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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-27.Bahamut/復讐鬼との再会
208/526

27-(4) 夜張の眼

 瀬古勇の葬儀が行われるとの発表があったのは、磯崎邸の一件から二日後の事だった。

 主に悪い意味で時の人だった少年のそれとあって、開始時刻の日没後には辛うじて呼び寄

せられた親族を始め、多くの報道陣が押し寄せる結果となった。事件以来、長らく主不在だ

った瀬古宅には、決して真っ直ぐな弔意など持ち合わせていない人間達が大挙する。

「──この度は、我が愚息が多大なご迷惑をお掛けしましたこと、深く深くお詫び申し上げ

ます。それでもせめて、今夜だけは、彼の冥福を祈っていただければこれ幸いと存じます。

僅かな時間ではありますが、我々に弔いをさせることをお許しください──」

 そして何よりも驚きだったのは、病床の妻に代わってあの父・秀司が喪主を務めていたと

いう点だ。事件以来の報道では、不祥事続きの家族に嫌気が差して家を出て行ってしまった

と言われていたが、今夜の彼はまるで別人のように粛々と務めを果たしている。

 罪人とはいえ、流石に葬式一つ出さないのは憚られたのか。

 或いは何のかんのといって、親子の情が残っていたのか。

 報道陣が忙しくなくフラッシュを焚くのをされるがままに、秀司はそう深々と頭を下げて

いた。喪服揃いの出席者達も、そんな真面目な対応をする彼に、正面から非難や罵声を浴び

せる訳にはいかず、苦虫を噛み潰したような表情をしている。

「……やっぱり妙だね」

 そんな黒い人ごみの外側に、冴島と数名の隊士達は立っていた。周りと同じく喪服に身を

包んで出席者を装い、今日この日の葬儀を偵察に来ていたのだった。

『ええ。聞いていた話とはまるで別人だ』

 インカム越しの呟きに、司令室コンソールの皆人が同意する。室内では職員達が総出で現場の様子を

モニタリングし、何か新たな情報がないかと目を光らせている。

 少なくとも、彼個人が心を入れ替えたとは思えない。この場をセッティングし、一挙手一

投足をレクチャーした者がいる筈だ。

「当局、かしら」

「おそらくは。瀬古勇の死を大々的に知らしめるという意味でも、これほど事件の幕引きに

都合のいいイベントはないですから」

 香月が、少々顰めっ面でこのディスプレイ群に映る映像を見ていた。彼女もまた、この儀

式に一種のおぞましさを感じているのだろう。皆人は振り向きもせず、テーブルの上に両肘

を立てて寄り掛かったまま、両手を口元に持ってきている。同じくじっと見つめるディスプ

レイ群には、現在進行形で進む、瀬古勇の葬儀の様子がライブされている。

「……それで睦月、大江。そっちはどうだ?」

 そして暫く映像を眺めていた皆人が、ふいっと視線を横にずらして問う。そこには別窓で

表示された、西大場の廃ビルが映っていた。日が沈んで、辺りはすっかり不気味さを増して

いる。

「駄目だな。がっちり閉鎖されちまってる」

「コンシェル達を使えば入れなくもないけど……どうする?」

『いや、そこまではしなくていい。一度戦っているんだ。これ以上警戒されては得られる情

報も得られなくなる』

 葬儀の偵察は冴島らに任せ、睦月と仁、元電脳研のメンバーな数名の隊士らは、以前サー

ヴァント達が現れた勇の隠れ家を訪れていた。犯人は現場に戻ると云うやつである。本人の

生死も、居場所も不明瞭な今、自分達が辿れるのはその足跡だけだ。

 了解。司令室コンソールの皆人からそう指示を受け、皆人と仁、隊士らは夜の廃ビルを見上げていた。

一度筧らが事件に巻き込まれたのもあってか、その入口は既に鉄条網が設置されて固めら

れてしまっている。

「ま、大体予想はついてたけどなあ」

「やっぱり警察の中に、アウターが……」

 まだ何か手掛かりが残っていいれば。そう思って足を運んだが、どうやら目ぼしい収穫は

なさそうだ。仁が肩を竦め、睦月が口元に手を当てて考え込んでいる。皆人も、その別窓の

映像をチェックしながら彼らを見、少し思案してから指示を送る。

『可能性は高いだろうな。とりあえず、ざっと周りを確認してから戻って来てくれ。冴島隊

長達とも合流して、一度情報を整理したい。既成事実化は……おそらくもう防げないしな』

 そう、だね。映像の向こうで、睦月と仁が頷いていた。隊士達を連れて、より奥の暗がり

へと進もうとする。「うん……?」だがその時、睦月が物陰に何かの姿を認めたのを、皆人

はこの時まだ気付いていなかった。もう一つ、割り振っておいた通信先を切り替える。

(……さて。もう一つの懸念の方はどうなっているか……)

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