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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-29.Control/睦月、最大の危機
222/526

29-(2) 掻き乱す者

 それは、飛鳥崎某所でのこと。

 とうに人の手が入らなくなって久しい廃工場に、とある集団が居を構えていた。一見して

統一性のない人間──荒くれ者達の集団だったが、彼らの正体が怪物アウターだということは、その

存在を知る者でなければ分からないだろう。

「……気に入らねぇな」

 そんな彼らを率いるのは、三人のアウターだ。

 一同を見下ろすように、一段高い機材の上に座っている中央の一人目は、モヒカン頭の如

何にも粗暴そうな男。その左右に控えている残り二人は、灰色のフードを被ったパーカー姿

の青年と、この集団にあっては珍しい礼服姿の老紳士だ。

『……』

 静かに怒気を、苛々を放っているモヒカン男。

 部下達はそんな彼の不機嫌におずおずと震えていた。宥めるべく何か声を掛けようにも、

自ら率先してその役を買って出るほどの勇気はない。

「それって、さっきの“蝕卓ファミリー”の?」

「ああ」

 先刻、彼らの下にはある報せが届いていた。自分達アウターを統括する役目を担っている

蝕卓ファミリー”の幹部七人の席、その最後の一つが埋まったというのだ。

「確かエンヴィーといったな。話を聞く限り、異例づくめのようだが」

「異例も異例だろ。何で人間如きがあそこに座れる? あそこは俺達の、全ての存在の頂点

に立つ場所なんだぞ!?」

 ガンッと近くの配管を叩き、その形を拳状に抉る。

「俺こそがあの席に相応しかったんだ! 蝕卓やつらは何を考えてる!?」

 あわあわと部下達が震えていた。だがそんな彼らとは対照的に、傍に控えるこの二人の側

近に関しては冷静そのものだ。

「かもね。何でも、プライドの肝煎りだそうだよ? 対守護騎士ヴァンガード専門になるんだってさ」

「……だからなのだろうな。奴に対し、他の者は手を出すなという触れは。突然過ぎはする

がのう。今までの犠牲は何だったのか……」

 灰色フードの青年はそう肩を竦め、老紳士はそっと眉を顰めながら呟いていた。

 これまでに斃されてきた同胞達の事もある。モヒカン男ほどではないが、彼もまた今回の

通達に思う所があるのだろう。

守護騎士ヴァンガードか……」

 しかし、当のモヒカン男は、この時既に別のことを考え始めていた。一段高い機材の上で

どっかりと胡坐をかき、スッと細めた眼差しで何やら企みを練っている。

「なあ。もし俺が、そいつよりも先に守護騎士やつを倒せば、俺の方が強くて適任ってことにな

るよな?」

「うん? まあ……そうなるかのう」

「バイオ。まさか……?」

 嫌な予感がした。そうとでも言わんばかりに老紳士と灰色フードの青年がめいめいに渋い

表情かおをしていた。

 付き合いが長いから分かる。こういう時の彼は、無駄に行動力を発揮するのだ。

 部下達が「えっ?」と目を丸くしている。二人はそんな彼らを次の瞬間一瞥し、詫びるよ

うに苦笑わらいながらもこれを止めようとした。

 しかし……その時はもう遅かったのだ。思い立ったら即行動。モヒカン男は「よしっ!」

と小さく叫ぶと機材の上から立ち上がり、皆の前を大きく跳躍して着地。そのままこの廃工

場──アジトの外へと駆け出し始める。

「ヘッジ、トーテム、行くぞ! 守護騎士ヴァンガードをぶっ倒す!」

「だああ! まるで話を聞いてないーッ!?」

「やれやれ……仕方ないのう。儂らで連れて帰って来るゆえ、すまんが留守を頼む」

 は、はあ。急に始まった勢いに、部下達は呑まれてついて行けなかった。一人先に出て行

ってしまったこのモヒカン男リーダーを追うべく、灰色フードの青年が頭を抱えて絶叫しながら続い

て駆け出してゆく。更にその後を老紳士が、この部下達にフォローと留守を言い残してから、

ゆったりと追って出掛けて行く。

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