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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-33.Faith/その遺志を継ぐ者
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33-(0) 直談判

 暗がりに潜む地下のサーバー室に、珍しい客がやって来た。灰色フードの青年と老紳士風

の男──ヘッジホックとトーテムである。

 カツンカツンと響いた足音の後、開いたゲート。

 その横顔、特にヘッジホックのそれは、真っ直ぐに張り詰めたかのような険しさを湛えて

いる。

「……何だおめえ。どうやって入った?」

 これにすかさず動いたのは、正面の円卓の面々だ。

 二人を睨み付けるチンピラ風の男グリードと、傍らの肥満の大男グラトニーに、神父風の男ラースゴスロリ服の少女スロース

黒スーツの青年ラスト及び、エンヴィーこと勇──不在の白鳥プライドを除いた“蝕卓ファミリー”幹部七席。

 気配ですぐに同胞だとは分かった。だがここは自分達蝕卓ファミリーの拠点だ。専用のIDを使わな

い限り、ここへやって来るのは基本的に不可能な筈だが……。

「──」

 するとそんな思考を読んでか、トーテムがついっと指を一つ立てた。円卓の上に置いてあ

ったカップが、右へ左へとひとりでに滑って止まる。彼の念動力の能力だ。ラースが眼鏡の

奥から、ラストが流し目の端で視線を投げていた。どうやら扉のロックも、こうして物理的

に解除したらしい。

「やあやあ。おかえり。ヘッジホック、トーテム。君達から“里帰り”してくれるなんて、

泣かせてくれるじゃないか」

 ラース達の剣呑に反応して、暗がりのあちこちから現れていた無数のサーヴァント達。

 しかしその一方で、白衣の男シンだけは上機嫌だった。いつものように飄々としているとも言

えたが、両腕を、纏う白衣を大きく広げると仰々しく出迎える。

『……』

 だが肝心の、対するヘッジホックの表情は険しいまま微動だにしなかった。傍らのトーテ

ムも、彼ほどではないが、言葉なく白い目を向けている。

「……用件を聞こうか」

「ああ。折り入って、あんたに頼みがある」

 ラース以下七席達が、無言のまま眉を顰めた。それでもシンが自分達の前面に出て話して

いることから、実際に割って入ってまでこれを遮ろうとはしない。

「一つ、約束をして欲しい。僕が守護騎士ヴァンガードを倒せたら、僕の仲間達を自由にさせてやってくれ。

あんたらが僕達に手を出さないのなら、僕達もあんたらに手を出さないと誓う」

 ヘッジホックは言った。それは自らが、彼の者に対する刺客にならんとする宣言だった。

 全ては亡き友の──バイオの願いの為。やり方はいささか乱暴ではあったが、自分達の未

来を勝ち取ろうとして半ばに散ったその遺志を、彼は受け継ごうとしたのだ。

 ヘッジ……。傍らのトーテムが、実際にそう漏らしたかのように、きゅっと静かに唇を結

んでこの横顔を見ている。

「はあっ!?」

「おい、待て。何を勝手な事を……」

 当然ながら、この一方的な提案に幹部達は反発を隠さない。

 特に血の気の多いグリードや、獲物を奪われる格好となる勇は黙っていない。そうでなく

とも“身勝手”と映るのだ。そう安易に「独立」など許す訳にはいかない。

 詰まる所……敵討ちだとしても。

「ああ、いいよ」

『シン!?』

 だが当のシンは、そんな申し出をあっさりと受け入れた。ラース達を始め、周りの幹部達

が驚いたようにこちらを見遣ってくる。ガタッとにわかに席から立ち上がろうとする勇らを

制しながら、やはり彼は飄々としていた。

「まぁ、いいじゃないか。やらせてみるくらい。亡き仲間ともの弔いの為に……泣かせるじゃあ

ないか」

 片手で目元を拭うようにして、だけども表情は変わらず底知れぬ笑みを。

 ラース達は押し黙っていた。蝕卓ファミリーの頂点、自分達を生み出した張本人がそう認めるのなら、

これを覆すほどの権限は持ち合わせていない。

 勇が明らかに不服なまま席に座り直し、ラースが眼鏡のブリッジを、スロースがやれやれ

と嘆息をついている。そんな面々のやり取りをじっと見ていたヘッジホックが、改めて確認

するように問うた。

「……本当にいいんだな? 僕達を、自由にしてくれるんだな?」

「ああ。約束しよう。その間、こちらも邪魔はしないでおくよ」

 一見朗らかにシンが言う。ヘッジホックは、トーテムはこれを数拍じっと見つめていた。

 ゆっくりとその返事を咀嚼するように、全身に染み込ませるように、彼らは一旦目を瞑り

ながら深く息を吐き出した。安堵したのだろうか。「必ずだぞ?」念を押すように、確約を

取りつけるように、去り際にもう一度こちらを見据えてから踵を返す。

「……」

 その一瞬、トーテムが迷うように彼とシン達とを見比べていた。さりとてそれも数拍の事

で、すぐに彼の後を追って歩き出す。


 カツカツと、靴音が遠ざかって行った。

 少しだけ明かりの差した暗がりの中で、シンと七席達は不気味に佇んでいる。

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