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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-26.Friends/異形にココロは宿るか
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26-(2) 咎めのち

 守護騎士ヴァンガードと思しきパワードスーツの人物は、結局その後こちらに戻って来るでもなく何処

かへと飛び去ってしまった。

 筧ら廃ビルに突入を試みた刑事達は暫くその場に立ち尽くしていた。ゆっくりとお互いに

顔を見合わせ、且つその見開いて驚愕のままの相手の表情かおが、今し方あった出来事をただの

幻ではないと証明している。

「一体、何だったんでしょうね……」

「俺に訊くな。俺だって絶賛混乱中だよ」

「話には聞いてたが、本当にいたんだな……。一体、どういうカラクリだ?」

「そもそも、何で俺達がここにいるってことが分かったんだ……?」

『……』

 ノンキャリ仲間の刑事達は一様に混乱していた。異形の怪人達に襲われた事実と、そこか

ら助け出されたという事実。常識あたまが状況に追いついていない。幸い全員が軽傷程度で事なき

を得たが、少なくともあのままビル内に居れば、自分達は殺されていただろう。

 あの怪物達は、間違いなく自分達を始末する気だった。

 何か見られて知られて都合の悪いものを、自分達から隠蔽する為に。

(こいつは、本格的にきな臭くなってきやがった)

(……分からない。守護騎士あいつは、本当に俺達の味方なのか……?)

 じっと眉間に皺を寄せながらも、筧は内心ある種の確信を得ていた。巷説を丸々信じるな

ど当局の人間としてはあるまじき態度なのかもしれないが、これまでの一連の不可解事件と

今回のガサは間違いなく繋がっている。瀬古勇は──生きている。

 同じく由良も、じっと考え込んでいた。いや、厳密に言えば迷っていた。

 筧とは違い、こちらは確信とは逆に判断がつかずに困っている。脳裏に焼きついたあの日

のメディカルセンターでの目撃ひとこまと、先刻自分達を助けた彼の行動がどうにも上手く一致しな

い。あれと今回は、別物なのか? 同じ化け物の力を使っていても、互いに立場が異なって

いるというのか?

『──』

 ちょうど、そんな時である。困惑して場を動けない筧らの下へ、ザリザリッと無遠慮に近

付いて来る足音があった。白鳥である。普段以上に生真面目で、高圧的な視線も然る事なが

ら、加えて今日は彫りの深い長身の刑事と筋肉質なガタいの良い刑事──側近の角野と円谷

まで伴っている。

「……揃いも揃って規律違反か」

 心なしか身構える筧らノンキャリ組の面々。そんな様子をまるで歯牙にも掛けず、白鳥は

一旦ぐるりと一同を見渡すと、開口一番そう静かに詰るように言った。寂れて置き去りにさ

れた街の風景と隔絶するように、高級なスーツ姿が違和感を醸し出している。

「白鳥。お前──」

「勝手にヤマを追っていたのは謝る。だがな、俺達は見つけたんだよ。瀬古勇の隠れ家があ

ったんだ。あのビルだ。何日も前から最近まで、飲み食いした跡もある」

「ほう? だがそれが瀬古勇のものだと証明できるのか? 第一、当の本人は何処にいる?

捕まえられたのか? お前達が勝手に嗅ぎ回っては、気取って更に逃げてしまうとは考えな

かったのか?」

 うっ……。弁明しようとした仲間の刑事達が、顔を顰めて言葉を詰まらせる。その横で筧

は、遮られた自身の言葉を口の中で持て余していた。

 白鳥。お前何でここに……?

 見張られていたのか? だったら誰かが気付いているだろう。なら、奴らは奴らで、既に

ここを突き止めていたのか? だったら何故自分達に、組織内で共有しない? あれほどの

事件を起こした犯人を、この男が許すとは思えないのだが……。

「だ、だがな。見たんだよ! 化け物達だ。うようよいて、俺達を襲ってきた。ブダイの時

と一緒だ。何とか俺達は逃げ出せたが……」

 思案する筧。唇を結んでいる由良。

 その一方で、ノンキャリ仲間の刑事達は何とか弁明しようと必死だった。或いはあの現場

で見た出来事を、早く真相解明に繋げなければという使命感がそうさせたのか。

「……まだそんな与太話を信じているのか。馬鹿馬鹿しい。仮にも、お前達も刑事だろう?

言い訳なら、もっとまともな台本を考えるんだな」

「違っ……! 本当に出たんだよ、見たんだよ! あんたは普段中々現場に出ないから知ら

んだろうが、実際俺達は何度も助けられてるんだ! ここん所の異常な事件も全部──!」

「いい加減にしろ。怪物? そんなもの、今日の科学技術があればいくらでも見せかける事

ぐらいできるだろう。そんな子供騙しを間に受けて、恥ずかしくないのか」

 しかし白鳥は、頑としてこちらの主張を聞き入れなかった。

 尤も無理はないのかもしれない。警察組織の幹部として、街で起こった凶悪犯の正体を都

市伝説でしたなどと結論・公表する訳にはいかないのだ。彼らの仕事はあくまで“犯人”を

捜査・逮捕し、検察へと送ることなのだから。

 それでも、筧達には不服に変わりはなかった。少なくとも現場の自分達の、文字通り命を

かけた努力を、馬鹿馬鹿しいの一言で信じようともしない。険しい表情で、ノンキャリ組の

刑事達が白鳥を睨んでいた。そんな敵意に反応し、角野と円谷が一歩前に出ようとしたが、

それを止めたのは他ならぬ白鳥本人である。

「とにかく一旦、署に戻れ。処分はその後で検討する。ここでは何もなかった。いいな?」

 有無を言わせず、そう白鳥は一同に言い残して踵を返した。角野と円谷も一度こちらを睨

みつけたが、すぐに彼の後を追って歩き出す。

『……』

 筧らノンキャリ組は、またしてもその場に取り残された。しかし組織幹部たる白鳥の命令

は一同を場から引き摺り出さんとする吸引力があり、やがて一人また一人と不承不承に歩き

始めてゆく。

「あの野郎……」

 そんな彼らの背中を見つめて、筧は密かにごちていた。やはり不審だった。何故奴らは自

分達の居場所が分かったのか。

(……どうして、そこまで隠そうとする?)

 眉間にじっと皺を寄せ、ハッと由良が顔を上げる。互いに顔を見合わせることこそしなか

ったが、ふと脳裏に過ぎったものは同じだった。

 まさか。内通者とは。

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