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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-30.Control/越境者の条件
228/526

30-(1) 故の暴力(ちから)

「畜生ッ!!」

 廃工場のアジトに帰って来るや否や、人間態に戻ったバイオは手近な機材を殴りつける。

加減も何もなかったらしく、機材は配線で繋がっていた回りの壁を巻き込んで引き千切り、

激しくへしゃげて物言わなくなった。

 戻って来たと思いきや、不機嫌マックスのリーダーに怯えている部下達。

 その一方で、同じく戻って来た彼の側近──人間態のトーテムとヘッジホックは落ち着い

たものだ。片ややれやれとため息をつき、片やゆっくりと近寄り、この難物なリーダーを何

とか宥めようと試みる。

「止めぬか。皆を怯えさせてどうする? ……まだ良かったのではないか? もしあのまま

守護騎士ヴァンガードを倒した所で“蝕卓ファミリー”は我々を認めてはくれなかっただろうよ」

「……」

 老紳士──トーテムの言葉に、バイオは小さく舌打ちをしながらも反論することはできな

かった。事実だったからだ。もしこちらの推測通りだったとすれば、あのまま戦っていても

元々の目的は果たせなかった筈だ。

 何のトラブルがあったかは知らない。だが守護騎士ヴァンガードは、どうやら現在変身できない状態に

あるらしい。つまり全力を出すことができず、満足に戦うこともできないということ。

 こちらとしては、その彼を叩き潰すことで蝕卓ファミリーを認めさせようとしていたのに、それでは

証明にならない。加えて例の黒騎士──エンヴィーまでが割って入って邪魔をしてきた。あ

の場はトーテムの機転で何とか離脱することができたが、結局こちらは思惑が外れるわ手負

いになるわで骨折れ損である。

 何より……バイオが内心苛ついてならなかったのは、エンヴィーこと勇であった。

 確か龍咆騎士ヴァハムートといったか。所詮人間と高を括っていた、油断があったと言ってしまえばそ

れまでかもしれない。だがそんな彼に圧倒されたのは事実。そしてそんな事実が、バイオの

自尊心──自身の強さへの絶対的な自信に傷をつけていたのだった。

「やっぱ、無茶だったんだって」

「そうだな……。蝕卓ファミリーを敵に回してしまっては元も子もないぞ?」

 ドラム缶の上にひょいっと座り、灰色フードの青年──ヘッジホックが言う。トーテムも

控え目ながら、その場で腕を組んで帽子の下で思案顔をし、そうやんわりと諌めてくる。

 バイオは相変わらず不機嫌だった。先ほどのように物に当り散らすということはしなくな

ったが、こういう時の彼にはあまり関わりたくない……。部下達の内心は、総じてそんな所

であるのだろうと思われた。

「じゃあお前らは、このままでいいと思ってんのか? 蝕卓ファミリーに、人間のガキにいいように使

われて、それで構わないっていうのかよ?」

「それは……」

「まあ、何でっていう気持ちはありますけど……」

「このままじゃあ、なし崩しだぞ? これ以上機会を逃したら後がねえんだ。多少無茶をし

てでもひっくり返さなきゃ、幹部の席には座れねえ」

「……。ねぇバイオ、何でそんなに幹部に拘るのさ?」

「あ?」

「そうだのう。確かにお主は、前々から大口を叩く男じゃったが……」

 だからヘッジホックが、トーテムが改めて訊ねた時、バイオは一瞬押し黙った。部下達も

少なからず興味があるといった様子でこちらを見てくる。ぽりぽりとモヒカン頭を掻いて、

彼は何処かばつが悪そうな表情をみせる。

「……だってそうだろうが。俺達はシンに作られた“駒”だ。理由は知らねえ。だが俺達は

生まれた時から繰り手ハンドラーを見つけて、進化することばかり考えてきた。実際ここにいる面子は

そうやって実体を手に入れて、気ままに暮らしてる。……だがよ。どれだけ俺達が必死こい

て進化を果たしても“自由”はねぇんだ。蝕卓ファミリーに……何だっけ? ああ、生殺与奪を握られ

てる。そんなの“駒”と一緒だろ。モルモットと同じじゃねえか。だから……手に入れたい

んだよ。強くなれば、連中の幹部の席に座れるだろ? そうすりゃあ少なくとも今よりは安

全を得られる筈なんだ。……あわよくば、シンの首だって狙える。お前達を、モルモットか

ら解放できるかもしれねえ」

『──』

 ヘッジホック達は、言葉を失っていた。目を真ん丸に見開き、信じられないといった様子

で。いつも大雑把で無鉄砲な彼が、そんなことを考えていたなんて……。腕っ節の強さと何

だかんだと仲間思いな所からリーダーになっていた彼だったが、一同は改めて彼の“器”と

いうものを思い知る。

 動機はとことん突っ走りだ。

 だがその先に見ていたのは、自分だけに留まらぬ皆の“自由”だった。自身が頂点に君臨

すれば、そんな良い影響を皆にも及ぼせるかもしれないと。

「バイオ……」

「意外だのう。そんな事まで考えておったとは」

「り、リーダー……」

「うおおおおおーッ! リーダー! 俺達、一生あんたに付いていきますッ!」

「尤も、やり方は乱暴だがの」

「うるせえな。他に、思いつかなかったんだよ」

 にわかにハイテンションに、情が移ってやいのやいのと歓声を上げる部下達。

 ぽつりと締めのように皮肉を言ったトーテムに、バイオはむすっとした表情かおで流し目を遣

った。それでもまだ、普段表にしない思いだったのか、当人はこっ恥ずかしさを隠せない様

子だったが。

「……理由は解った。でも、だからってどうする? これで蝕卓ファミリーの禁止令は今までよりも強

くなる筈だよ?」

「ああ、そうだな。だがやる事は変わんねえよ」

 深い嘆息。それは「やれやれ」とでもいうかのような穏やかな吐息だった。ヘッジホック

が皆を横目にしながら、バイオに向き直って言う。作戦会議だ。一度自分達は失敗してしま

ったのだから、今度はもっと考えなければいけない。

「少し待つ。ただちょっと、標的しゅだんを変えるだけだ」

 バシン。

 片方の掌にもう片方の拳を叩き付け、バイオは言った。

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