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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-24.Heroism/君がいるから憧れた
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24-(6) 麒麟換装

『結局、振り回されるんだな……』

 出現を察知して駆けつけた時には、事態は既に最悪の結末を迎えていた。

 刺し貫かれて絶命した天満と、にも拘わらず目の前に立つセイバー。

 どうやら実体化しんかを完了してしまったようだ。奴らはいつも、ヒトの願いを食い物にする。

「性懲りもなく現れたか……。まぁこちらとしては手間が省けて助かる」

 戦いの場は、事務所すぐ下のだだっ広い駐車場へと移った。すっかり夜も更けていること

もあり、辺りには人っ子一人見当たらない。

 暗がりの中、セイバーと睦月は向かい合っていた。騎士甲冑が放つ金色と遠巻きに点る外

灯だけが一同をぼうっと照らしている。ゆっくりと剣を持ち上げ、セイバーはそう口上しな

がら切っ先を向けてきた。

「生憎、私の力は最高潮に達した。あの時手も足も出なかったお前達に、勝ち目はないぞ」

『ふふん。それはどうですかねえ?』

「……睦月君、本当に大丈夫なのかい?」

「結局あれから、あいつの剣の攻略法、見つかってないじゃねえか」

「それなら大丈夫。パンドラにも計算して貰ったし、僕達の考えが正しければ……。それよ

りも下がってて。天満さんの方をお願い」

 最初、冴島ら仲間達は一対一で戦おうとする睦月を不安視した。彼のやや後ろに立ち、改

めてどんな策があるのかと問うが、睦月は背中でそう語るだけで敵から目を離さない。

 数拍逡巡して、冴島が國子に向いて頷いた。それを合図に、彼女と隊士ら数名が事務所に

残された天満の遺体を処理しに駆け出してゆく。

 どのみち加勢はできないのだ。あの吸収能力の剣がある限り、コンシェル達を召喚しても

却って彼の足を引っ張ってしまう。

「いくよ、パンドラ」

『はい。いつでも準備オッケーです』

 懐から取り出したEXリアナイザにデバイスを差し込み、操作用のホログラム画面を呼び

出す。セイバーが兜の覗き目からじっとこれを見ている。指先で次々にタップしていくのは

七体のサポートコンシェル達。

『GIRAFFE』『DEER』『GOAT』

『SHEEP』『RABBIT』『MOUSE』『SQUIRREL』

『ACTIVATED』

「……っ!」

『ZEBRA』

 掌に押し付けられた銃口と、澱みない機械音。

 ぐっと唇を噛み締めて大きく右腕を振り上げ、睦月は頭上目掛けて引き金をひいた。同時

に銃口からは大きな黄色の光球が射出される。

 セイバーと、仲間達が夜闇の中に輝くそれを見上げる。光球はそのまま一回り小さい七つ

のそれに分裂して円陣を組み、次々と睦月の身体へと降り注いだ。

「──」

 弾け跳んだ雷光。

 はたしてそこに現れたのは、新たな力を纏った睦月こと守護騎士ヴァンガードの姿だった。全身の装甲

はセイバーと似て鮮やかな黄色を基調とし、頭部には一対の巻き角、両肩の付け根にはふん

わりと柔毛が巻かれ、装甲表面には滑らかな濃黄の縞模様が至る所に描かれている。

「これが……睦月の出した答え」

「ええ。あれが第三の強化換装、ジィブラフォームよ」

 通信越しに、司令室コンソールの皆人と香月らが呟いてた。ディスプレイ群に大きくその勇姿が映っ

ている。

 目を見張る一同を前に、睦月はザッと武器を取り出した。自身のカラーリングと同じ濃い

黄色の杖である。

「……そんなもの、虚仮威しだッ!!」

 そして、先に動いたのはセイバーだった。ぐぐっと数拍間を呑み込んでから地面を蹴り、

両腕で担いだその剣を振りかぶりながら襲い掛かってくる。

 ガンッ! 互いの武器がぶつかり、鋭く重い金属音が響いた。二撃、三撃、四撃。睦月は

セイバーから繰り出される剣閃を、その杖で巧みに受け止め続けてみせる。

「ふん……。剣を杖に変えようが問題ない。忘れたか? 私の剣は、触れるだけでお前から

力を吸い取っていく」

「ああ。だから、僕はこの姿を選んだんだ」

「何──?」

 次の瞬間だったのだ。あくまで不敵に鍔迫り合う睦月の一言に、セイバーが怪訝に兜の奥

の眼を光らせた。するとどうだろう。それまで濃黄の棒切れでしかなかった睦月の杖が、急

激にエネルギーを蓄えて発光し始めたのである。

 勿論、セイバーの剣はその力さえも吸収しようとした。同じくこのエネルギーを吸い込ん

で激しく発光する。

 だが睦月の、ジィブラフォームのそれは、セイバーの能力を一瞬にして凌駕した。

 力の飽和、剣と自らに流れ込む膨大なエネルギーの奔流。ゼイバーが拙いと気付いた時に

はもう、彼が誇る宝剣は自ら爆発してしまったのである。

「があッ……!?」

 爆発の衝撃で吹き飛ぶセイバー。全身にはまだ電撃の余韻がバチバチと残り、身体の自由

が利かない。

 そんな目の前のアスファルトの地面を、ガランと圧し折れた刃が転がっていった。他なら

ぬ彼の吸収剣の刀身である。

「な、何が起きたんだ?」

「なるほど。そうか……そういう事か」

『ふふん。そうです。イエローカテゴリはエネルギー出力に特化した子達。その力を百二十

パーセント引き出す黄の強化換装は、守護騎士ヴァンガードの中でも最大の火力を発揮することができる

んです』

「吸収するってことは、きっとその限界量がある筈だと思ったんだ。だから剣をかわそうと

するんじゃなく、真正面からぶつかった。相手の吸収限界さえ超えてしまえば、その能力も

破れる筈だって」

 仁が驚き、冴島がややあって理解する。音声越しに胸を張るパンドラと共に、睦月は尚も

迸る電流の杖を手に語っていた。その為の強化換装。事実作戦は大成功だった。

「……お。おのれぇぇぇッ!!」

 ふらふらと立ち上がり、あちこちが焼け焦げた身体で叫ぶセイバー。

 だがもう、そこに強者の風格はなかった。睦月はサッと左手をかざして磁力を操ると、彼

の傍に落ちていた折れた剣の柄を手繰り寄せる。はしっと受け取って、一瞥を寄越すとその

まま後ろに投げ捨てた。

 怒り狂って襲い掛かってくるセイバー。しかし吸収剣を失ったこの敵に、もう恐れる要素

はなかった。睦月は突っ込んでくる彼を懐に巻き込んで体勢を崩してやりながら、電撃迸る

杖を二度三度と打ち込む。ふらつき、尚も殴りかかってこようとする彼に、放電の瞬間移動

で翻弄しながら、右に左にと反撃を加える。

 あがっ……。ごろごろと地面を転がり、セイバーは這う這うの体だった。何とかして起き

上がろうとするその後ろ姿を見つめながら、睦月は腰に下げたEXリアナイザを持ち上げて

コールする。

「チャージ!」

『PUT ON THE ARMS』

 杖の真ん中に据えられたコネクタにEXリアナイザを挿入し、大きく両手で杖を旋回させ

ながら頭上に掲げる。その速さを増していく回転と共に、周囲にはバチバチッと電撃の大玉

が幾つも生まれ始めた。ようやく力の入らぬ身体を起こし、セイバーがハッとなってこれを

見上げている。頭上で回す杖と電流は辺りを激しく染め上げていた。くわっとフルフェイス

の眼が光り、睦月は必殺の一撃を発動する。

「どっ……せいッ!!」

 回転の勢いのままに杖を振り下ろし、電撃の大玉が一斉にセイバー向かって襲い掛かって

いった。最早避けることも叶わず、彼は次々に飛んでくるこの攻撃を只々火花を散らしなが

ら喰らい続けることしかできない。

 そして、更に駄目押しの一発が飛び込んできた。大玉達に隠れて助走をつけた睦月の強烈

な突きが、セイバーの身体に深く突き刺さったのだ。

 ガッ……?! 大きく仰け反るセイバー。その杖には尚も電撃と化した大量のエネルギー

が宿っている。その抱え切れぬ膨大な破壊力は、やがてこの異形の全身を瞬く間にひび割れ

で覆い尽くしていき、刹那爆発四散させた。

「こんな、筈では。私は、まだ何も──」

 断末魔。何か未練を伝えかけた声も、爆ぜ飛んだ轟音の中に掻き消される。

 眩しいほどに広がっていた雷光が、一斉に消え失せていった。場にはトンと着地する強化

換装姿の睦月と、めいめいにガッツポーズする仁ら仲間達の姿。

 ……リセット。数拍撃破の余韻で突っ立っていた睦月が、ゆっくりと頬元にEXリアナイ

ザを持ってきてコールした。直後変身は解け、彼はそのままどうっと地面に仰向けになる。

 睦月! 睦月君! 仲間達が駆け寄って来る。睦月はぐったりと襲ってきた疲労のまま動

けず、ただ皆に囲まれるがままにされた。

「はあ……。疲れた」

 やはり強化換装このちからは反動が大きい。どっと疲労が押し寄せてくる。

 だが一方で安堵があった。それは目下の敵を、天満の仇を討てたことであり、初夏の夜に

冷えたアスファルトの地面の温度もまた、手伝っていた筈だった。

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