24-(7) 燻るままで
かくして“セイバー”こと天満洋輔の身柄は確保された。
ネット上で義賊として持て囃されていた彼だったが、その実やっていたことは連続傷害と
建造物侵入、複数件の窃盗行為である。尤も本人は既に亡き人物だ。形式上、当局は被疑者
死亡のまま書類送検という形を取らざるを得なかった。
この一件を機に、天満洋輔という男の素顔は大々的に暴かれてゆくことになる。マスコミ
だけではない。一旦こうなってしまえば、こちらが放っておいてもネット上の“有志”達が
根掘り葉掘り競うように情報をアップしてくれる。
こんな状況になったのは、他ならぬ皆人ら対策チームが手を回したからだ。メディアへの
告発と同時にリークされ、当局も動かざるを得なかったのである。
表向きには、天満の死は依頼上のトラブルとされた。
勿論そんな結論を訝しみ、或いは何者かの陰謀だと訴える一部の支持者らもいたが、真実
はもう二度と明るみになることはない。死人に口なしという奴である。歪んだ正義感に酔っ
た末の自己責任──大方の反応はそんな冷めた眼差しだった。
そして警察が前面に出てきたこの騒ぎにより、先のトレード暴走態による事件も半ば自主
規制的に沈静化してゆく。ただでさえ“セイバー”が関わっているとの情報が出回っていた
矢先、この話題に言及すれば今度は自分が疑いの眼を向けられかねない。
「──ねぇ、皆人。流石に今回はやり過ぎじゃないかなあ? 作戦だから仕方ないとは思う
けど、これじゃあ……」
「いや、これでいい。そもそもお前の為でもあるんだぞ? それに、もう二度とああいう勘
違いをした奴を出してはいけない」
事件後、束の間の暇ができた司令室。
睦月は司令官の席にどっかりを座るこの親友をちらっと見遣り、そう訊ねてみていた。相
容れぬ相手だったとはいえ、彼は自分に憧れてあんなことをやっていたのだから。
しかし対する皆人は、あくまで非情に徹するようだった。勘違い──つまりは見せしめ的
な意味合いが強いのだろう。睦月は言い返せずに口を噤んだ。元はと言えば万世通りの事件
で目立ってしまった自分達を隠す為、その人柱として目を付けられたのだから。
ちゅーちゅーと、ストローを挿した筒状の飲料を吸う。ぶらぶらと何となく手持ち無沙汰
に、座っている回転椅子を左右に揺らした。
思う。少なくとも群れで酔っている者達に正義を語る資格はあるのか? これまでの戦い
を通じて痛感している。戦いとは陰惨だ。だからこそ、自分は天満の振りかざすヒーロー像
には共感できなかった。
正義とは、一体誰が持っているのだろう?
本当に、自分達は「正しい」のだろうか……?
ネット上、ことアングラ界隈では今回の事件は少なからぬ影響があったようだ。セイバー
の死とその身が暴かれたことは、彼の“悪目立ち”と捉えられる向きが強い。
それでもその実、この飛鳥崎を覆う怪人達の噂は何一つ解決していないことも彼らは理解
していた。自分達ではどうしようもないことは解っている。それでも人々は、誰からともな
く様々な憶測と陰謀論を囁き合うことを止められない。
『……』
海沙と宙は、それぞれの自室で浮かない表情をしていた。
勉強机に座り、或いはベッドの上にうつ伏せになり、手の中に握って眺めているのは由良
が書き残してくれた連絡先だ。
もし困った事があったら電話してきてくれ。
出来る限り相談に乗るよ。
じっと見つめる。間違いなく何かが進展した筈なのに、この胸奥をざわめかせるものは一
体何なのだろう……?
対策チームのそれとは知らず、天満に関するリークで三度掻き乱される飛鳥崎当局。
上層部は、自分達をすっ飛ばして情報が行き交うことに不快感を示した。何処の誰かも分
からない情報に踊らされて、しかもその出所さえ探る事ができない。彼らの鬱憤は、即ち末
端の刑事達にまで伝播していった。綯い交ぜの苛々と疑心が、その崇高な使命感をいとも容
易く奪ってゆく。
「──」
はたして、その人物も密かに苛立っていた。
明かりの点いていない、自身に宛がわれた執務室。
彼は人知れず小さく舌打ちをし、ザッと踵を返すと、更なる暗がりの奥へと消えてゆくの
だった。
-Episode END-




