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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-26.Friends/異形にココロは宿るか
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26-(5) 理想論

 一口にオタクと言っても、色んなタイプの奴がいる。ただでさえ拘りの強い人種なのに、

そんな一括りで皆仲良くできるだなんて見当違いもいい所だ。

 ソースは俺。まぁ要するに、今まで本当の意味で仲間と呼べる奴がいなかったんだ。まぁ

こう言っておいて、欲しがるっていうのも可笑しな話なんだけども。

「引き金をひきなさい。貴方の望み、叶えてあげる」

 でも、だから俺はあの日、差し出されたリアナイザを手に取ってしまったんだ。

 何の前触れもなく突然現れたゴスロリ服の──見た目とは裏腹にやたらダウナーで上から

目線な女の子。正直一体何が起こってるの分からなかったけど、その一言が妙に俺の胸の中

でトクンと響いたのを覚えている。言われるがままに、デバイスを入れて引き金をひいた。

『願イヲ言エ。ドンナ願イデモ叶エヨウ』

 放たれたデジタルの光の中から現れたのは、一言で表現するならバケツヘッドの怪人。

 そいつは、ゴスロリ服の彼女と同じ事を言ってきた。何でまた、こいつらは寄って集って

俺なんかに構ってくるのだろう……?

 でも実際の所、俺の願いは一つだった。トクンと胸に響いたその瞬間から、返す答えは決

まっていたんだから。

「……友達が欲しい」

 ゴスロリ服の彼女が、このバケツヘッドが、それぞれ怪訝と疑問符でもって俺を見ていた

のが分かった。何でもって言ってた癖に、拍子抜けされたという感じか。だけどもアニメみ

たいに力が欲しいとか、異世界に行きたいとか、そんな現実味のないことを言ったって何に

なるんだろう。分かち合う誰かがいなきゃ……全部虚しいだけなんだから。

『友達、トハ何ダ?』

「えっ? うーん。同じ“好き”を共有できる相手……かな?」

 バケツヘッドは言った。友達とは何かと。だから俺は答えた。それは俺自身の欲している

ものそのものでもあったと思う。

『共有……』

 するとどうだろう。彼は少し考えるようにしてから、ついっと俺の額に指先を当て、次の

瞬間俺と瓜二つの姿になったのだった。

 これが、彼が後のカガミンだ。ゴスロリ服の彼女は「契約完了」とやらを見届けて、何処

かつまならなそうにして帰っていったけど、俺にとっては幸せな時間の始まりだった。

 カガミンと一緒になって、漫画やアニメ、音楽を観たり聴いたりする。

 最初は知識も何も無いからか、ピンと来なかったカガミンだけど、段々その面白さを解っ

てくれるようになった。そして一年ほど経った頃には──俺達は無二の親友となった。

 嬉しかった。その正体も実体化しんかとやらが完了した事も、後になってから詳しく話してくれ

たけど、もうどうでもよかった。カガミンも同じだった。

 やっとできた本当の友達。同じ“好き”を共有できる相手。加えてカガミンは身体の鏡に

映したものに何でも変身できるから、色んなキャラに化けて貰ったりもした。化けて貰い、

二人してゲラゲラと笑った。

 ……でも、そんな楽しくて幸せな時間も長くは続かなかった。ある日プライドの使いと名

乗る男がやって来て、俺達に守護騎士ヴァンガードのデータを採って来いと命令してきたんだ。

 カガミンは怯えていた。最初に会った頃の、マシンみたいな冷淡さはとうに消えていた。

 彼は戦いたくないと言った。向いてないと言った。それは俺もよく知っている。カガミン

は化けることはできるけど、力まで真似できる訳じゃない。そんな能力を持っているからこ

そ、こんな命令が来たんだろうけど……。少なくとも、何か良からぬ企みに巻き込まれよう

としているらしいってことは、お互いに解っていた。

 嫌だ。でも“蝕卓ファミリー”に逆らって無事に済んだ奴はいない。だからと言って守護騎士ヴァンガードに近付

こうものなら、最悪カガミンが退治されてしまうかもしれない。俺達は悩んだ。どうにかし

て、この日常を守れないものかと。

 だから思いついたんだ。

 ならばいっそ、守護騎士ヴァンガードに事情を話して守って貰おうって。カガミンがある程度情報を持

っているから、取引にはなる筈だ。元々俺達は“蝕卓ファミリー”の手下になりたかった訳じゃない。

ただこの楽しい日々を、守りたかっただけなんだ……。


「──ごめんくださ~い」

 睦月はこの日も、二見の自宅アパートを訪れていた。言わずもがな、警護目的である。

 エレベーターを降りてから廊下を渡り、部屋のインターホンを押す。覗き穴を一瞥したの

か、少し間が空いた後、ガチャリと扉が開いて瓜二つの二人が迎えてくれた。相変わらずど

っちがどっちか分からない。一旦喋り出すと区別がつくようにはなったけれど。

「ああ、よく来たね。ちょっと待っててくれ。お茶淹れるから」

「あ、いえ。お構いなく……」

 二見とミラージュは、まさか守護騎士ヴァンガードの正体が同年代の少年だとは思ってもいなかったら

しい。それでも奇妙なエンカウントから数日が経ち、三人はすっかり仲良しになっていた。

ゆうじんが同じサブカル好きという事もあって、思いの外話が弾んだのも大きい。

 言って、流しの方へ歩いてゆく二見。私服姿の睦月は苦笑いして遠慮しつつも、ぐるっと

部屋の中を見遣っていた。

 典型的なオタクの部屋である。室内にはあちこちにアニメグッズ、フィギュアなどが飾ら

れており、二見と瓜二つな人間態のミラージュが今日もそれらを愛でている。睦月自身、そ

れまで料理以外これといって趣味らしい趣味はなかったが、仁達との一件もあって何か戦い

以外に打ち込めるものがある人間というのを内心羨ましくさえ思っていた。

「はい、どうぞ。茶請けは適当に開けてあるのでいいか?」

「ええ。ありがとうございます」

 ここ数日ですっかり勝手知りたる何とやらになり、リビングに腰を下ろして暫しのティー

タイムとしゃれ込む睦月と二見、ミラージュ達。

 だがこの日、二見の様子が少し違っていた。寛ぐ睦月をじっと見、何か言いたそうで言い

出し難いといった感じで口元をもごもごさせている。

「……あのさ」

「? はい」

「何で君は、俺達を守ってくれるんだい? 最初、インカムの向こうのあんちゃんは反対して

ただろう?」

「ああ……その事ですか。前にもちらっと話したと思いますけど、友達にこの手のものやら

ゲームが好きな子が何人かいて、親近感がありまして。それに助けてくれって言ってきたの

は二見さん達じゃないですか」

 フッと睦月は微笑わらう。ま、まあ、そうなんだけど……。二見やミラージュも照れ臭そうに

頬や髪を掻いている。

 それにね……。睦月は話し始めた。湯飲みの中の茶葉がゆらゆらと揺れている。

「あまり詳しくは話せないんですけど、僕らは人と共存しているアウターを知っています。

だから他人に危害を加えない・加える意思のないアウターとは、なるべく戦いたくないなあ

って思うんですよ。それに」

「それに?」

「戦いなんてのは、どうしたって虚しいから」

 微笑のままだった。だがそう一言付け加えた睦月の横顔は、ゾクッとするほど実感の籠も

った哀しさを含んでいる。

 二見が、ミラージュが、思わず言葉を失っていた。暫く場に沈黙が横たわった。

 睦月自身、自分の目的の為に戦っている。自分の存在理由を証明したくて、現状自分にし

かできない事をやっている。でもそれは……多くの他者アウターを犠牲にしながら行われるものだった。

「自分を認めてくれる誰かがいるって、凄く幸せだと思うんです。それがたとえ人間でなく

てもいい。それで救われる思いがあるなら、それに越した事はないんですから」

「佐原……」

 紡ぐ。それはきっと、海沙や宙を念頭に置いたものだ。

 司令室コンソールでこの一部始終を聞いている皆人が、椅子に深く腰掛けたままじっと黙っている。

香月や國子、他の職員達も複雑な表情で動くに動けない。

「確かに、ずっとこのままじゃいられないのかもしれないけど、アウターだからイコール殺

していいなんてのは、違うと思うんです」

 それは一連の戦いの中で、初めて睦月が直接口にした意見だった。当の二見やミラージュ

も心なしか唇を結んで押し黙っている。或いは守護騎士ヴァンガードイコールアウターを倒す者という認

識が揺らいでいるのかもしれない。

(……気持ちは分からんでもないさ。だがな、睦月。それは甘さだよ……)

 そして司令室コンソール、通信の向こうに座る皆人も内心で呟く。かねてから彼の苦悩を知ってはい

たが、それでも対策チームの司令官として、そこを譲る訳にはいかない。

「──?」

 ちょうど、そんな時だった。ふと再び部屋のチャイムが鳴った。

 誰だろう? 睦月がハッと我に返って立ち上がろうとする。「ああ、俺が出るよ」二見が

それを制して、一旦覗き穴で確認してからチェーンを外してドアを開ける。

「こんにちは。お届け物です」

「あ、はい。どうも」

 どうやら宅配だったようだ。制服と帽子を着た男性が一人、小包を持って来ている。

 二見は差し出されたサインペンでさっと自署し、荷物を受け取った。軽く帽子を持ち上げ

てこの配達員が立ち去ろうとする。

「……ッ!?」

 しかし様子がおかしい。その場で小包を開け始めた二見が、目を見開いて固まっている。

 どうしたんだ? 睦月とミラージュが異変に気付いて立ち上がる。そおっと振り返って、

二見が顔を引き攣らせて開封したそれを見せてくる。


『裏切り者は許さない』


 菓子箱に貼り付けられていたのは、そんな太く淡々と綴られた一文だった。睦月達や通信

越しの皆人らが目を見開く。

「がっ──!?」

 更に、次の瞬間だった。突然殺気を感じて前に向き直った二見の首を、先程の配達員が絞

めてきたのだ。見ればいつの間にか目が赤く、常軌を逸している。ギチギチと、尋常ではな

い力で絞め殺しに掛かっている。

「二見さん!」「フタミン!」

 インカム越しの指示を待つでもなく、二人は叫び、走り出す。

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