25-(4) 誘引作戦
『準備はいいか?』
それはその日の放課後のこと。一旦司令室で持ち込みの私服に着替えて、睦月は街のとある
路地裏までやって来ていた。先日モス・アウターと交戦したエリアの付近である。日も暮れ
始め、人気のないそこで睦月は一人立っている。
インカム越しに司令室の皆人の声が聞こえた。同じく周囲の物陰には、冴島以下リアナイザ
隊の面々が息を殺して控えている。
「うん。僕はいつでもオッケーだけど……陰山さんと大江君は?」
『色々あって今回は席を外して貰っている。緊急の出動ではないからな』
仲間達のスタンバイを確認しつつ、軽くインカムに指を当てて訊いてみる。
そっか。親友からの答えに睦月は特に疑うことをしなかった。皆人がそう判断したのなら
それが合理的な判断なのだろう。何分、自分は情に流されやすいと自覚しているから……。
『では始めよう』
「うん。パンドラ。一応確認しておくけど、近くに他人は?」
『大丈夫です。こちらを知覚できる範囲に部外者の反応はありません』
インカム越しと、デバイスの画面上から。睦月は直前パンドラに確認を取ってから、彼女
をデバイスごとEXリアナイザにセットした。浮かんだホログラム画面を操作し、正面に向
かって引き金をひく。
『SUMMON』
『HARD THE DIAMOND』
銀色の光球から現れたのは、睦月のサポートコンシェルの内の一体だった。
光沢のある、ずんぐりとした如何にも頑丈そうなボディ。両手には大きなハンマーを握っ
ている。ダイヤモンド・コンシェル──金属系シルバーカテゴリに属する一体だ。
そして待ってくれている彼と向き合って、睦月は再びEXリアナイザを操作した。それは
何時もの戦いの合図で、銃口をぐっと自らの掌に押し当てる。
『TRACE』『READY』
『OPERATE THE PANDORA』
サッと横向けに撃った光球が、ぐるんと頭上に旋回して睦月を守護騎士姿に変えた。ダイヤ
がぐっと腰を落として構え、睦月もEXリアナイザを頬元に握る。
──模擬戦。今回の作戦を一言で形容するなら、そう表現できるだろう。
皆人の思いついた策はこうだ。件の、睦月達を覗いていたというアウターを捕まえるには
先ず向こうに出て来て貰わなければならない。だがこちらは相手の正体も何も知らないし、
一度気取られて逃げられた以上、次に何処に現れるかさえ分からない。
ならば、誘き出してみようと考えた訳だ。もし向こうが睦月の正体を探る為に差し向けら
れたのだとすれば、守護騎士──同胞にして同胞ではない気配を察知している筈である。な
のでサポートコンシェルを仮想敵とし、傍目からすれば彼が同胞と戦っているように見せか
ける。問題は、向こうが既に報告に移ってしまっているかもしれないという可能性だが……。
「スラッシュ!」
『WEAPON CHANGE』
頬元で武装をコールし、睦月は自身のサポートコンシェルに斬り掛かる──ふりをする。
だがダイヤの防御は硬く、並みの攻撃ではびくともしない。バキンッと僅かな火花が散る
だけで、逆に睦月の方が押し返されてしまうほどだ。
あくまで演技という事で、加減をしているというのもある。
だがこのダイヤモンド・コンシェルの特性は硬質──体表面を硬い防御膜で覆うという
もの。うっかり壊してしまわないようにという配慮からの人選だったが、これは思った以上に
難敵である。
(うーん。加減が難しいな……。でも、強い)
睦月は内心、改めてこのサポートコンシェル達の強さを痛感していた。もし何十といる彼
らが敵に回っていたらどうなっていたことか。彼らが力を貸してくれるからこそ、自分達は
アウターという敵と渡り合う事ができる。
守護騎士姿の睦月もダイヤも、パワーとスピード、互いに決め手を欠く戦いを続けていた。
じりっと、内心件のアウターが現れるのを待っていた。
『マスター、アウターの反応をキャッチしました! ちょうど後ろの物陰です!』
そんな時である。ようやく作戦は功を奏した。パンドラが探知圏内にアウターの出現を認
め、睦月に知らせてくる。パワードスーツの下で、司令室で、睦月達は眉間に皺を寄せて顔
を上げた。
「──そこだッ!」
『ARMS』
『BIND THE VINE』
そして振り返りざま、睦月はホログラム画面から新しく武装を呼び出し、パンドラが教え
てくれた方向にむかってこれを放った。
ヴァイン・コンシェル──相手を拘束する蔓を操る能力である。
ぐんと物陰へと一直線に伸びていった草の戒めは、はたしてそこに隠れていた何者かを見
事捕らえたのだった。
「ぐえっ!?」
「よし、捉えた!」
「囲め! 絶対に逃がすなよっ!」
同時に周りの物陰に潜んでいた冴島達が飛び出し、次々にコンシェル達を呼び出しながら
これに駆け寄ってゆく。
完全に包囲された形だ。パンドラの探知からアウターであることは間違いない。
じりっと、それでも警戒は怠らず。睦月達はこの二度の覗き魔の正体を暴くべく、取り囲
んだ先からゆっくりと手繰り寄せてゆく。
「痛でで……。な、何だこれ? 蔓……?」
『……』
だが、物陰から引き摺り出されたのは、一人の少年だった。
ぽてっと肥えた、いわゆるオタクっぽい少年。どうなってるんだ──? 睦月が、冴島達
がホログラム画面に出てきたパンドラに目を遣るが、コクと頷いている。アウターであるの
は間違いないと。という事は……人間態?
『こいつが犯人か』
『ええ。間違いないわ。解析した時、怪人態ではなかったから妙だとは思っていたけど』
インカム越しに皆人と、香月らの声がする。先の映像ログから照らし合わせても同一犯と
みて間違いないようだ。睦月達はまじまじとこのオタク少年の姿を借りたアウターを見る。
拍子抜けだ。何というか、もっと悪意に満ちた刺客的な者を想像していたのに……。
「ま、待ってくれ!」
そんな時である。はたと次の瞬間、このアウターがいた物陰の更に奥──表通りに繋がる
側から慌てて転がり込んでくる者があった。彼は必死になってこのアウターの前に、睦月達
の前に出て両手を広げ、これを庇おうとする。
「こ、降参だ! 俺達に戦う意思はない。か、カガミンは、悪い奴じゃないんだ……!」
故に睦月達一同は、その光景に思わず目を丸くする。
何故なら彼は、この人間態のアウターと全く瓜二つの姿をした少年だったからである。




