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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-28.Bahamut/黒き竜と少女の想い
212/526

28-(1) 宿敵現る

「くっ……!」

 まるで獣になってしまったかのように咆哮を放った後、勇は地面を蹴ってこちらに襲い掛

かってきた。守護騎士ヴァンガードのパワードスーツに身を包んだ睦月は、その面の下で強く奥歯を噛み

締め、何とかこの現実と向き合おうとする。

 ワンノック、ツーノック。

 駆けて腕を振りかぶってくる寸前、勇は黒いリアナイザの銃床を二度叩いていた。この部

分にはどうやら専用のボタンパーツが付いており、ノックする度に鈍い反応音を立てながら

自動で元の位置に戻る。

『DUSTER MODE』

 握り締め、拳のように振り抜かれるそれ。

 睦月はその銃口下部に、三基の鋭い突起──金属の棘が迫り出すの見た。即ちそれが近接

格闘用のモードだと理解した瞬間、咄嗟に全身を捻ってこれをかわす。夜闇の空気をガスッ

と鈍い衝撃が抉るのを感じた。それでも勇は、こちらから視線を逸らさず、すかさず第二撃

三撃と軸足を変えながら迫って来る。

「睦月!」

「下がって! 今までの相手とは訳が違う!」

 最初数発は何とかかわしたが、直後連続でその殴打を受けてしまう。

 装甲に激しく火花が散った。生身にも少なからず衝撃が伝わる。睦月は慌てて加勢しよう

とする仁達を、咄嗟に遠ざけていた。瀬古勇だから──だけではない。今目の前にいるのは

刺客だ。明らかに、この自分を倒す為だけの。

「ナックル!」

『WEAPON CHANGE』

 相手の攻撃のリズムに合わせて一拍身を引き、こちらも武装を展開する。

 EXリアナイザを中心にエネルギー球が発生した。相手が拳なら、こちらも拳。三度振る

われる勇のそれに、睦月は正面から反撃を試みる。

「ッ……!?」

「っ、らぁッ!」

 だが、弾かれた。拮抗したの一瞬で、睦月は明らかに押し返されていた。ぐらりと身体が

よろめく。パンドラが、司令室コンソールの皆人達が大きく目を見開く。

『押し負けた!?』

『嘘だろ? 基本武装で一番パワーのある攻撃だぞ……?』

 次いで振り下ろされた攻撃を、睦月は半分転がりながら避ける。勇の放った一撃は地面を

抉っていた。パワーでは向こうに分がある。だったら……。

「シュート!」

『WEAPON CHANGE』

 今度は射撃モードに切り替えて、距離を取り直しながらの連射攻勢。

 だが勇は両腕でしっかりとガードしながら、大きなダメージを受けなかった。右に左に揺

さ振りを加えながら後退し、今度は銃床のボタンをワンノック。

『BUSTER MODE』

 睦月に応じて、彼もまた基本武装を射撃に切り替えた。濃く暗い紫色のエネルギー弾が睦

月のそれと相殺を始める。

「くっ……!」

 確かに、連射速度ではこちらが勝っていた。

 だがやはり一撃のパワーはあちらが上だ。こちらが三発・四発と撃つ所を、相手は一発で

消し飛ばす。堪らず睦月は後退した。大きく跳んで相手の弾丸をかわし、周囲の木を盾にし

て巻き込みながら、ホログラム画面を呼び出して武装を選択する。

『ARMS』

『PURGE THE GOLD』

 装備したのは、金色の盾。それを前面に掲げ、睦月は勇からの銃撃を凌ぎ始めた。

 一見すれば防戦一方。しかし──。

「ッ!?」

 相手の銃弾、エネルギーを受け止める度にこの盾は輝きを増していたのだ。そしてある程

度それが繰り返された所で、この武装は相手に向けてその蓄えた力を放出パージする。

 勇は、これをすんでの所で察知し、地面を転がりながら避けた。強い光を纏いながら飛ん

でゆく真ん丸な光弾にビリビリと頬先をあぶられながら、やはり一筋縄ではいかないこの戦

いにのめり込む。

『ELEMENT』

『DIFFUSE THE BLOSSOM』

 その隙を狙っていた。睦月はこれと同時に再びホログラム画面を操作し、その銃撃を散弾

式に強化していた。緑と桃色の交じった光球が銃口に膨らみ、破裂する。爆ぜた光は、無数

のエネルギー弾となり、弧を描きながら勇目掛けて一斉に襲い掛かった。

『BURST MODE』

 だがその勇は、更に手札を惜しまなかった。

 銃床のノック。今度は素早く三回。するとどうだろう、彼はそのパワードスーツ全身から

放電と放熱を纏い、目にも留まらぬスピードで加速したではないか。

 襲い掛かる渾身の散弾の隙間を、縫うように駆け抜けてかわす。

 なっ……!? 睦月が驚いたのさえ遅かった。勇は次の瞬間にはもう彼の懐に入り、同じ

く霞むような殴打の連撃を容赦なく叩き込んで吹き飛ばす。

 遠く背後の木を巻き込んで粉砕し、睦月が転がった。仁達も司令室コンソールの皆人達も先程からの

目まぐるしい戦いについてゆけない。「……ふう」漆黒のパワードスーツはおよそ三十秒ほ

どで加速を停止。大量の蒸気を上げて赤くなりがら冷却期間に入る。

『ENHANCE TYRANNO』

 そしてゆっくりと、そんな睦月の方へと近付いていきながら、勇は黒いリアナイザの数字

キーを押す。『5647』諳んじるように入力されたコードが重低の電子音を鳴らし、サッ

と差し出した彼の左腕に巨大なパーツ群を召喚する。

 巨大な鋏型のアームだった。赤褐色のそれは、肉食竜の強靭な顎を思わせる。

 よろよろと起き上がった睦月を、勇はこの巨大な武装でめった打ちにした。激しくパワー

ドスーツに火花が散り、くぐもった悲鳴と共に睦月が再び吹き飛ばされる。それを追って、

彼は更に雑木林の中へと足を踏み入れる。

『GIRAFFE』『DEER』『GOAT』

『SHEEP』『RABBIT』『MOUSE』『SQUIRREL』

『ACTIVATED』

「……っ!」

『ZEBRA』

 だが、対する睦月も一方的なままではいられない。

 片膝をつきながら、睦月は必死の思いでホログラム画面を操作した。纏うはイエローカテ

ゴリ、電撃の力。エネルギー出力──パワーにおいて、他の追随を許さない強化換装──。

「……」

 しかし、素早い渾身の反撃も、勇の前では無力だった。電撃を纏ったその杖先は、次の瞬

間彼がかざした巌のような亀甲型の盾に防がれてしまったのである。

『ENHANCE ANKYLO』

 強化換装の光を見て、予めインプットしておいた情報。

 勇は再び数字キーを『1786』と入力し、右手にそんな盾型の武装を呼び出していた。

バチバチッと、ジィブラフォームの電撃が行き場を失いながら、徐々に霧散して無力化され

てゆく。があっ……!? この巌のような盾が、相手のエネルギー攻撃を散らせてしまうの

だと気付いた時には、睦月はその胴をガシリと鋏型アームで掴まれてしまっていた。

『睦月!』

『マスター!』

「……終わりだ。お前も、この力の前には無力だったようだな」

 ミシミシッ。鋏型のアームが睦月の身体を加圧する。

 苦悶して叫ぶ彼の姿を、勇は勝ち誇るように──いや、何処か虚しそうに見上げていた。

パンドラや皆人達が通信の向こうで叫んでいる。フッと、勇はパワードスーツの下で眉間の

皺を深めている。

「……こんなものか。俺を追い詰め、変えたお前の力など、こんな──」

 だが、そんな時である。もう確実に睦月を捉えたと見えた勇に向かって、更に巨大な影と

質量が迫ったのであった。

 仁である。彼の大型白馬体チャリオットモードのデュークが勇に突進し、その鋏型のアームを叩き壊したのだ。

衝撃で、勇は大きく吹き飛ぶ。

「がっ……! げほっ、げほっ!」

「おい、無事か!?」

「……な、何とか。ごめん。危ない所だった」

 気にすんなよ。両膝をつき、両手に地面をついて咽返る睦月を守りながら、仁と元電脳研

メンバーの隊士達は勇を睨んで身構えた。

 先程まで睦月を捕らえていた鋏型アームは半壊し、デジタル記号の光の粒子に還り始めて

いる。勇はゆっくりと片膝の状態から立ち上がり、仁達を見た。パワードスーツ姿で表情も

見えず、ただ錆鉄色の眼がブゥンと光っているだけだが、並々ならぬ殺気であると解るには

充分過ぎた。

「睦月君、皆!」

 更にその最中だった。雑木林の向こうから、こちらに駆けてくる一団がある。

 冴島達だ。皆人ら司令室コンソールからの連絡を受けて、葬儀会場より駆けつけてくれたのだった。

もう隠す必要もないだろう。少なくとも相手は、睦月はそうだと分かった上で仕掛けてきた。

玄武台ブタイの一件で、そもそもこちらの顔は割れている。

「ジークフリート!」

 そして冴島は自身のコンシェルを呼び出し、大量の流動する風を生み出した。それらは勇

を除いた場の面々を瞬く間に包み込み、これが霧散した次の瞬間にはその姿を完全に消し去

ってしまったのである。

「……逃げられたか」

 ちっ。小さな舌打ち。

 暫く勇はその場に立ち尽くしていたが、やがて変身を解いて黒いリアナイザをぶら下げる

と、サッと踵を返して夜闇の中へと消えてゆく。

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