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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-30.Control/越境者の条件
232/526

30-(5) 王蟲換装

「ほう? ようやくその気になったか」

 突然現れたかと思うと、なれなかった筈の守護騎士ヴァンガード姿になった睦月を見遣って、にぃっと

バイオは嗤った。エンヴィーが現れなかったのは失敗だが、これでこちらの本来の目的を達

することができる。

 通信越しに、司令室コンソールの皆人や香月、萬波以下研究部門、対策チームの面々が固唾を呑んで

これを見守っている。再び変身に成功したことは喜ばしいが、されど複雑な気持ちはある。

はたして強靭を誇るこのアウターにどう戦うのか? そもそも、何故今になってまた変身で

きるようになったのか? 彼の中で一体何が起こったのか……?

『國子、大江。皆を連れて一旦離れろ。ここからは睦月をサポートする』

 了解! 皆人の指示を受けて、それまで必死にバイオ達を食い止めていた仁達があたふた

と後方へ下がり始めた。隊士達もお互いに肩を貸し合い、ふらつきながら、ゆっくりとこち

らへと歩いて来る睦月と入れ替わりになるようにして距離を取ってゆく。

「バイオ」

「ああ。お前らはそこで見てろ。俺が……奴を倒す」

 鉄球拳を左の掌でゴン、ゴンと打ち鳴らしながら、バイオもこの標的に向かって一人近付

いていった。互いの距離が詰まってゆく。一歩、もう一歩。一撃を叩き込むに足りる間合い

まで近付いて……。

「っ、らぁッ!!」

「ナックル!」

『WEAPON CHANGE』

 初手、拳によるパワー勝負だった。鉄球拳と、ナックルモードの光球がぶつかり合う。

 だが──その勝敗は思いもよらぬ結果だった。真正面からの打ち合いであったにも拘わら

ず、睦月が数秒の拮抗もなく押し返したのだ。衝撃で半身がぐらついたバイオが、驚愕した

ように血走った目を見開く。見開いて、しかし更に闘争心に火が点いたのか、咆哮する。

 突きと横払い。続く鉄球拳の連撃を、睦月は着実に回避していた。

 そのままより深く懐に入り、続く左腕のネイルガンによる攻撃を防ぐ。大きく蹴り上げて

弾いた勢いを利用してその場でぐるりと一回転。「スラッシュ!」と叫び武装をエネルギー

剣に替えると、返す刃でバイオの身体に巻きつけてあった弾倉を切り裂いたのだった。

 散る火花。またしても大きくぐらつく身体。

 バイオは数歩よろいめいたが、すぐに踏ん張って身構えた。押された事が信じられないと

いうよりは、その事実に対する反感いかりがまず先に出てきている。

「こん、のっ──!」

「おおおッ!!」

『ELEMENT』

『RAPID THE PECKER』

 再び武装をナックルに替え、すぐさま次の攻撃が始まる。

 バイオの凄まじい速さで打ち込まれてくる拳の連打に、睦月も負けず劣らずにこれを繰り

出していった。周りに風圧が起こるほど、霞むような怒涛の攻防。既に破壊された街灯や瓦

礫が煽られて軋む。ヘッジホックやトーテム、距離を取り直してこれを見ていた仁達双方も

が、この激しい戦いに唖然とさせられていた。

『な、何か凄いことになってるな……』

『おい。ぼさっとしてる場合じゃないぞ!』

『今の内に測定急げ! 睦月君のデータを採るぞ!』

 司令室コンソールの研究部門の面々が、にわかに慌しく動き始めた。戦いに見惚れている暇はない。

何故彼が、急に変身できるようになったのか、詳しく調べておかないと。

『適合値算出開始。波形調整……完了』

『出ました! 適合値、二四〇〇! いえ、まだ上がります。二八〇〇……三〇〇〇!』

 故に、場の面々は一様に驚愕していた。彼の適合値が持ち直していたどころか、以前のそ

れさえも遥かに上回って、ぐんぐんと上昇を続けていたのだから。

『三〇〇〇……だと? か、彼は一体……??』

『……』

 流石の萬波も度肝を抜かされて戸惑っている。香月が、そんなモニター越しの我が子の姿

を、複雑な様子で見つめていた。

 拳の打ち合いは、天井知らずに加速する。

 だがそれに最初に音を上げたのは、バイオの方だった。追いつき切れぬ攻撃のラッシュに

弾かれ、掠りを受け始め、とうとう顔面へまともに食らって吹き飛ばされたのだ。

「ぐうっ……!? な、何なんだ? こいつ、本当にあの時の腑抜けか……?」

 じわりと、滲み出る血と、焦り。

 この形勢の変化に、ヘッジホックとトーテムが駆け寄ろうとしていた。バイオはまだ片膝

をついて口元を拭っている。

 俺が、打ち負けた? 破壊特性ブーストで十二分に温まった状態だってのに、こいつはそれよりも

速くて強い、だと……?

「バイオ! 大丈夫か!?」

「奴の様子が変だ! 我々も加勢する!」

 そして、二人が加わり、戦いは三対一の構図に持ち込まれようとしていた。当のバイオは

正直不服なようだったが、それよりも反撃に転じる方が先だと言わんばかりの突進。それで

も睦月はこの三人からの攻撃を巧みにかわしながら、一発二発と攻撃を加えていた。そんな

一部始終を見ていた仁が、通信越しの皆人に向かって言う。

「お、おい。やばくないか? いくら何でも、三人相手じゃあ……」

『……大丈夫だ。すぐに分かる』

 あん? 仁は、隊士達は頭に疑問符を浮かべたが、その答えはすぐにやって来た。

 攻撃があったのだ。三対一で混戦する睦月とバイオ達に向けて、何処からか突然後者三人

だけを的確に狙って何者かからの銃弾が次々にヒットしたのである。

「ぎゃばっ!?」「がっ?!」

「な、何だ……!?」

 火花を散らして、地面を転がるバイオ達。必然三人は、睦月から一旦間合いを取る格好に

ならざるを得なかった。当の睦月も、パワードスーツの下で何が起こったのかと辺りを見渡

している。すると次の瞬間、その耳に、この狙撃の主達からの声が届いてきたのだった。

『やっほー、睦月。変身、できるようになったみたいだね?』

『私達だよ、むー君。援護なら任せて?』

 海沙と宙だった。先日対策チームの一員に加わった幼馴染達だった。

 彼女達は、遠くビルの屋上から睦月達の戦いの現場を見つめていた。宙はMr.カノンを

調律リアナイザで召喚し、匍匐前進よろしく長銃ライフルを構えて狙撃の体勢を取っている。その横

で、海沙のビブリオ・ノーリッジが幾つもの電子の本を開いて浮かんでいる。薄く瞑った目

と周囲には無数の数列──複雑な計算式が浮かび、リアルタイムでこちらと現場とを結ぶ射

線を導き出している。

『聞こえるか、睦月? 二人にはそれぞれのコンシェルの特性を最大限活かせるようコンビ

を組んで貰っている。銃撃戦に秀でるカノンは遠距離からの援護射撃。検索・演算能力に秀

でるビブリオには、その軌道計算といった具合にな。三対一でも問題ない。ここで一気に、

奴らを叩き潰す!』

 ……うん! 通信越しの幼馴染達や皆人の言葉を受けて、睦月はコクリと大きく頷いた。

 後ろは大丈夫だ。二人がフォローしてくれる。ならば自分は真っ直ぐ目の前の、この三体

のアウターを倒すだけだ。

「くそっ……。遠距離射撃、だと……?」

「流石にこれは予想できなかったねえ」

「ねえ、じゃねえよ! 聞いてねーぞ、こんなの!」

 あああああ! 瓦礫を吹き飛ばして、バイオが苛立ちを頂点にしながら叫んでいた。同じ

くしてやられながらも、残り二人は比較的めいめいに思案をしつつ立ち上がってくる。

 だが、再び睦月に襲い掛かろうと駆け出したバイオを、またしても何処からとも知れぬ銃

弾が阻んだ。海沙と宙による、超遠距離からの援護狙撃である。火花を散らして、バイオが

また吹き飛ばされた。吹き飛ばされて、ガバッと起き上がりながら銃弾の飛んできた方向を

睨む。しかしもうその時には、彼女達は狙撃地点を移動していた。それぞれのコンシェル達

に掴まりながら、ビルとビルの上の間を跳び回るように移り変わっている。

 そんな時、司令室コンソールから、通信越しに香月が指示を飛ばしてきた。

『睦月、今がチャンスよ。コーカサスフォームに換装して』

「えっ?」

 だから最初、睦月はその言葉に若干疑問符を浮かべた。オレンジカテゴリ、鹵獲能力に特

化させた強化換装。確かあれは、対由良の為に変身しようとしていたものの筈だが……。

「ケルベロスやフェンリルじゃなくて?」

『ふふ。何も記憶を操るだけがコーカサスじゃないのよ? このサポートコンシェルの武装

を使って』

 EXリアナイザのホログラム画面に、香月の指示したコンシェルのデータが表示された。

それに睦月は数拍目を通していたが、ややあってニヤリとその意図する所を汲んで小さく口

元に笑みを浮かべる。

「畜生……何処のどいつだ? 見えねえ所からチクチクと……」

 海沙と宙による狙撃・妨害。これが決定的な隙──時間を作ってくれた。

 睦月は、画面の中のパンドラは、再三狙撃されてよろめているバイオ達を見据えながらE

Xリアナイザを操作した。同カテゴリのサポートコンシェル達を順繰りに押し、ドラッグで

一括選択する。

『BEETLE』『STAG』『MANTIS』

『SPIDER』『BEE』『SCORPION』『LOCUST』

「……っ」

『ACTIVATED』

『CAUCASUS』

 バチバチッと奔る電流と銃口をぐっと掌に押し込んで、睦月は高くこれを掲げた。ひいた

引き金と同時に大きな橙色の光球が発射され、七つに分裂すると、円陣を組んで旋回しなが

ら次々と彼の下へと降り注ぐ。

「──」

 鮮やかなオレンジ色の装甲を纏った、新たな姿の守護騎士ヴァンガードがそこには現れていた。甲虫を

思わせる触覚が取り付けられた頭部に、複数の暗器を仕込んだ両手甲。腰にはEXリアナイ

ザとはまた別の、同じくオレンジを主体とした短銃が下がっている。

「これが……」

「コーカサス、フォーム……」

「……はん。色が変わったからって何だ。んなモン、こけおどしだッ!!」

 仲間達がそれぞれの場所で、口々に呟く。

 そんな敵の新しい姿に、バイオは怒号を吐き捨てながら向かってきた。黒鉄色だった全身

は今や破壊特性ブーストで真っ赤に熱を帯び、並大抵の相手ではビクともしない……。

「ふっ──」

 筈だった。しかし次の瞬間、彼の鉄球拳は、睦月の手甲から迫り出した逆刃でもってあっ

という間に受け流されてしまったのである。続いて間髪入れず、舞うように回転しながらそ

の刃で連続の斬撃を。散る火花とバイオ自身の巨体が視界を邪魔し、次の瞬間には大鋏型の

アームが彼の身体をがしりと捉えていた。

「よしっ!」

「ば、バイオ!」

「……チッ。この程度で、捕らえた気になるなあッ!!」

 されど散々に強化されたその肉体は、ぐぐっといとも容易く大鋏のアームを引き千切る。

 バイオは苛立ちと共に咆哮した。もう誰も彼の暴走を止める事はできない筈だった。

「てめえ、ちょっと俺を押したぐらいで調子に──」

 刺していた。次の瞬間、バイオの脇腹に今度は鋭い尾のような針が突き刺されていたので

ある。叫びかけて、バイオは一瞬目を丸くした。舌打ちをして、乱暴に払い除ける。

 狙いはこっちか。逆刃の剣も大鋏も、こいつを視界から隠す為のフェイク……。

「はん。中々小賢しい真似をするじゃねえか。だがそんなもんじゃあ、俺には決定打は与え

られねえぜ」

「……いや、これでいい。これで“詰み”だ」

「? あん? 何を──」

 その直後である。粋がっていたバイオが、突如としてガクンと全身を震わせた。

 いや、震わせたのではない。震えたのだ。その身体は彼の意思とは無関係に、まるで痙攣

したかのように震えてまともに動けない。

「か、身体が痺れて……。くっ! まさか、てめえ!」

『ええ。スコーピオン・コンシェル。サソリ毒の味は如何ですか? 身体の自由を奪う即効

性の神経毒です。プログラムですから、貴方達アウターにも効果覿面ですよ?』

 くそう……! バイオは顔を顰めながら必死に抵抗しようとしていた。しかし即効性の毒

が全身に回り、電脳の生命体としての彼の身体は着実に壊されている。膝をつき、その場か

ら動けなかった。ヘッジホックとトーテムが、彼の名を叫びながら走ってくる。睦月は数歩

後ろに下がると、腰の短銃を持ち上げてコールした。

「……。チャージ」

『PUT ON THE ARMS』

 短銃の後部フレームを開けてEXリアナイザを挿入する。合体した二丁は両手持ちのショ

ットガンのような形状となり、握り締めた睦月を通じて大量のエネルギーが装填される。狙

うは勿論、目の前で動けなくなっているバイオ。その更に後ろ、射線上には彼を助けようと

駆けて来るヘッジホックとトーテムの姿も垣間見える。

 銃口に集まった橙色の鮮やかな光は、やがて収束して濃い翠色へと変わっていった。その

中には蠢く生物のような奔流が閉じ込められ、睦月が引き金をひくその瞬間まで持てる力を

限界まで溜め込もうとする。

「っ!」

 轟。そして引き金をひいた瞬間、銃口から解き放たれた翠の光は、幾つもの巨大な生物の

姿を借りてバイオに向かって襲い掛かったのだった。

 いや──その全てが昆虫型をしていた。甲虫から鍬形、カマキリや蜘蛛、蜂にサソリにバ

ッタなど。巨大で様々な昆虫の姿を取って、そのめいめいが一挙にバイオに喰らい付く。

「ぎゃああああああッ!!」

 爆ぜるエネルギーの中で、バイオが断末魔の叫びを上げた。

 喰らい付かれ、粉微塵に破壊されていく身体。それだけでは飽き足らず溢れたエネルギー

の奔流は、後方にいたヘッジホックとトーテムにも襲い掛かる。

 ヘッジホックが、彼の名を叫んでいるように見えた。だが迫る敵からの大技に、咄嗟の判

断でトーテムがその首根っこを掴んで大きく跳躍。その場から退避する。

 そうして後に残ったのは、綺麗に消し飛んだデジタルの残滓だけだった。彼らによって破

壊された街の姿だけが、尚もそのままになって惨状を晒している。

「……」

 合体銃をゆっくりと下ろし、睦月は静かに変身を解いた。後ろから仁ら仲間達が駆け寄っ

て来る。勝利と守護騎士ヴァンガードの完全復活と、両方に嬉々とするその姿に思わず彼はフッと表情を

緩めていた。肩越しに振り向いたその顔は、それまでの鬼気から少し解放されたかのように

みえる。

『──』

 そんな自分達を、勇がずっと物陰から覗いていたことを、睦月達は知らない。彼はまるで

宿敵ライバルが本調子を取り戻したことを見届けるように小さく哂うと、そのまま音も立てずに踵を

返して消え去ってゆく。

『やりましたね、マスター!』

「……うん」

 仲間達が、通信越しに皆人達がめいめいに賛辞を送っていた。或いは安堵していた。画面

の中からパンドラにもサムズアップで微笑まれ、睦月は静かに苦笑いを零している。結局、

成し遂げたのは“敵”を斃すことには変わらなかったのだから。

 結果オーライ? これでいい?

 睦月は握ったままのEXリアナイザを見つめた。この中には、デバイスには、パンドラを

含めた七十八体のサポートコンシェル達が眠っている。

 これで……いいんだよね?

 これからも、宜しく。

 多分応えてはくれないのだろうけど、睦月はそう心の中で、静かに力の源達に感謝した。

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