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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-25.Friends/弱過ぎた密命者
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25-(6) 鏡のアウター

「これは……どういう事だ?」

 睦月達の前には、全く同じ姿形をした少年が二人いる。

 どうやら抵抗の意思はないらしい。彼らは共に、その場に正座をしてしゅんと項垂れてし

まっている。

『うーんとですね……。向かって左が人間態のアウター、右が本物の人間さんです』

「ややこしいな」

 人間社会に溶け込む為、アウターが召喚主などの姿をコピーすることはある。

 だが二人は、あまりにも似ていた。それこそ姿形から細かなあらゆる挙動まで。もしパン

ドラがいなければ、二人の区別はつかなかっただろう。

 因みに、囮の役割は済んだのでダイヤ・コンシェルにはデバイスに戻って貰った。

『さて……。詳しい話を聞かせて貰おうか。お前達は一体何者だ? 何が目的だ?』

 変身したままの睦月に冴島、隊士らのコンシェル達にずらりと取り囲まれた格好で、そう

通信越しに皆人がドスを利かせた声で言った。

 ひぃっ!? 面白いくらい滅茶苦茶にびびっている。

 全く同じ姿の少年二人は、全く同じ動作で竦み上がり、お互いに思わず涙目になって抱き

合っていた。どうも調子が狂う。少なくとも片方はアウターなのだから、もっとこう敵とし

ての威厳を出して貰わないとまるで一方的な恐喝だ。右側の少年──おそらくはコピー元の

人間はややあって、おずっと一度息を呑んでから答える。

「……額賀二見、十七歳。飛鳥崎西高校二年。こいつの、カガミンの相棒だ。あ、カガミン

っていうのはニックネームで──」

『そんな事までは訊いていない。目的は何だ? 彼の、俺達の正体を探る為か?』

「ち、違うよお! お、おいら達はただ、守護騎士ヴァンガードのデータを採って来いって言われて……」

 話が脱線しそうだったので、ぴしゃりと皆人が問い直した。

 ひいっ!? と怯えた右側の少年──二見に代わって今度は左側の少年、カガミンと呼ば

れたアウターが答えた。声に出してようやく両者の違いが分かる。それでも目だけに頼って

いては相変わらずどちらがどちらか混同してしまいそうだ。

「データ?」

「あ、ああ。でもさ、おいらははっきり言って戦いは苦手だし、できる事ならしたくもない

んだよ。だけど蝕卓ファミリーからの命令は絶対だし、このままじゃ始末されるのを待つだけで……」

「だ、だからさ。頼むよ。俺達を守ってくれないか? カガミンも俺も、そんな厄介事なん

て御免なんだよお。ただ二人でのんびり楽しく暮らしたいだけなんだよお……」

 あぐあぐ。この二人、二見とカガミンはそう何を思ったか次の瞬間懇願してくると、ずる

ずると二人して守護騎士ヴァンガード姿の睦月に縋りついてきたのだった。思わぬ相手からのSOSに、

当の睦月は勿論、冴島や皆人らも困惑する。

「……それはつまり、自由が欲しいってことだね? その“ファミリー”とかいう組織を裏

切る形になっても」

「うーん。参ったなあ」

「ああ。何だか調子が狂いっ放しだよ……」

「どうする? 皆人」

『……信用できないな。演技の可能性もある。今ここで戦う意思を見せなくとも、もし奴ら

のスパイだったらどうするんだ?』

 そんなあ! 二見とカガミン、そっくり同じ顔の二人が今度はEXリアナイザの通信越し

から聞こえる皆人に泣きついた。……正直言って鬱陶しい。捕らえるのが当初の目的ではあ

ったにせよ、こうも無抵抗の相手を始末しようとなると如何せん後味が悪い。

『少なくとも、今周りに仲間らしきアウターの反応はありません。生体反応は幾つか確認で

きますが、どれもこちらを知覚できるほどの圏内ではないです』

『うーむ……』

「ねえ。そういえばさっきデータを採るって言ってたけど、どうやって?」

「えっ? ああ」

「それはですね。おいらの能力にこんなのがありまして……」

 それでも最終的な判断・責任を持つのは司令たる皆人だ。現場で泣きつかれている睦月達

の心情とは裏腹に、彼はあくまで慎重姿勢を崩さなかった。

 なので、睦月は少し話題を変えてみることにした。もっと突っ込んだ情報集も兼ねて、先

程彼らが話していた目的について訊いてみる。

 左側の少年──カガミンがおもむろに立ち上がった。冴島らは一瞬身構えたが、相手に害

意は感じない。デジタル記号の光に包まれ、カガミンは本来の姿、怪人態に戻る。ひょろ長

いアンティークな木箱に顔と手足の付いたフォルムだった。本人の口調も合わさって何だか

ひょうきんに見える。

「実はこの身体、蓋になってまして、ここを開けると鏡になってるんです」

 ぱかり。そして彼は言うと自分の身体を横開きにしてみせた。確かに長箱型の胴に収まっ

ていたのは、姿見サイズはあろうかという大きな鏡。その正面には冴島の姿が映っていた。

睦月達がじーっとこれを見ていると、ふとカガミンはニヤリと笑う。

 するとどうだろう。冴島からおぼろげな像が彼の方へとスライドしていったかと思うと、

次の瞬間、その姿が冴島と瓜二つに変わったではないか。思わず睦月達は──通信越しの皆

人らも驚いた。身構え、今にも攻撃を繰り出そうとする。

「ちょちょ、タンマタンマ! ただ披露しただけだって! それに、姿形はコピーできても

元の相手が身につけてる能力とかまでは一緒にコピーはできないんだよお! 見掛け倒しな

んだよお! 自分で覚え直すしかないのー!」

 なのでわたわた、カガミンは慌てて両手を睦月達に向かってバタつかせていた。隣の二見

もコクコクと猛スピードで頷いてこれを止めようとしている。

『……なるほど。鏡面ミラージュのアウターか』

「あー。だからカガミン……」

 互いに身構えと慌てを解き、その場に立ち直す。よほど怖かったのか、怪人態になったま

まのカガミンことミラージュ・アウターの目に涙マークが付いていた気がした。彼の能力を

実際に見て司令室コンソールの皆人達が納得し、睦月も苦笑いを隠せない。

「しかし何故、彼のデータを採れなどと?」

「分からねえ。ただ少し前に、プライドの使いが来てそう伝えてきたんだ。多分自分達にと

って厄介な敵のあんた達のことを細かく調べたかったんだと思うんだけど……」

『プライド? それはもしかして、上級アウターの一人か?』

「ああ。ラース、プライド、スロース、グリード、グラトニー、ラスト。そんでもって奴ら

の上に立つ、おいら達を作ったシンって人間を一纏めにして“蝕卓ファミリー”と呼ばれてる。元々は

七人分の席があるらしいんだけどな。でも今は一人空いてて、中にはそこに収まろうと企ん

でる奴らもいるんだと」

 おいら達には縁のない話だけどなあ。皆人からの問いに、ミラージュはぎこちない苦笑い

をしながら答えていた。敵に情報を売っている自覚はあるのだろう。組織に言いなりになり

たくないという意思はあっても、彼らに対する恐怖までは克服できていない。

『なるほど……向こうの組織図が何となく判ってきたな。一応、交渉の前提条件として受け

取らせてもらう』

 とはいえ、皆人はまだ完全に信用している様子ではなかった。立場上、信用し切ってしま

うことはできないというのも大きいのだろう。少なくとも、彼らへの背信を証明する行為で

はあるのだが。

「どうするんだい? 司令」

「あんまり気は進まないけど、皆人が駄目っていうなら、まだここで──」

 ちょうど、そんな時だったのである。

 通信越しに大きな警告音が響き渡った。どうやら司令室コンソール側で何かしらの緊急事態をキャッチ

したらしい。回線に割り込み、職員の一人がこちらにも慌てた声色で報せてくる。

『アウターの反応を多数確認! そちらから北北西に約十二キロ──西大場方面です!』

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