷きながら、皆人は制御卓に着く職員達に目配せをした。彼らはそ
れを受け、正面のスクリーン群にとある映像を映し出す。以前、バイオ一派と資材置き場で
交戦した際のログだ。
仁のグレートデュークの大盾にぶつかる無数の鋭い棘、金属質なハリネズミを彷彿とさせ
るヘッジホックの怪人態。
その交戦の映像データを見せながら、皆人は続ける。
「厄介なのはこの棘だ。どうやらある程度自在に伸ばせる上、貫通力も高い。両手には同じ
くこの棘を流用した拳鍔も装備している。攻撃それ自体は比較的ワンパターンだが、攻守に
優れた能力だと言えるだろう」
「ああ。実際デュークの盾でもギリギリだったぜ? もう少し戦いが長引いてたら、突き崩
されちまう所だった」
応えて、そう思い出すように苦々しく肩を窄めて。
仁も正直な所を話した。あの場で実際にヘッジホックとかち合っていたのは、他ならぬ彼
だったのだから。
「デュークの装甲でもああだったんだ。並大抵の防御力じゃあ、すぐに蜂の巣にされちまう
だろうよ」
その言葉に、國子や宙、海沙以下場の面々がコクッと神妙そうに頷いた。どうやら今回の
攻略の鍵は、そんなヘッジホックの棘にどう対処するかにあるようだ。
あーでもない、こーでもない。
それから暫くの間、皆人以下対策チーム一同は、この目下襲ってくるであろうアウターの
傾向と対策を話し合った。映像ログから弾き出したデータを元に、どれくらいの耐久力でも
ってすれば防げるのか? 或いは回避に徹すれば活路が開けるのか? 少なくとも一度はぶ
つかった事のある相手だ。準備は、可能な限り整えておきたい。
「……防御力、か」
『? マスター?』
そんな活発で真剣な議論の中、ぽつりと睦月が呟いた。
ちょこんと、デバイスの画面の中で、パンドラがそうこちらはこちらで思案顔をし始めた
主の横顔を、疑問符を浮かべて見上げている。




